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第100回箱根駅伝総括

箱根駅伝の応援ありがとうございました。目標の総合3位に入ることができました。

3位という目標を立てたのは2022年10月の第99回大会予選会を通過した直後のことです。創部23年目を迎える年の100回大会は城西大学男子駅伝部にとって大きなターニングポイントになると考え、この目標を設定しました。それが達成できる戦力が整いつつあり、選手らの意識をさらに高いものへと変えていきたいと願ったこともきっかけです。

このスローガンを胸に刻み、1年間実行できました(合宿所食堂)

その目標達成のため、最初に目指したのは前回大会でのシード権獲得でしたが、ここで9位となり、様々なことがうまく流れ始めたと思います。トレーニングの取り組みすべてに余裕が生まれ、時間をかけられるようになったのです。冬の間は筋力強化、クロスカントリー走などを進め、一部の選手はハーフマラソンに挑みましたが、基本はスピードを高めるトレーニングを積み上げました。それ自体は例年と大きな変わりはないのですが、そこで溜め込んだ力を春からも引き続き強化しながらトラックに集中できたと思います。

私は常にトラック種目の強化に重きをおいていますが、箱根予選会があると、年間を通して頭の片隅に「ハーフマラソン対策をしなければ」との思いが生まれ、強度よりも量を増やした偏重したかたちになり、本来の指導理念と違うプランで進めざるをえなくなるのです。しかし今季前半はそのストレスが私にも選手にもなかったことは大きかったと思います。(もちろん持久力を養うトレーニングはトラックに向けても必要なので、定期的に距離走は入れています)。
6月には全日本大学駅伝関東選考会がありましたが、それは10000mでの選考のため、個人の強化の延長線上で準備ができました。ここは前期シーズンの自分たちの力を試す場と位置付けていましたが、結果的にトップ通過でき、これまでの取り組みが間違っていないことを証明できました。

箱根駅伝へ向けた選手ごとのアプローチの違い

そして夏に充実したトレーニングが積めたことはここに記したとおりです。

同じことの繰り返しになりますが、スピード、スタミナとも時間をかけた鍛錬期を作れたのは今回の好結果の要因の一つだと思います。箱根予選会があると10月に一度、ピークを持ってこないといけませんが、それがないとスピードの強化を継続しつつ、走り込みもじっくり行えますし、出雲、全日本と駅伝を戦いながら、11月にもう一度、トラックでタイムを狙うこともできます。斎藤将也が全日本の1週間後に10000mで27分59秒68を出せましたし、野村颯斗、山中秀真もおなじ競技会で自己ベストを出しています。これは狙い通りでした。

トラックから箱根駅伝へアプローチを取る選手がいる一方で、夏からずっと距離対策を継続して箱根に向かう選手もいました。今回の復路を走った選手の多くはそのケースに当てはまりますし、”山の妖精”、山本唯翔も特殊区間ではありますが、それに近い進め方です。

ワールドユニバーシティーゲームズ10000m3位 
山本唯翔

唯翔は8月に10000mでワールドユニバーシティゲームズに出て銅メダルを獲得した後は距離対策を進めつつ駅伝を戦い、全日本後は競技会に出ず、5区対策に移りました。もちろん上りだけに偏ったトレーニングではなく、バランスよくスピード練習も入れましたし、事実、今年の唯翔はスプリント力の向上に手応えを得ています。ただそれは春までの取り組みと夏の鍛錬期があったからこそで、11月初旬からはそこまでに培った力を5区で発揮するためのアジャストの時期と言えました。年間を通して強化が順調でしたので、アプローチは将也など他の往路を走った選手と違いますが、もし彼が11月に競技会で10000mを走っていたら、間違いなく27分台を出していたと断言できます。でも、それは卒業してからの楽しみに残しておけばいいと私も唯翔も考えています。

