【英語】「仮定法」なんて無かったら
学校英語は好きだったし得意ではあったのですが、
それでも文法は難しいと感じることが多かったです。
特に謎なのは「仮定法」でした。
実は僕たちが知っている「現在形」や「過去形」などは、
「直説法」という「法」の中の世界だったのですが、
「直説法」という名前を教わらずに、いきなり「仮定法」という言葉を学ぶ。
それなのに、実際は「(直説法の)過去形や過去完了形を使います」と言われて、何が何だかよく分からない。
英文法がなぜ学びにくいのかは、
突き詰めれば、義務教育で英語が教えられているからかもしれません。
指導要領は文科省が作っているので、
それに合わせて、古い教え方がずっと続けられることになる。
ところで、僕は、13歳の時にNHKのラジオ講座を聞きながら、
独学でスペイン語の勉強を始めました。
当時、学校英語ではまだ不規則動詞の過去形を学んでいた頃です。
ラジオ講座は半年で初級文法を終わらせるため、物凄い進度でしたが、
それでも、直説法や男性・女性名詞、再帰動詞、接続法(英語の仮定法に相当)と言った文法も理解することができました。
大人向けの講座なので、
特に誰かに忖度することなく、ありのままの文法を教えることができたからかもしれません。
語学の学びやすさは、活用の多さや文法の複雑さではなく、
「いかに教えられるか」が大事なんだなと実感したときでした。
さて、日本では仮定法過去はどうやって教わるでしょうか。
これは正確ではないです。
「仮定法」というのは動詞の変化の形の1つで、反実仮想を表現するための
「構文」じゃないんです。
あと、「仮定法過去」の部分は「if」から「コンマ」までの部分(「if節」)だけです。「would」で始まる後半部分は仮定法ではありません。
「would/could + 動詞の『原形』」とあるように、動詞は変化していませんよね。仮定法は動詞の変化形の1つなので、この部分は仮定法じゃないんです。
この説明を見て疑問に思うことがあります。
①「動詞の過去形」という形を使うなら、なぜ「仮定法」という言葉を使うのか。
②「仮定法」という言葉を使うのなら、なぜ「仮定法過去は直説法過去と形がほぼ同じだが、本当は全くの別物」と説明しないのか。
僕の考えでは、
「動詞の過去形」という言葉を使うなら、「仮定法」という言葉は不要。
「仮定法」という言葉を使うなら、「動詞の過去形」での説明は不要。
だからです。
①の回答は恐らく、指導要領に「仮定法」を教えると書いてあるから。
②の回答は恐らく、「直説法」という概念を知らない学生にいきなりそんなことを言っても、混乱するだけだから。
②については、中学生を見くびりすぎな気もします。
僕は中2でスペイン語の接続法を理解できましたし、
中学生の知力ってそんなに低くないと思うんですよね。
もちろん、得意不得意はあるので、理解力に個人差があるのは確かですが。
だからと言って、今の教え方が分かりやすいかと言うと……。
英語の英文法教材では、仮定法過去はどう教えられているのでしょうか。
実は、教えられていないんです。
どういうことかと言うと、
「条件文」(conditional sentence)というカテゴリーの中で学ぶんです。
そしてその条件文は、『話し手』が事実だと思っているかどうか、という、話し手の主観的な判断基準で、次の「4つ」に分けることができます。
①第0条件文 ➡ 一般的な法則、確実な事実
作り方:if 節➡現在、主節➡現在
(過去の出来事の場合は、if 節➡過去、主節➡過去)
If you heat ice, it melts.
(氷を熱すれば、溶けます)
②第1条件文 ➡ 話し手が「確実に起きる」と考える未来の状況
作り方:if 節➡現在、主節➡ will + 動詞の原形
If I study hard, I will pass the exam.
(一生懸命勉強すれば、試験に受かるでしょう)
③第2条件文 ➡ 話し手が「事実じゃない」「起きそうにない」と思っている現在または未来の状況
作り方:if 節➡過去、主節➡would + 動詞の原形
If I studied hard, I would pass the exam.
