【試訳】独島イン・ザ・ハーグ【5】
第三章 四月の歌(사월의 노래)
「最近国連安保理常任理事国になった、いわゆるG4の日本、ドイツ、ブラジル、インドの代表への特別インタビューシリーズ、第2回の今日は、日本の総理にお越しいただきました。こんにちは、松岡総理」
「お目にかかれて光栄です」
CNNのロゴが刻まれた画面上で、東洋系アメリカ人とみられる女性リポーターが、青いネクタイを締めた松岡総理と向かい合って座っていた。
「東京に来たのは10年ぶりなのですが、スカイラインが見違えるほど華やかになりましたね。日本が長期の不景気を克服しつつあるという印象を受けました」
カメラは二人の間の窓から見えるお台場のスカイラインを暫く映していた。
「おっしゃるとおりです。日本は第2の全盛期に向けて、久しぶりに快調に走っています。
最近3年間で、我が国は、敗戦後最高の輸出増加率を見せました。各種の国家競争力指数も米国に続き2位に達しました。今年は過去20年で最高の経済成長率を記録する予定です。今後も伸びが期待されます」
松岡総理の顔と口調は、いささか傲慢に思えるほど自信に満ち溢れていた。
「かつての日本に対する批判の1つが、日本は政治が脆弱だというものでした。ですが、最近は日本が安保理常任理事国になる ことで、国際舞台で政治的プレゼンスが大きく高まりました。日本の常任理事国入りを、改めてお祝い申し上げます」
「ありがとうございます。私の公約を達成することになり、非常に嬉しく思います。日本国民の皆様と、他国の支持のおかげです」
「今、他国のおかげというお話がありましたが、今回、安保理常任理事国になる際にも、日本に最も近い国である中国や韓国からは支持を得ることができませんでした。
未だに歴史問題が足を引っ張っているわけですが、この問題はこれからどのようにして克服していくお考えですか?」
「歴史問題は既に終結して久しいものです。日本は既にかなり前に、被害国を1つひとつ訪れて、多額の賠償金を支払い、国交正常化条約を締結しました。
これにより、法的責任は全て果たしたわけですが、日本は、その後も今に至るまで、天皇陛下や総理等が、 ことあるごとに過去の歴史について謝罪をしてきました。
今でも我々日本は、過去に隣国に被害を与えたことに対して、心から申し訳なく思っており、二度とこのようなことが起きてはならないと考えています。
にもかかわらず、中国や韓国のような国々は、あたかも日本がこれまで一度も謝罪をしなかったように、まるで日本から巨額の賠償金を受け取ったことがないかのように、はるか昔の歴史問題で日本を絶えず攻撃し、恥をかかせているのです。
中国や韓国が被害者意識を有していることは理解しますが、そうだからと言って、日本が永遠に不当な攻撃を受けなければならないというのは、不当だと考えます」
「日本は、中国、ロシア、韓国と歴史問題以外に領土問題も、未だに現在進行形であると承知しているのですが、この問題はこれからどのように解決していかなければならないとお考えですか?」
「北方領土、尖閣諸島、竹島は、すべて国際法的に日本の領土であることが明白です。日本はアジアで最初に国際法に目を開き、国際法を徹底して遵守してきたからです。
幸い尖閣諸島は日本が守っていますが、北方領土や竹島は、日本が直ちに取り返さねばならない領土で あり、私は任期内に必ず取り返す考えです。
領土問題は歴史問題とは別個の法律問題です。法律問題は、法に従い解決すれば良いものですよね。ですから、国際司法裁判所で裁判を受ければ良いのです。
にもかかわらず、韓国は説得力のない論理で裁判を避けているだけでなく、大統領が竹島を訪問し、竹島を対象にした軍事訓練を拡大するなどして、日本を刺激しています。
日本が黙って見ているのは、韓国よりも力が弱いからでしょうか? 北東アジアの平和のために耐えているのです。
しかし、日本も我慢には限界があります。韓国が引き続きこのように日本を刺激するのであれば、日本も韓国と同様にするほかありません」
「つまり、日本も軍事訓練を行い、総理が竹島を訪問するということですか?」
「竹島の主人は日本なのですから、そうして当然でしょう」
松岡総理のこの言葉に、壁に掛かったテレビを見ていた外交部国際法局領土海洋課のペ・サンヒ次席が席から急に立ちあがった。
