【ドイツ語】名詞の格変化
ドイツ語学習の山の1つが「格変化」です。
名前からして何だか難しそうですよね。
ここで日本語を考えてみます。
日本語にも「格変化」に似た言葉、「格助詞」というものがあります。
友人のお母さんが先生に手紙を持ってきました。
上の文にある「の」「が」「に」「を」は、文の中で「私」「友人」
「あなた」「プレゼント」と言った言葉がどのような役割を果たすかを示しています。
ドイツ語の場合、日本語のような「助詞」を使う代わりに、名詞が4つの格に応じて変化することによって、文の中における名詞の役割が分かるようになります。
……しかし、ここで注意していただきたいことがあります。
「『名詞』の格『変化』」と言っているのですが、
不思議なことにドイツ語では名詞自体はほとんど変化しないのです。
名称詐欺な感じさえします…。
具体的に見ていきましょう。
以下は男性名詞「Vater(父)」の「格『変化』」です。
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それぞれの格の横にある「が」「の」「に」「を」はあくまで目安です。
日本語の格助詞は4つ以上あるので、これ以外にも対応する助詞がありますし、ドイツ語の格と日本語の格助詞の役割は必ずしも一致しません。
さて、単数と複数で「Vater」「Väter」と形が違いますが、これは単数形と複数形の違いで、格の違いではありません。
よくよく見ると、単数形の2格と、複数形の3格だけが他と違いますね。
この「s」や「n」が格変化の語尾と呼ばれるものです。
逆に言えば、他の部分については名詞だけを見ても格が分からないのです。
ただ、格の違いは目に見えないだけで、文脈で特定できることも多いです。
次は女性名詞「Mutter(母)」の「格『変化』」です。
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「Mutter」と「Mütter」の違いは、単数形と複数形の違いです。
驚くことに、複数3格以外は全部形が同じなんですね。
「母が」は「Mutter」、「母に」も「Mutter」です。
一応、中性名詞「Kind(子ども)」の「格『変化』」も見てみましょうか。
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これも同じく、単数形(Kind)と複数形(Kinder)の違いを除けば、格変化の語尾は単数2格と複数3格にしかつかないのです。
これは「格変化がある言語」にしては珍しいことです。
ロシア語やラテン語など、格変化のある他の言語の場合は、名詞の語尾が格に合わせてしっかりと変化します。
試しに、ラテン語の格変化を少しだけ見てみましょう。
ラテン語には6つも格があるのですが、ドイツ語に合わせてそのうちの4つだけ紹介します。
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上の表では母音の長短を省略しているので正確ではありませんが、いかにラテン語の名詞の「格変化」が変化に富んでいるかが分かると思います。
繰り返しになりますが、ドイツ語の名詞にはこのような変化はないのです。
しかし、ドイツ語の名詞にも格は存在します。
では、名詞の形からは見分けられない格をどう「見える化」するのか?
そこで登場するのが、「冠詞」や「形容詞」といった他の品詞です。
そのため、通常、ドイツ語で「名詞の格変化」を勉強する際には、
実際には「冠詞の格変化」などと一緒に勉強するわけです。
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なぜ「ドイツ語の名詞には格があるが、違いはあまり見えない」をなぜここまで強調してきたのかと言いますと、
「名詞の格変化」を「冠詞の格変化」と一緒に勉強してしまうことによって、「冠詞を付ける癖が抜けなくなる」ためです。
世の中には、格はあるけれど冠詞のない言語は多くあります。
先ほど挙げたロシア語やラテン語も格変化はありますが冠詞はありません。
ドイツ語のように冠詞がある言語は、
冠詞をつけたり、つけなかったりができるのです。
これは英語と同じです。
当たり前と言えば当たり前かもしれません。
しかし、ドイツ語の場合は、「格変化」を冠詞等と一緒に覚えるあまり、
本当は冠詞をつける必要がない、あるいはつけてはいけない場合でも
冠詞をつけてしまう癖が抜けなくなります。
この癖は、英語よりも取り除くのが難しいのではないかと思います。
また、繰り返しになりますが、
「格」を持っているのは「名詞」です。
冠詞や形容詞は、名詞の格に「合わせて」変化しているだけで、
それ自体には格はありません。
つまり、冠詞や形容詞がなくても、名詞は格を持っているし、ちゃんと格を表しているのです。
目には見えないだけで……。
「名詞の格変化」を勉強する時には、是非上の点を念頭に置いていただければ幸いです。
繰り返しになりますが、ドイツ語の名詞の格変化自体は決して複雑なものではありませんし、冠詞は常に名詞につける必要はありません。
ここまでお読みいただきありがとうございました!