【試訳】独島イン・ザ・ハーグ【22】
第7章
つがいのサンソクウ
삼족오 한 쌍
コンプロミーの締結後、実務チームは本格的な訴訟準備に取り掛かった。
毎朝訴訟戦略会議を開き、訴訟と関連するあらゆる問題を議論した。
国際法、歴史学などのセミナーを開き、争点に対する意見を交換した後、専門分野別にチームを分け、ICJに提出する弁論書の草稿を作成した。
いざ着手してみると、問題は山積みだった。
まず、10名前後の外国の有名なカウンセルの大部分が日本チームへの参加を表明し、日本チームに参加しない場合も、既に以前から独島問題について日本政府への諮問を行ってきたため、韓国チームへの参加かができないと伝えてきた。
これまで韓国は、独島問題で訴訟を行わないという立場であったため、カウンセルと前もって交流をしておく必要性を全く感じていないかった。
その一方で、以前から訴訟をしたがっていた日本は、数十年前から有能なカウンセル候補を自分の味方にしてきたというわけだ。
韓国チームへの参加に応じたカウンセルはせいぜい1、2名だったが、彼らは評判の落ちた人物だった。
やっとの思いで彼らを呼びはしたものの、事実上の訴訟準備は実務チームでこなさなければならない状況となった。
実務チームのチームワークも芳しくなかった。
彼らは各々専門家であったため、自分が一度提示した意見を撤回したり変更したりすることがなかった。
不必要に論争が激化し、感情をむき出しにした喧嘩に発展するのは日常茶飯事。
喧嘩の当事者たちは、会議が終わった後も、暫く感情が収まらず、裏で陰湿に違いを非難しあったりした。
そうこうしているうちに、途中でもう無理だとチームを出て行くケースも現れた。
説得力に欠ける見解を主張する人ほど自分の立場を固持して譲らない一方、合理的な人は、自分の意見が間違っているかもしれないと謙遜し、結局は説得力の弱い意見が通ることが幾度となくあった。
組織や出身によって立場が分かれることもあった。
外交部職員は、検事や国内弁護士は国際法を知らないと蔑ろにし、検事や国内弁護士の方は、外交官は訴訟経験がないと蔑ろにした。
学者たちは、公務員が学問的基礎もなく、どんなことでも思いつきで話すと蔑ろにし、公務員たちは、学者は責任感がないと言い、いざ蓋を開けてみると自分のわずかな専門分野以外にはロクに物を知らないと皮肉った。
外交部のOBたちは、後輩たちは礼儀がなっていないと言い、後輩たちの方は、OBが誤った主張をするものだから、もうこれ以上黙ってただ首を縦に振っていれさえすればいいのに、とため息を漏らしたのだった。
ことあるごとに意見の衝突が起こり、進捗が遅くなると、多くの人が、食事の席で、いっそのこと優れた人物1、2名が、 全決定を下して弁論を準備した方がずっと楽だ、と不平を言うようになった。
だが、互いに対する非難の度合いが上がる一方で、 言い争いに巻き込まれるのを恐れ、自発的に物事を進めていこうという人は次第に少なくなっていった。
ソン・チーム長には、このような問題を収集しチーム・メンバーたちをまとめ上げる能力がなかったため、問題が改善する希望も見えなかったのだった。
ウンソン、ドハ、ソジュンは、暇を見つけては暗号解読の作業にも勤しんだ。
日課を終えた夜、休憩室近くの空き部屋で、ウンソンが、見つけた資料を紹介した。
「まず、足が三つある『サンソクウ』をインターネットの百科事典で調べたんだが、こんな説明が見つかったぞ」
太陽が空を渡っていくことから、太陽を鳥類と結びつけた話はエジプトや韓国の高句麗の壁画にもその例を見出だすことができる。中国・漢代の書物である『春秋元命包』は、太陽は『陽』であり、数字の三は陽数であるため、太陽で暮らすカラスの足は三本だと分析している。
