元祖平壌冷麺屋note(15)
「タモリが狂わないのは、自分にも他人にも何ひとつ期待をしていないから」(樋口毅宏)
32年間、毎日、「いいとも」で司会を続けたタモリを「絶望大王」と論じた樋口さんのハードボイルド小説「さらば雑司ヶ谷」と、新書「タモリ論」がずっと頭を離れない。
終日、木臼に、そば粉を入れて釜の熱湯を混ぜながら、注文があるたびに、手打ちで麺を練り続ける生活を40年近く続けているのは、タモリではなくアボジ(父)だ。生前のオモニ(母)は、「冷麺に関しては達人ね」と妻に話していたらしい。
冷麺屋のバイトを辞めて、大阪のナンバーワンホストになったT君が、7年前に「何十年も、一日中、麺を練り続ける、マスターのメンタル凄いですよね」
と、ボクに耳打ちしたことがある。
その時は、フィジカルではなくて、メンタルなのか、と意外に感じたが、昨年、ひと月ほどアボジの代打で、終日、麺を練り続けていた時に、なるほど、メンタルだなと納得した。メンタルの麺たる所以(ゆえん)。
あまり知られていないが、平壌冷麺は、手打ち麺だ。注文があると、一食一食、粉から作り上げる。火傷や、筋肉痛、腱鞘炎、腰痛などの初期を乗り越えたら、それからは延々と続く線路がある。
大学時代、友人に「革命的悲観主義者」と呼ばれたことがある。常に最悪のケースを想定し、期待をしないこと。そうすれば、正気をたもてるから、と持論をぶっていた。「鋼のメンタル」とも、ささやかれた。
絶望大王にはなれなくても、タモリのように遠いところから日常を俯瞰する視点で、自分を見つめていこうと思う。粛々と日常を継続すること。
そういえば、冷麺屋一族には、タモリの大ファンで、息子にタモリの本名を名付けた兄がいる。