(一生懸命勉強したら、試験に受かるだろうに)
④第3条件文 ➡ 話し手が「事実じゃなかった」「起きなかった」と思っている過去の状況
作り方:if節➡過去完了、主節➡would have+ 過去分詞
If I had studied hard, I would have passed the exam.
(一生懸命勉強していたら、試験に受かったろうに)
「第0条件文」という少し変な始まり方ですが、
これは、第0条件文は第1~3条件文と違って、
① if 節と主節の時制が同じ(if 現在、現在 あるいは if 過去、過去)
②主節に「will」が使われない
ため、敢えて「第1条件文」としなかったのだと思います。
こうすることで、第1~第3条件文は、きれいに対照的になるんです。
この整理法の良いところは2つあります。
1つは、「事実の度合い」によって、どの条件文を使えば良いかが一目瞭然であること。
2つ目は、こちらがもっと重要な点ですが、
「仮定法」という言葉を使わないで説明できることです。
この整理の仕方、すごく分かりやすくありませんか?
なお、「will」や「would」の部分は、他の助動詞でも代替可能です。
ちなみに、「仮定法(subjunctive)」という言葉が出てくるのは上級になってからのことで、
しかもそれは、日本の学校英語ではほとんど習わない「仮定法現在」という項目を習うときに出てきます。
He suggested that we not come to the conference.
It is important that the war be prevented.
これは「仮定法」という名前とは裏腹に、「命令」や「提案」「要求」を表す動詞や形容詞等とともに使われる動詞の変化形のことなので、「条件文」に整理することができなかったのだと思います。
でもこの「仮定法現在」の動詞の変化形は、実は「動詞の原形」と全く同じ形をしています。新しい変化形は事実上、一切学びません。
ということは、この文法事項でさえも、「仮定法」という言葉を持ち出さなくても説明できてしまうんです。
suggest that + 動詞の原形
it is important that + 動詞の原形
つまり、日本の学校英語は物凄く中途半端な立場をとっているわけです。
「仮定法」という言葉を使いたいのなら、ゴリゴリに文法重視で、文法的に正確な説明をすれば良い。
「仮定法過去形は、話し手が自分の発言内容を事実だと思っていない、あるいは実現しそうにないと思っている時に使われる変化形。ただし、その変化形は『were』を除いて全て直説法過去形と一致する。
反実仮想の文は次のような構文で表現できる。
『If +仮定法過去、条件法現在』」
それか、「仮定法」という言葉を一切使わないで、
「条件文には4種類ある。そのうち、話し手が事実だと思っていない、あるいは実現しそうにないと思っている現在や未来のことを話す際には
『If + 動詞の過去形, would + 動詞の原形』
という形を使う」
と教えることもできます。
前者の教え方はとても古典的な教え方で、ラテン語とかフランス語なら分かるのですが、
これだけ変化形が単純化し「変化しない変化形」の方が多い英語の文法を教えるのなら、
後者のように、抜本的に捉え方自体を変え、そもそも「仮定法」という用語自体を使わない方が効果的だと思います。
私も、英語で書かれた英文法の説明を読んだときに初めて、
「英語の文法って、こんなに分かりやすく説明できるんだ」
と目から鱗が落ちたのを覚えています。
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このように、学校英語の英文法が難しいのは「人災」である面が強いと僕は思います。
ですが、これは英語が義務教育で必要であり、大学受験の試験科目に入っている以上、仕方ない運命だと思います。
日本人の、日本人による、日本人のための英語力試験ですから……。
そして日本人全てが学校英語を学んでいるため、大人向けの教材も、学校英語の教え方の枠の中で文法を説明しているものが多いです。
つまり、学びにくい、というわけです……。
「仮定法」という用語を日本の英語業界から駆逐できた人物は、
きっと歴史に名を残すことでしょう(これは「第1条件文」です)。
本当に不甲斐ない気持ちで一杯ですが、英語は大人になってから、学んだことは一度リセットして、もう一度学び直すのをおススメします。
できれば、日本人ではない人が、学校英語の束縛とは無縁の立場の人によって書かれた、文法書で学び直すことを。
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