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おせちが消える未来、もう始まっている
「もう、おせち作るの、今年で最後にするわ」
昨年末、知人らで集まった日のこと。
昼食後に、食器を洗っていると聞こえてきた。
私は背を向けていたが、声で誰だかはわかった。
話をしていたのは、孫のいる2人の女性だ。
聞いていると、今年でおせちを作るのをやめると言った女性は、毎年おせちを作っていたが、昨年は市販のおせちを買ったようだった。
でも、子どもたちも食べないし、残ってしまったから、もう今回で最後にしようと思ったようだ。
作るのをやめる理由に納得できる。
手間がかるし、買うにしても値段が高い。
あなたも、無理して手間やお金のかかるものを、イヤイヤ食べたくないよね。
私も子どものころ、ほとんど食べなかった。
大人になってからも、自分では作ったことも、買ったこともなく、いただいたものを食べている。
友だちとも、SNS上でおせちについてやりとりした。
子どもだけではなく、旦那さんも食べない家庭もあることを知った。
理由は...
・好きな食材がない
・温かくない
・美味しくない
わからなくはない。
でも、なんだか悲しくなった。
あなたは今年、おせちを食べただろうか。
子どものころは、どうだろう。
"今年で最後にしよう"
本当にそれでいいのだろうか...。
*-*-*-*-*
"おせち"といえば、昨年出会った1冊の絵本を思い出した。
毎月購入している、こどものとも。
昨年の1月号は『おせち』だった。
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1月号 『おせち』
絵本を開くと、彩り美しく、美味しそうな写真が並んでいた。
おせちに入っている食材一つ一つの意味が書かれてある。
大人の私も、恥ずかしながら知らないことばかり。勉強になった。
たまたま昨年、手元に届いた『おせち』は人気で、異例の増印、重版。
今年もハードカバー化されたが、予想以上に評判が良く、ニュースにも取り上げられるほど。更に重版となった。
おせちを食べる人は減っている。
でも、日本の文化を大切にしたい、伝えたい。
そう思う人は、少なくないのだろう。
だからといって、無理には食べたくないし、食べさせたくない。私も同じだ。
でもね、今の気持ちも大事にしたいんだよ。
・子どもが食べたいものに応えたい
・お正月らしい特別なものにしたい
・日本のおせちを伝えていきたい
大切にしたい思い。
おせち以外も、お正月のご飯として、子どもたちと楽しみながら叶えてみた。
*-*-*-*-*
2024年12月31日 大晦日
私は夕方、子どもたちと年越しうどんを作った。
リクエストに応えて、
・蕎麦よりうどん
・お餅はマリオ
年越しうどんをテーブルに置くと、2人は並んでのぞき込み、ニコニコしていた。
「お顔が伸びた〜!」
「甘〜い」
白玉粉に絹ごし豆腐を入れているだけだが、甘く感じたようだ。
うれしそうに食べてくれた。
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夜には、夫の実家へ。
お義母さんは、購入したおせちなどを用意して待ってくださっていた。
でも、子どもたちは、テーブルに置いていても一度も見ることなく、すぐに遊ぶ。
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「どれ食べる?これ美味しいよ」
私から勧めてみた。
子どもたちは、好きなものを私が取って食べる。
選んだものは...
・お餅
・栗きんとん
・いくら
・田作り
甘いものや、私も子どものころ好きだったものばかりを食べていた。
その日の夜、寝る前。
今まで興味を持たなかった『おせち』の絵本を、娘が「読んで」と持ってきた。
私は布団の中で、2人に挟まれて読んだ。
「おせちって知ってる?」
「知ってるにきまってるよー!」
息子はそう応えた。
でも、
「これなに?これは?」
次々聞かれた。
「これ今日食べたね!」
続いて娘が言った。
ページをめくると、
「ぼく、こんにゃくも食べたい!」
家ではまだ食べたことのないこんにゃく。
給食では食べたことがあったのだろう。
絵本を見ながら、少しの間、会話が弾んだ。
おばあちゃんのお家で、おせちを見て食べて、少しは知ることができたからだろう。
*-*-*-*-*
2025年1月1日 元旦
お正月、私は子どもたちに何が食べたいか聞いた。
返ってきた返事は、子どもたちが好きなママの作るメニューの「たまごチャーハン」。
それもそれで嬉しいが、
"お正月なのに"
心の中でつぶやいてしまう。
おせちを好きになってほしいとは思わない。
自分も子どものころ、食べなかったから。
でも、大人になると特別な日を楽しみたいと思ってしまう。
お椀とお箸置きだけでも、正月らしいものにした。
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大人用は、夫がブリしゃぶを用意してくれた。
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私も人参や大根の飾り切りのお手伝い。
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かわいいものが好きな息子は、たまごチャーハンを食べながら鍋に手が伸びる。
いつもなら進んで食べない人参。
飾り切りを見て、笑顔で「食べたい!」といい、自分ですくって食べていた。
娘には、ブリしゃぶを勧めてみた。
私がしゃぶしゃぶしたものを、恐る恐る口を小さく開けて1つ食べる。
すぐに笑顔で「次はこれ♪」といわれた。
お皿に乗ったブリがなくなるまで、自分でしゃぶしゃぶしながら食べていた。
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*-*-*-*-*
2025年1月2日
毎年2日は、親族みんなが我が家に集まる。
今年も私の母が用意した、オードブルを囲って、みんなで食べた。
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子どもたちが食べたのもは、みかん(紅まどんな)のみ。
食べたことないものには、手を出さない。
私は子どもたちに、お弁当を作った。
食べないことが予想できていたからだ。
作っていると、いつものように横からかわいい手が伸び、味見しながら待ってくれた。
できたのは、おせち風のお弁当。
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中身は...
・大人のおせちで子どもたちが食べられたもの
・普段、子どもたちが食べているもの
・子どもたちが好きなもの
おせちの意味する具材や形や色は、『おせち』の絵本を参考にしてアレンジした。
子どもたちは、おせち風のお弁当ができあがると、うれしそうに走って台所に取りに来た。
あんなに大人のおせちやオードブルには、見向きもしなかったのに。
お弁当を渡すと、そーっと歩く。
椅子に座ると、急いでフタを開けた。
迷いなく次々食べる2人。
いつものママのお弁当に、安心しているようにも感じた。
息子が食べたいと言っていたこんにゃくも、口に入る。
ホッとした。
その日の夜、子どもたちはまた『おせち』の絵本を持ってきた。
再び布団に入って、私の両側に2人は座った。
夫も覗き込む。
私は絵本を読んだ。
「おせちって知ってるー?」
「知ってるにきまってるよー!」
先日と同じ反応が返ってきた。
でも、ページをめくると以前とは違っていた。
「これ、あった!」
「これも、食べた!」
知ってることが増えていた。
意味は、絵本の言葉を頼りながら伝えた。
子どもたちは真剣に聞いていた。
大人のおせちとは違う味。
でも、子どもたちが好きなものを詰めることで、興味をもってくれた。
おせちのことも、また少し知ることができた。
子どもたちにとっても、特別なお正月になった。
*-*-*-*-*
子どもたちが食べないからやめる
日本の伝統だから食べる
もしかしたらあなたは、どちらかに偏っているかもしれない。
でも、あなたが大切にしたいものがあるのであれば、あなたらしく工夫することで伝えることもできる。
たとえ形が少し変わっても、思いが込められていれば、きっと子どもたちの心に残る特別な時間になる。
おせちが消える未来は、もう始まっている
あなたも感じているはずだ。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
子どもたちにとって、心に残るお正月になっていることを願います。