「日本の総理がCNNに対して、独島軍事訓練を行い、独島を訪問するつもりだと挑発するなんて。反響が凄いことになるぞ。ああ、また忙しくなるのかぁ。黙って見ていたら日本が一線を越えてきやがったよ」
すると、アン・ジョンエ課長が席から立ちあがり、テレビの前へと出てくると、ペ次席を横目で睨みつけた。
「我々が黙っていたからではなく、黙ってなかったからでしょう。日本も、耳があり、口があり、自尊心のある、欠けたところのない国なのよ。我々が攻撃すれば黙っているわけがないじゃない。
これは全て、我々の強硬的な対応、 感情的な対応のせいなのよ。これまで我々が強気に対応して、今我々が実利的に手にしたものは何? かえって日本の挑発レベルを上げただけじゃない。
得られたのは、独島問題によって右翼が日本国内で影響力を拡大するという災いだけよ」
「ですが、日本が、独島は自国領だと全世界に触れ回っている中、我々が黙っているわけにはいけませんよ」
「どうしていつも、必ず何かをしなければと考えるのよ? へたに動いて状況を更に悪化させることよりも、いっそ黙っている方が良いときもあるじゃない。
もちろん、日本がある国に独島が日本領だと広報すれば、我々も広報することはするわ。でも、日本が広報したからと言って、直ちに独島の地位が危ぶまれると考えるのは、焦りすぎも良いところよ。
どの国も、韓国を敵に回してまで日本の肩を持つほどに間抜けじゃない。基本的に、世界の人々は独島がどっちのものかも知らないで、特に関心もないの。
我々が他国を訪れるたびに独島が韓国領だと広報して回れば、特定宗教を妄信する信者たちが、家々を訪ねて、関心もない自分の宗教を信じろと布教しているように見えるのよ」
「ですが、国民たちが不安がっているのですから、我々も何かしているところを見せなければいけないでしょう」
「公務員はカウンセラーって言いたいわけ? 我が国の一部の敏感な人々の正常じゃない不安をなだめるために、莫大な血税と労力を投入して、 全世界に出かけて、狂信者のように何の効果もない広報をして回らなければいけないというのは、公務員としての私の良心に反しているわ」
「政府が日本に対して怒り、声を上げることを国民が願っているのなら、公僕たる公務員はそれに従って行動することが、公務員の道理であり、民主主義の原理にかなうものではありませんか?」
「日本のせいで腹を立てることは当然でも、その怒りを常に相手に対して爆発させることが賢明なことだとは思わないわ。
日本への憤りに駆られてする行動だからと言って、常に愛国を保障するものではないの。誰であったって怒るわ。
だからこそ、日本の大衆は韓国を嫌がり、在日の同胞は一層の差別を受け、韓国を訪れる日本人観光客数は減り、韓国企業や芸能人が日本へ進出するこ とができなくなっても、それは何の関係もないことなのかしら?
興奮しやすく、自分の感情を表に出しやすい人は、常に自分の感情こそが国民感情を代表しているのだと錯覚しがちだけれど、落ち着いて、最善を尽くそうと悩み、口をつぐんでいる国民も多いのよ。
私も1人の国民として、我が国の政府が賢く巧みに日本を利用し、日本から利益を勝ち取るべきだと思っているわ。日本が悔しくて歯ぎしりするくらいにね。それが最善の復讐のやり方よ」
「課長みたいに、ということですか?」
アン課長はペ次席を横目で見据え、冷たく睨みつけると、話を続けた。
「賢明な国民と気まぐれな大衆は区別するべきだわ。大衆が願う通りにすれば良いのであれば、どれほど簡単なことか。事案ごとに世論調査で51パーセント以上を出す政策を押していけば良いだけじゃない。
それから、大衆が事案の複雑な事情をすべて知っていて、時間をかけて悩み抜き、慎重に判断するとでも思っているの?
個々の国民が全ての事案を1つひとつ専門的に知ることが難しいからこそ、公務員がいるわけじゃない。たとえ政府が一時は国民から罵られようと、国益に資するなら押し通すのが愛国であり、公務員の使命ではないかしら」
「そうすれば、政府が国民とコミュニケーションができていない、官僚たちが自分たちの利益ばかり着服しようとして話を聞かないという非難を受けませんか?
政策の長所と短所を国民にしっかりと説明し、それでも国民がある政策を望むのなら、それを実現させることこそが、全ての権力は国民に基づくという憲法の理念に忠実だと言えるのではないでしょうか?」
「大小の政策はとても多いけど、その内容をどうやって一つひとつ大衆に説明するのよ?