「この前『太陽の姉弟』が出てきたと思ったら、『サンソクウ』も太陽と関係があったんだ。
『サンソクウ』の『ウ』の字の方も注意深く調べてみたんだが、これは『カラス』の『烏』の字だ。
インターネットの漢字字典を調べてみたら、関連語に『烏兎』(うと)ってのがあったんだ。これも見てくれ」
烏兎:太陽の中に三本の足が生えた烏が住んでおり、月の中には兎が住んでいるという伝説に由来する、太陽と月の別称。
「ここにも『三本足のカラス』、つまり『三足烏』(サンソクウ)が出てくるだろう? 『烏』の字はカラスを意味することもあるが、ヤタガラスを意味することもあるってわけだ。
『つがいのサンソクウ』を探すために『烏』の字を対で用いる単語を探し始めてみたら、とうとう見つけたんだ。
『烏』の字を対で用いる単語はたった一つだけ。ずばり『延烏郎細烏女』(ヨノラン・セオニョ)だ」
「ヨノとセオ?」
ドハとソジュンが同時に聞き返した。ヨノとセオの物語は既に広く知られた説話だった。
***
新羅時代、日本海(トンへ)に面した海岸に、ヨノとセオという夫婦が暮らしていた。
ある日、ヨノが海へ出て海藻を採っていると、突然岩が現れ、ヨノを乗せて日本へ行ってしまった。
岩に乗ってきたヨノを見て、日本人たちはただならぬ人間だと考え、ヨノを王にした。
夫 が戻ってこないのを訝しがったセオは、岸辺をくまなく探すと、夫が脱ぎ捨てた靴を見つけた。
セオは声を上げて泣き、夫の名前を恋い焦がれて呼んだ。すると岩が現れ、セオはその岩に乗って日本に渡ってヨノと再会し、2人は幸せに暮らしたのだった。
しかし、ヨノとセオが日本に行ってしまったとたん、新羅では太陽と月が輝きを失ってしまった。
驚いた新羅王が、太陽を司る官吏である日官を呼び、その理由を尋ねたところ、日官は、「我が国に太陽と月の精気が降臨し、人に姿を変えたのですが、その二人が日本に渡って行ったために、このような変化が起きたのです」と答えた。
その言葉を聞いた新羅王は、日本に臣下を送り、 ヨノとセオに新羅に戻ってきてほしいと頼んだ。
しかし、ヨノはその臣下に絹織物を差し出し、次のように言った。
「私がこの国に来たのは天の意志であるので、戻ることはできませぬ。されど、私の王妃セオが織った絹織物があるので、これを持ち帰り、天に対して祭祀を行えば、全て元どおりになるでしょう」
王がセオの織った絹織物で天に祭祀を行うと、果たして太陽と月が本来の輝きを取り戻した。
これ以降、王は、天に対して祭祀を行った場所を「太陽を迎える」という意味で「迎日県」(ヨンイルヒョン)と名付けたが、これが今日の浦項(ポハン)の迎日(ヨンイル)湾の由来となったのだ。
***
「つまり、暗号に出てくる『つがいのサンソクウ』とは、ヨノとセオの夫婦だったってわけだ。
太陽の姉弟、つまり首露(スロ)王の行方不明の王子と王女である先見(ソンギョン)王子と神女(シンニョ)も、ヨノとセオのことだったのさ」
ウンソンがそう断言したのに対して、ソジュンが疑問を投げかけた。
「ですが、ヨノとセオは伽耶人ではなく新羅人ですし、姉弟じゃなく夫婦じゃありませんか?」
「ヨノとセオが新羅人だからといって、伽耶人じゃないと言うことはできないでしょう。
伽耶は新羅に吸収されたのだから、伽耶人 のことを新羅人と呼んでも間違っているとは言えませんよ。
話が伝わっていく中で、姉弟が夫婦へと脚色される可能性も充分にあるでしょう」
ドハも、考えてみればみるほど、ヨノとセオと首露王の子供たちとの関係性を信じるようになった。
「言われてみれば、首露王の子供たちとヨノとセオの夫婦には類似点が多いわね。両方とも男女のペアだし、両方とも日本に渡って行ったし、両方とも太陽と密接に関係しているもの」
【23】へつづく
【画像】AC