マルチの呪いと友情の話
高校3年生の担任をしていた頃。
卒業式の前日、卒業式の予行練習も終わり、卒業アルバムを配布して、仲が良いクラスとはならなかったけどなんか懐かしいような、寂しいような空気感だった。エモいってこんな感じのこと言うんだろうな。
何か伝えないといけないようなそんな雰囲気だった。
「君たちに伝えておきたいことがある。
明日でここにいる人たちのほとんどと会わなくなると思う。
卒業して、それぞれの進路に向かって、働いたり、大学行ったり。何年か経って、すごい久しぶりに友達から連絡来ることあるとも思う。すごく嬉しいよ。
でも、それ大半マルチだから気をつけなさい。」
これが私が初めて送り出したクラスの生徒への忘れてほしくない大切な餞だった。
今でも割と本当に思ってる。
定期的にこういうのが流行って、人間関係をだめにしてしまう。教え子にもいるし、身近な人にもいる。
学生時代の友人ほど得難いものはない。
大人になってからできた友達とは何か完全に違う。
大人になるっていうのは、思い出話が増えてくことだと思う。
脂っこいものはどんどん食べれなくなって、階段はしんどくなったりして、仕事はどんどん増えてくけど、思い出してゲラゲラ笑えることが増えていくことが、大人になるってことだと思う。その時に一緒にいる人こそが友達だと思ってて。
この言葉に縛られて、久しぶりに元気かな?って思った友達に連絡が取れなくなっていた。
送ったらマルチだって思われないかな?という不安がつきまとう。生徒に向けた言葉に思いもよらず自分が縛られてしまっていた。
学生時代あんなにも毎日のように会っていた友達も仕事や家庭や様々な要因でなかなか会えなくなってしまうことに、気付いていたけど、なんとなくあやふやにしていたのだと思う。
そんな中。
久しぶりに大学の同級生と飲みに行った。
主に海外で働いている友人。
何か国語話せるのか分かんないくらいで、なんか本当にすごい仕事してて、学生時代クラゲに刺されてへこんでたやつだったのに、とか思ってしまう。
こんなにも立派になって。
話している最中に、ふと口にしてしまった。
「丹羽くん、元気かな?」
丹羽くん(仮名)は大学時代の友達である。
大学時代には多分ほぼ毎日遊んでた気がする。
大晦日に他の友達が取り立ての免許で江ノ島まで初日の出見に行ったけど疲れて帰り運転するのキツイって連絡したら、実家の家族と過ごしてたのにも関わらず江ノ島まで電車で来て、車運転してくれたり、
デザート用に出されたでかい盃に日本酒入れて死ぬほど飲ませて泥酔させちゃって、挙句の果てに丹羽くんのお母さんを夜中に迎えに来させちゃったり、
他の友達のスマホで、当時三浦春馬くん主演のドラマ、ブラッディ・マンデイに出てきたハッカーの真似したLINEを送ってビビらせたり、
なんか、ほんとごめん。何ならお母さんも。
友達でいてくれてありがとう。
こんな思い出くさるほどある。
こんな思い出しかねえ。生徒に言えねえ。
丹羽くんは大学を卒業してから、仕事が忙しくなって本当に疎遠になってしまった。
一度疎遠になると、理由がないと連絡とりにくいもんで。
しかも私は、マルチかもしれない呪いがかかっちゃってるもんで。
かれこれ6年くらい連絡も取ってない状態だった。
ふと、思った。元気かな?って言葉が出たらすごく懐かしくなって、まあ、繋がらないだろうなと思いつつ、電話をかけてみた。
切られた。
切る?普通切る?????
一緒にいた友達はありがたいことに、一緒にブラッディ・マンデイごっこをやった友人だった。
追撃した。切られた。
返事が来た。
「今電車」
関係ねえ、火はついてしまった。
一緒にいた友人が送った。
Você é meu amigo?
サイコなハッカーのフリしてポルトガル語で送ってやった。
あの頃は
キミハボクノトモダチ?
なんてカタカナでカッコつけていたけど、こちらもかつての我々じゃない。めちゃくちゃ語学堪能になってる。
シンプルにお前もすげえな。
私もかつてのハッカー名・スパイダーを思い出させるために
🕷️
クモの絵文字を送った。
と、ここで、折り返しの電話がかかってきた。
「急にポルトガル語送ってくるのやめてくれるかな?」
開口一番これだった。
6年ぶりの電話の一言目これかな?
その後しばらくみんなで少し話をした。
何も変わらないトーンで。
18歳だった私達は32歳になる。
大学を卒業したときは22歳で、もう10年経つ。
一緒に通っていた大学の校舎は新校舎が建てられてたり、一緒に所属してたサークルはなくなったらしい。
だけど、思い出してもゲラゲラ笑える話も、ゲラゲラ笑える関係性も何も変わらないままだった。
話してて、結婚したことを知らせなかったこととか気まずそうに話すけど、何も変わんない。
こういうの、なんて気持ちなのかなあ。
かけがえのない友達ってこんな感じなのかな。
終始何も変わんないノリだったけど、帰り道LINEを送った。
「言ってなかったけど私も結婚したよ」
返事は
「めでてぇな」
の一言だけだった。
もうちょっと早く連絡すればよかった。
そうしたらもう少し早くいつ連絡してもきまずいことなんてないって分かったのに。
ちょっとだけ、少しだけ後悔した。
それから久しぶりでもいつでも気にしないで連絡する約束と
素敵な結婚式の写真を送ってもらった。すっかりはげちゃった丹羽くんと素敵な優しそうな奥さん。
「オイラは見ての通りすっかりハゲちまったよ」
保存はしないでおいた。また連絡しておくれ。
今度は君から。
あと何年かしたら、また卒業生を見送ることがあると思う。
その時は伝えたいと思う。
「伝えておきたいことがある。
明日でここにいる人たちのほとんどと会わなくなると思う。卒業して、それぞれの進路に向かって、働いたり、大学行ったり。何年か経って、すごい久しぶりに友達から連絡来ることあるとも思う。すごく嬉しいよ。
でも、それ大半マルチだから気をつけなさい。
でも、本当に会いたい人には時間がどれだけ経っても何も気にせず連絡しなさい。その時に何も変わらず話せる人が本当に大切な友達だから。」
こんなことが知れるなら大人になるのも悪くない。