説明をしても、メディアが記事を書かないと大衆に伝わらないのに、メディアはそんな退屈で複雑な説明を載せてはくれない。
高官の誰かが失言をしただの暴言を吐いただの、誰々と仲が悪いとかいう話を伝えるので忙しいでしょう。そうでなければ、単純な枠組みにはめて簡単に非難してしまったり。
非難なんて誰だってできるわ。勉強が別にできなくても、簡単にできるのが非難よ。
全ての人が満足する欠点のない政策なんて、イエスさまやお釈迦さまでも作れやしないわ。あらゆる問題点があっても、一歩でも前に進めていくことこそが、 本当に素晴らしいことじゃない」
「メディアのそういうところも理解できなくはありませんよ。最近、メディアが経済的に厳しくなってきていて、クリック数に敏感にならざるを得ないんです。昔のようなら、スポーツ新聞にしか出なかった記事が、一面を飾っているじゃありませんか」
突然、ペ次席が後ろに座っているドハを引きこんだ。
「なあ、イ事務官。君はどう思う?」
突然質問を受け、ドハは驚いた表情で起き上がり、アン課長とペ次席を交互に見つめた。
「はい? な、何をですか?」
アン課長は舌打ちをし、ドハを面と向かって怒鳴りつけた。
「一体どこをよそ見していたの? 日本の総理のインタビューも見ていなかったわけ?」
「少し考えごとをしていまして・・・すみませんでした」
ドハは、仕事をしながらも耳は常に澄ましておけと言った先輩の助言を思い出した。
課で課長が電話を受けて話している話や、他の職員がひそひそと話す話も、全て盗み聞きしなければ、慌ただしい外交部の生活に目ざとく適応することはできないというものだっ た。
しかし、一度に2つや3つの仕事に関心を持つことがうまくできないドハにとっては、その助言を実践するのが非常に難しかっ た。
だからかもしれないが、外交部に入ってから3年が過ぎたものの、ドハは未だに新米研修生のように、外交部の生活に慣れていなかった。
在日同胞の娘として日本で中学校卒業までを過ごしたときのように、韓国籍に変えて韓国で高校と大学に通ったときのように、今でも自分がよそ者のように感じられた。
外交官が初めから誰に対しても如才なくふるまうことを要求される職業だという点もドハは苦労した。
外交はもちろん、 政治、経済、法律、文化まで等しく知らねばならないため、一日の間にも、国内新聞、日本の新聞、アメリカの新聞を毎日読まなければならない。
少なくとも3、4か国語に精通するためには、粘り強く語学学校に通って勉強をしなければならない。
外国の相手と交渉をすればよいだけではなく、国会やメディア、大統領府、その他の関連部署にも悩まされなければならない。
明け方まで残業をしたり、週末に突然呼び出され働かなければならないことは日常茶飯事だ。
急に重要な仕事が随時発生する一方で、人手不足は深刻で、それでも仕事を早急に処理しなければならない。
自分の仕事をしながらも、テレビのニュースや課で課長や他の先輩の話にも 耳を傾けなければならない。こういった点で、同時に様々な仕事がこなせず、思考や動作が速くはないドハは、自信を持てず、落ち込んでいたのだ。
「あなた、ちょっとは反省しなさいよ」
アン課長は「魔女」というあだ名にふさわしく冷たく叱ったが、ドハの頭の中は父に対する心配で一杯になっており、気分を害する暇もなかった。
国際ペンクラブ会議に出席するために日本へと発った父が、2日前にメールを1通送ってきたきり、連絡が途絶えてしまったためだ。
父のメッセージには、何の説明もなしに、携帯のカメラで撮影した楽譜の写真一枚だけが添付されていた。 父が一番好きな歌「四月の歌」の楽譜だった。
木蓮の花の陰で ウェルテルの文を読み
雲が花咲く丘の上で 笛を吹き
ああ 遠くより発ち来て 名も無き港で 船に乗る
再び訪れた四月は 生命の灯をともす
輝く夢の季節かな
涙ににじむ 虹の季節かな
何度か電話をかけたが、父はついに電話を取らなかった。
ドハは直前に父から受け取った別のメールを調べてみた。
「世界で一番可愛い女王様、どこですか?」
他の父親は娘を「王女様」と呼ぶが、ドハの父は一段上がって「女王様」と呼んでいた。
「お父さん、どこにいるの? お願い、返事して」
メールを送るやいなや、着信音が鳴った。ドハは急いで電話を取り出した。
【6】につづく
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