目指すところはそれぞれ違っても、
練習はみんなで楽しく。
それが城西大学の一番の特徴です

どんな選手でもトラックと箱根駅伝(それが5区であればなおさら)の両立は難しく、トレーニングや調整の期分けで対応していかないといけませんが、それが今季は春からのスケジュールのゆとりにより、選手の個性や特性に合った最適な形で対応できたのです。

低酸素トレーニングに手応え。さらに進化を

そして箱根駅伝での目標達成のカギはやはり低酸素トレーニングを多くの選手が取り組めたことにあります。このnoteで何度も記している通り、世界レベルへ近づくために取り入れたメソッドですが、10年ほどの経過でノウハウが蓄積し、エースクラスだけでなく、駅伝のメンバー入りを目指す選手たちのメニューにも頻度を高めることができました。陸上競技マガジン2月号の箱根駅伝における城西大学を取り上げたページでスポーツライターの加藤康博さんにご指摘いただきましたが、まさに「世界を見据えた取り組みを箱根駅伝の好結果につなげる」という形を実践できたと思います。

最近、城西大学の低酸素トレーニングをよくメディアに取り上げていただいていますが、私はこの強化方法は世界レベルを目指すために必要不可欠なものと考えています。陸上長距離だけでなく、水泳、スケート、自転車など多くの分野で研究され、確かなエビデンスがありますので、その理論を指導現場での実践へ融合するべきなのです。このnoteを通じてもその取組みを何度も発信するのは、「日本陸上界を強くしたい」という思いがあるから。そして私だけでなく多くの指導者にも取り入れていただき、そのノウハウをどんどんアップデートして欲しいという思いもあります。カーボンシューズが革新をもたらしたように、いつか私の働きかけが「日本長距離界のビックバンだった」と振り返る日が来るのを思い描いています。

それでも箱根駅伝は手段であるべき

箱根駅伝の話に戻りますが、往路は全区間で掲げた設定タイムをクリアし、5時間21分30秒で走れました。前回であれば往路優勝できたタイムですので、この5区間で総合3位までの流れが作れたことは間違いありません。運営管理車に乗っていて例年のシード権争いの緊張感を味わうことがなく、とても新鮮な気持ちでした。

しかし「箱根駅伝は手段であり、目的ではない」という私の考えはこの1年の間も一度たりとも変わっておらず、これからも継続していくつもりです。

陸上競技はやはり学生選手権や日本選手権などが国内最高峰の大会であるべきです。ただ駅伝は純粋に楽しい競技ですし、箱根駅伝ほど注目される大会は他にありません。陸上長距離は苦しいトレーニングの連続ですので、この華やかな舞台で多くの人々に応援していただきながら好結果を出せたことで、選手たちはこれからさらにモチベーション高く、トレーニングに励めるはずです。それが今回の結果がもたらす何よりの好影響だと思います。

私が最も興味と情熱を持っている種目は5000mです。世界的にも5000mをメインに考える選手が10000mで活躍していますし、5000mで勝つために1500mの能力が求められ、スピード向上が進んでいます。これが今、世界的にマルチに活躍できる選手が増えているひとつの要因ではないでしょうか。ヴィクターも5000mで活躍したいという意志が強いですし、将也も来年は5000mを中心にやりたいと言っています。平林樹など他の選手も「駅伝の次はトラックでも」と意欲が出てきたようです。そしてこの冬は見逃されがちですが中距離のメンバーも強化が進んでいます。800m、1500mを主戦場とする栗原直央、宮本凪などにもぜひご注目いただけると嬉しいです。

箱根から世界へ。これは私が早稲田大学、エスビー食品と現役時代からずっと教わってきたことです。そして私自身が指導者として、本格的にそこに向かうフェーズに入ったと思います。まずは学生のトップレベルを目指し、日本選手権に多くの選手を輩出できるよう、取り組みをさらに進化させていきたいと考えています。

新しい時代へ突入した城西大学の大きな可能性にご期待ください。そしてこれからも応援よろしくお願いいたします。

ゴール後、大手町にて。


写真提供 (c)Getsuriku


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