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曖昧な英語

それぞれの言語に分かりにくい文はありますが、仕事柄英語に触れる機会が多いため、英語を読んでいて「ん?どっちだ?」となることが多々あります。

その多くは、コンマの有無(恐らく英文法的には不要だけれど、あった方が格段に読みやすい)や、性の不存在と言うものが原因ではないか、と思います。

英語はフランス語やドイツ語に比べてかなり単純化された言語です。
だからこそ、色々な解釈の可能性が出てきて、複雑な文になればなるほど、意味が一つに定まらないことも多いです。

ですが、ここではごく短い例を紹介しようと思います。

英語の不具合

the apples and the bread I bought this morning

さて、確実に「私」が買ったのはどちらでしょうか。

正解は、「bread」です。もし、リンゴだけ買ってパンを買っていないという場合は、こういう書き方はしないで、

the apples I bought this morning and the bread

と書くと思います(個人的には「, and the bread」とコンマをつけたい…)

この短いフレーズの悩みどころは、
「私は、リンゴとパンの両方を買ったのか、それともパンしか買わなかったのか」です。

これ、英語だと分からないんです。

英語って、「who」や「which」「that」など、関係代名詞にはレパートリーがあるのに、「単数」と「複数」で使い分けませんよね。

しかも、上の文では、関係代名詞すら省略されています。

それはそれで文は作りやすいんですが、意味を限定する目印が少なくて、曖昧になる危険性を孕んでいます。

例えば、これはフランス語やドイツ語ではどういうかと言うと、
そもそもこういう両義的な文は書けないのです(※)。

(「※」は、言い訳タイムが後でありますという合図です…)

フランス語の回避策

フランス語では、例えば買ったのがパンだけなら、

les pommes et le pain que j'ai acheté ce matin

リンゴとパンの両方を買ったのなら、

les pommes et le pain que j'ai achetés ce matin 

と、動詞(過去分詞)の形が変わるんですよね。
それだけ覚える文法事項が増えて面倒なんですが、文意は明確になります。

ご覧の通り、フランス語も関係代名詞の形は単複で一緒ですが、動詞の形で変えることができます。

(※)ただ、上の文は二つとも発音すれば同じですし、
現在形の場合だと、動詞の形からも判断ができません…。

そういう場合には、別の「lequel」や「lesquels」と言った、性・数をハッキリ区別する関係代名詞を使って、

les pommes et le pain, lequel j'ai acheté ce matin
les pommes et le pain, lesquels j'ai achetés ce matin

と言えば、現在形でも(例は過去形ですが)区別ができます。
ただ、何か硬いですが…。

あと、両方とも複数名詞だった場合は、フランス語もお手上げです

les pommes et les légumes que/lesquels j'ai mangés ce matin
私が今朝買ったリンゴと野菜(???)

ドイツ語の回避策

ドイツ語はと言うと、ドイツ語は性と数によって関係代名詞の形が変わります。
英語とは違って、全性・単複共通の関係代名詞というものが存在しません

食べたのがパンだけなら、
die Äpfel und das Brot, das ich heute Vormittag gekauft habe

 両方なら、
die Äpfel und das Brot, die ich heute Vormittag gekauft habe

となります。

(※)でも、こんな几帳面そうなドイツ語にも穴はありまして、、、。

例えば、関係代名詞も複数形になると性の区別は一切しなくなり、

女性の単数形と、(全ての性の)複数形の関係代名詞が同じ形になります。

なので、例では中性名詞「パン」を使いましたが、これが女性名詞「バナナ」だった場合、

die Äpfel und die Banane, die ich heute Vormittag gegessen habe

となってしまい、これだと買ったのがバナナだけなのか、両方なのかがわからなくなります。

そしてフランス語と同じく、2つの名詞とも複数形の場合は、対応不能

和訳の回避策

このような文を訳さなくてはならなくなったとき、どうすればよいか。

私が教わったのは、「修飾句に近い方から訳す」です。
つまり、語順を逆にしてしまうということです。

最初の英語のフレーズに戻りましょう。

the apples and the bread I bought this morning

曖昧なこのフレーズですが、1つだけ確かなことがあります。
それは、冒頭で述べたとおり「パンを買った」ということです。

ですので、訳すときは、「私が今朝買ったリンゴとパン」の順番ではなく、

「私が今朝買ったパンとリンゴ」

にするのです。

もし、「パン」しか買っていないことが確かであれば、
語順通り「リンゴと(、)私が今朝買ったパン」
あるいは「私が今朝買ったパンと、リンゴ」
とすれば良いですが、

不明な場合は、

「私が今朝買ったパンとリンゴ」

とすることで、英語と同じ曖昧さを保つことができます。

これを

「私が今朝買ったリンゴとパン」

にしてしまうと、この場合は「リンゴを買ったことは確実だ」ということになってしまうので、英語の訳としては正確ではなくなってしまうからです。

しかし……ややこしいですね。
ここまでお読みいただきありがとうございました!

【画像】1195798さま(Pixabay)