掌編小説 いつもハッピーエンド「お母さん」 ショートショート 文芸
わたしが産まれたのは、田舎の病院だった。もちろん、産まれた時の記憶があるわけじゃない。
施設を出る時、職員さんが教えてくれた。わたしを産んだお母さんはわたしを病院で産んで、次の日にはいなくなっていたそうだ。
病院には嘘の住所のアパートと名前を伝えていたらしい。
施設に預けられ、ある時、職員さんはかなり遠方まで嘘の住所のアパートに訪ねてくれた。
家族に連絡しようとしたら、大家さんにそんな人いませんとバケツの水をかけられたらしい。
テレビのニュースで、パパ活で妊娠した女の子が赤ちゃんを捨てて、死んでしまう事件を見ると胸が締め付けられる。わたしも捨てられて死んでいたかもしれない。
私は耳は聴こえないけど、健康に育つことができた。
施設のみんなや職員さんがわたしに愛を教えてくれた。
わたしは明日、結婚式をあげる。相手は、会社の2個先輩。
少し頼りないけど、優しい男性。
お母さん、私を産んでくれてありがとう。
明日、私はお母さんの名字から好きな男性の姓になります。
嘘の名字かもしれないけど、お母さんと繋がりだった名字。
大好きだった名字。
ありがとう、お母さん。