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ドイツ語の性は無理ゲー

ドイツ語学習者の永遠の悩みの1つは「性」です。
男性、女性、中性と3つの性があるにもかかわらず、
その振り分けの規則性が殆ど見つからないため
です。

「習うより慣れろ」は語学の鉄則ではあるものの、
一見無秩序に見えるものの中に秩序や規則性を見つけたくなるのは、人間の性なのかもしれません。

しかし、残念ながらドイツ語の単語の性には、規則性を見つけようにもなかなか見つけられません。

今回は、私の考える「ドイツ語単語の性の難しさ」について書こうと思います。

語尾で区別がつかない

「スプーン」は男性名詞、
「フォーク」は女性名詞、
「ナイフ」は中性名詞。

意味と性に全く関連性が思い当たらない
でも、それは性を持つ言語では「あるある」です。

…よろしい。百歩譲って受け入れるとしましょう。
では、せめて「男性」「女性」「中性」を見た目で判断できるような、
特有の語尾はないものか

あるにはあります

「-ist」や「-ant/ent」で終われば男性、
「-ung」や「-ion」で終われば女性、
「-chen」や「-um」で終われば中性。

でも、残念ながら、このような規則は全ての単語を網羅しているわけではありません

男性名詞である「スプーン」の「Löffel」、
女性名詞である「フォーク」の「Gabel」、
中性名詞である「イタチ」の「Wiesel」、

これらは見た目では区別がつきません。

ロシア語など、ドイツ語よりも遥かに複雑な格変化を持つ言語では、
語尾変化で性を区別しやすいと聞きます。
一体、大昔のドイツ語話者たちは、何を基準にして性を振り分けていたのでしょう。
同じくゲルマン系の言語である英語を話していた人たちが早々に性を棄てたのも、何だか分かる気がします。

単複で区別がつかない

例えば、性があるとしても、単数形と複数形で区別ができるなら、まだ学習者の救いになります。

イタリア語とかスペイン語などがそうです。

が、ドイツ語には、「男性っぽい複数形」「女性っぽい複数形」と言ったものが、ほとんどありません

あるにはあります。

女性名詞の複数形は「-n」や「-en」で終わることが多いです。
「姉妹(Schwester)」の複数形は「Schwestern」。
「女性(Frau)」の複数形は「Frauen」。

先ほど登場した「-el」語尾の「フォーク」(Gabel)も、
「2本のフォーク(複数形)」のときは「zwei Gabeln」。
他の「スプーン」(zwei Löffel)や「イタチ」(zwei Wiesel)と区別ができ、「女性」であることが分かります。

中性名詞は、複数形になるときに「ウムラウト+er」になることが多いです。
「Land➡Länder」「Korn➡Körner」「Fach➡Fächer」という感じ。

しかし、残念ながらこれらは必ずしも「女性特有」「中性特有」の複数形の作り方ではないのです。

「母(Mutter)」の複数形は「Mütter」。「Muttern」じゃないんです。
「男(Mann)」の複数形は「Männer」。まるで中性変化みたいですが、男性名詞です。

「Socken」は「Socke」(靴下)という女性名詞の複数形
「Becken」は、「Becken」(たらい)という中性名詞の単数形
(しかも、「Becken」は後述する単複同形の単語……)

パッと見て「あ、これは女性名詞の複数形だ」とは言えず、殆どの場合丸暗記に頼るしかないのがドイツ語の性なのです。

冠詞で区別がつかない

非常に大きな問題です。
冠詞で区別がつかない。

ドイツ語の名詞は「男性・中性グループ」と「女性・複数グループ」に大きく分けられます

どういうことかと言うと、冠詞類の格変化が男性名詞と中性名詞、女性名詞と複数形でよく似ているということです。

似ているというのは、同じ格で同じ形を取ることが多い、ということです。

ということは何が起こるかと言うと、

パッと見た時に、冠詞を見てもその単語の性が分からない

ということが頻発する、ということです。

せっかく汗水流して覚えた格変化なのに、
それが単語の性を判別する目印にならない。
悲しくはありませんか。

例えば、男性名詞と中性名詞。

実はよく見かけるのは3格だったりします
どちらも定冠詞は「dem」、不定冠詞は「einem」ですよね。

2格の格変化も、男性と中性では(弱変化名詞でない限り)同じです。

「そんなの、1格や4格で使われているところを文中で探せばいいじゃない」と思うかもしれません。

が、数えられる名詞は、多くの場合複数形で文中に登場するのです。

そして、名詞が複数形で使われている場合、その性の特定は一層困難になります

なぜでしょうか?

ドイツ語の名詞は、性ごとの違いがあるのは単数形だけで、複数形では格変化は全部一緒になるからです。

しかも、複数形の格変化は、女性(女性単数)の格変化と似ている部分が多いのです。3格以外、全部一緒です。

となると、名詞が複数形になってしまうと、一体どの性の単語なのか、全く見当がつかなくなってしまうわけです。

さあ困った

さらに恐ろしいのが、「単複同形」という名詞の多さです。
「単複同形」とは、読んで字のごとく、単数形と複数形が同じ形をしている名詞のことです。

英語にもありますよね。「sheep」や「means」などです。

英語ではどちらかと言えば例外扱いされる「単複同形」、
実はドイツ語にはそれはそれはたくさんあります。

「1本のナイフ」は「ein Messer」(中性名詞)
「2本のナイフ」は「zwei Messer」。

このように、「-er」や「-el」「-en」で単数形が終わる単語(主に男性名詞と中性名詞)は、
複数形も同じ形をしていることが殆どです。

ですので、

Die Leiden des jungen Werther (若きウェルテルの悩み)

と見て、「die」という定冠詞があるから女性名詞だと早合点してはいけません。

これは「Leiden」という、中性名詞の複数形です。

女性名詞の冠詞「die」と複数形の冠詞「die」が3格以外で全部同じ形をしているがために、性の判別が困難となっているのです。

しかも、これはまだ冠詞や形容詞が付いている場合です。

無冠詞で単語が使われる場合は、格の目印がほぼ消えてしまうので、性の特定が一層困難になります

抽象名詞なら不定冠詞はつかないので、性はおろか、それが可算名詞の複数形なのか、不可算名詞(の単数形)なのかさえも分からなくなります

Ich habe Zweifel daran, dass wir das Genus beherrschen können. 

「Zweifel」は男性名詞で、単複同形。
ここでは「数えられる名詞」として、複数形で使われています。

英語で直訳すると
I have doubts that we can master the gender.

この「doubts」の「s」のありがたみが身に沁みます。


……いかがでしたでしょうか?

複雑な文法を持つ言語にはそれなりの救済措置が備わっているものですが、

ドイツ語の性に関しては、それはほぼ全くありません。

一体ドイツ人の子供たちはどうやって性の違いを習得していくのか。
本当に興味深いところであります。

愚痴ばかり書いていたらすっかり長くなってしまいました。
ここまでお読みいただきありがとうございます!