ミス・サイゴン Please
作:アラン・ブーブリル クロード=ミッシェル・シェーンベルク
日本語訳詞:岩谷時子
この曲もあまりメジャーな曲ではないですが、ミスサイゴンで最も好きな歌のひとつです。メロディーも美しく、ベトナムから帰国後のクリスとジョンについて知ることのできる、ストーリー上も結構重要な曲。
(JOHN)
PLEASE - HE WENT CRAZY WHEN HE LOST YOU
SPOKE TO NO ONE FOR A YEAR
THEN HE FINALLY SAID "I'M HOME NOW
MY LIFE HAS TO GO ON HERE"
クリスは君を失っておかしくなった。
1年間誰とも話さなかった。
そしてついにこう言った。
「俺は家に戻った。人生をここからやり直すのだ」
なにかと批判されがちなクリスですが、彼も大変だったのでしょう。
ベトナムでも相当な心の傷を負ったに違いないですが、そこまでして戦ったのに国に帰ったら白い目で見られ、まともな精神状態ではなかった。インターネットにもベトナム戦争から帰国した多くの兵士がPTSDに苦しんだとあります。
帰国後人と話すこともせずひきこもり、1年たってやっとアメリカで生きていこうと決意した経緯が歌われています。気になるのは、この時、既にエレンに出会っていたのかということ。アメリカで生きていこうと決めてから出会ったのか、それとも彼女との出会いがきっかけで回復に向かったのか。
私はミュージカル特有の「複数の登場人物が同時に独白する歌」が好きなのですが、後半部分のキムとジョンの二重奏も好きです。舞台上では二人のセリフが同時に聴き取れないので、歌詞を見るとそれぞれが何を言っているのかよくわかります。以下はジョンの歌うパート。
(JOHN)
I CAN'T TELL HER LIKE THIS
I SHOULD NOT BE THE ONE
CHRIS MUST FIRST SEE HIS SON
THEY DON'T SAY IN THE FILES
THERE'S A WOMAN IN LOVE HERE
WHAT SUSTAINED HER FOR MILES
CHRIS STILL KNOWS NOTHING OF
CAN I END THIS JOURNEY PLEASE?
こんな形で彼女に言えない
自分が伝えるべきではない
クリスがまず息子に会うべきだ
ファイルには書いてなかった
1人の人間を愛する女性がここにいることを
こんな遠く離れたところで何が彼女を支えたのか
クリスはまだ何も知らない
この旅をどうか終わらせてくれ
キムが「やっとクリスに会える!」と歌っている横で、苦悩するジョン。キムがクリスを想い続けて待っていることは、もちろん書類には書いておらず、自分には伝えられないし、クリス本人が伝えるべきだと歌います。クリスもジョンもアメリカに帰国後、ベトナムでのキムの様子は一切知らなかったのですね。そのあたり、ジョン役の上原理生さんがYouTubeでも語っていてとても興味深かったです。(誰でも視聴可能ですが、有料級のクオリティーでした)
https://www.youtube.com/watch?v=fhn-FpDYmng&t=6s
Rio Uehara Official YouTube: 「ジョンと言う男」前編
最後の Can I end this journey please? はキムパートの最後と同じで、キムとジョンが同時に歌っていますが、"journy" という言葉が心にとまりました。
キムはベトナムからバンコクに移り、実際に旅をしているし、ぎりぎりの生活をしながらクリスを待っている。そんな生活をもう終わらせたいということかと想像しましたが、ジョンにとってのそれは何だったのか。
キムに真実を伝えるというつらいミッションを終えるだけでなく、ブイドイで歌われていたような、戦争の被害者になったベトナム女性、子どもたちを救う活動そのものを早く終わらせたい、支援が必要な人がいなくなる世の中がきてほしい、ということかもしれないとも感じました。