THE BEATLES SONGSの邦訳タイトルを考察する⑧
最終回
怒涛の邦題ラッシュだった6thアルバム『ラバーソウル』の翌年、日本中を興奮の渦に叩き込んだビートルズ初(そしてビートルズとしては最初で最後)来日ツアーを経て、7thアルバム『リボルバー』以降、ビートルズはライブ活動を停止します。
それと同じタイミングで、ビートルズの曲から邦題が消えました。
これはおそらく、正式に裏取りはしていませんがビートルズの来日ツアーを最後に「ビートルズ邦題の父」こと高嶋弘之氏が邦楽部署に異動したからだと考えられます(高嶋氏は1969年に東芝音楽工業を退職→キャニオンレコードの設立に参画)。
よって、今回紹介する二曲は(おそらく)高嶋氏の命名ではないと思われます。あくまでも「たぶん」ですが。
「愛こそはすべて」(All You Need Is Love)
これはもう直訳と解釈して問題ないと思います。
日本語としてもすっきりしているので、非常にいい邦題ですね。
だからこそ、「高嶋氏っぽくない」のですよ。
これでご本人が名付けていたら、本当にいくらでも頭を下げますが。
高嶋氏の邦題の付け方は、インタビュー(https://archive.is/rITr)によると、ご自身が英語があまり得意ではない(あくまでも謙遜でしょうが)上に辞書を引かなかったそうで、現在と違って歌詞カードもリアルタイムで届かなかったそうですから「在日外国人に聞き取ってもらって、それを訳したものからインスピレーションで決めていた」そうです。
聞き取りの時点で歌詞が間違っていることもあるでしょうからかなりリスキーなやり方だと思いますが、「リスナーのイメージを手助けし、その曲がよりよくなればいい」と思っていたそうです。
それを考えれば、「こんな直球は投げない」というのがボクの推理でして。
もちろん、「部署から離れた元担当者が一時的に仕事に首を突っ込む」というのが社会ではタブーに近いってのは社会人ならだれでも知っていることでしょうしね。
ちなみに、申し訳程度に曲の話をしておけば、もともとこの曲は「世界初の多元衛星中継のテレビ番組」のために書き下ろされた曲で、作ったジョンとしては「戦争反対」という意味合いもあったようですが、イントロに採用したフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」の歌詞って世界各国の国歌の中でも有数の血生臭い内容なんですよね……。
(正直、日本の「君が代」なんて最高に平和な歌詞ですよ。一部の人にはわからないと思いますが……)
「ジョンとヨーコのバラード」(The Ballad of John and Yoko)
「愛こそはすべて」から二年後にリリースされたシングルで、ビートルズ最後の邦題曲です。
これも直訳も直訳。
リリースされた1969年5月に高嶋氏が邦楽部門に在籍していたのは、自身が手掛けていた由紀さおりの「夜明けのスキャット」が同年3月にリリースされたことから確定ですので、これも高嶋氏の邦題ではないと思われます。
ではなぜこの曲だけ邦題がついたのかと言えば、あくまでも推測ですがこんな感じではないでしょうか?
「シングルだし、邦題のほうが分かりやすいよね。この原題だったら高嶋さんじゃなくても自分で邦題付けられるじゃん。いいじゃん、これで行こう!」
中らずと雖も遠からず……だと思うのですが、いかがでしょう?
曲について特に語ることはないです。別に嫌いな曲でもないですけど。
附録
というわけで、高嶋氏が異動した後はビートルズの曲から邦題がほとんど消えてしまったわけですが、高嶋氏担当時は「別にこの曲に邦題いらなくね?」という曲も少なくなかった反面、異動後は「これは邦題あったほうがよくね?」という曲もちらほら。
というわけで、最後にそんな曲に言及してこの連載を終了します。
「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」(Got to Get You Into My Life)
まあ、一言で言うと「タイトルが長い」。
後にもっと長い曲も出てくるのでもちろんそれにも言及予定ですが、なんだろう単語が小刻みだから長く感じるのでしょうか。
直訳すると、歌詞に含まれている「I've」を補って「僕はあなたを僕の人生に入れなければならない」→「結婚しようよ」?
意訳して「君が必要だ」とするのもいいけど、なんかタイトルっぽくないですね……。
ちなみに、作者のポールによると必要な「君」とは「マリファナ」のことらしいのですが……(汗)
「ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」(Being for the Benefit of Mr. Kite!)
これも長いタイトルですな。
ちなみにアルバムタイトルでもある『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』はさらに長いですけど、これを邦題にするのは愚策です。
直訳すると「ミスター・カイトのために」。なんなら邦題も「ミスター・カイトでいいじゃん」と思いそうですが、「ドクター・ロバート」は原題も「Doctor Robert」であることを考えると、やはり原題に「Being for the Benefit of ~」とついていることを尊重すべきと考えるのですね。
そうすると、邦題をつけないのが最適解か?
「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」(While My Guitar Gently Weeps)
「ギターは泣いている」という邦題は、この曲の続編になるジョージのソロ曲「This Guitar (Can't Keep From Crying)」に採用されているので却下です。
「ホワイ・ドント・ウィ・ドゥ・イット・イン・ザ・ロード」(Why Don't We Do It in the Road?)
上述の「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」同様、短い単語が並んでいるので実際の長さよりも長く感じる原題。
直訳すると「なんで道路でヤっちゃいけないの?」。
もしかして、これ翻訳したらダメな奴じゃね?
「エブリボディーズ・ゴット・サムシング・トゥ・ハイド・エクセプト・ミー・アンド・マイ・モンキー」(Everybody's Got Something To Hide Except for Me And My Monkey)
ご存じ、ビートルズの楽曲の中で最長のタイトルです。
当初の予定では「Come On,Come On」というタイトルだったそうですが、「ありきたり」という理由で却下されたそうです。
直訳すると「僕と僕の猿以外、みんな何かを隠している」。
意味わからん。
おそらく「ドラッグソング」の一つだと思うのですがね、邦題を付けたらどうなるんでしょうか?
ちなみに、仲間内でこの曲を呼ぶときは「モンキー」と略すことが多かった気がします。
「シー・ケイム・イン・スルー・ザ・バスルーム・ウインドー」(She Came in Through the Bathroom Window)
このタイトルも長いので言及してみます。
直訳すると「彼女は浴室の窓から入ってきた」。
タイトルっぽくするなら「浴室の窓から入ってきた彼女」。
いや、貞子かよ!
怖えよ!
「ジ・エンド」(The End)
いや、原題が短すぎるって?
「This Boy」を「こいつ」と訳した高嶋氏なら、きっと「The End」にもイカした(イカれた?)邦題をつけてくれるはずだ!
そこで、不肖私が高嶋氏の気持ちになって愚考してみよう。
「The End」にふさわしい邦題はこれだ!
「おわり」
ご愛読、ありがとうございました。
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