掌編小説「ロシアンティー」 ショートショート 文芸 3分ショート
むかし、むかしの記憶。昭和の記憶。
おかあさんは、わたしによく、ロシアンティーを入れてくれた。
午後3時、おやつの時間。
トースターで焼いた手作りクッキー。動物や花のかたちにくり抜いた、ほんのり茶色。
おかあさんが座卓の上に、ガラスの容器に出してくれた。
角が少し焦げてたりしたけど、口に入れるとほんのり甘く、カリッとしてるのやしなっとしてしているのがあったり、おいしかった。
おかあさんは、白い花柄のティーカップに、日東紅茶のティーパックを入れると、ちんちんに熱くなったやかんのお湯をティーカップに注ぐ。
お湯に紅色が広がっていく。おかあさんがティーバッグを上下に揺らし、カップが紅色に染まる。
おかあさんは、イチコジャムのふたをひねって、ポンと開け、スプーンでジャムを人掬いし、スプーンをわたしに渡す。
わたしは、ジャムをこぼれないように、そうっと、カップに入れ、かき混ぜる。
わたしは、スプーンをソーサーに置き、カップを両手で持って、ふー、ふー息を吹きかける。
すこし、さめたかなというところでカップの紅茶を啜る。
熱いけれど、少し酸味のある柔らかい甘さのロシアンティー。
昭和のそんなおやつの時間。むかし、むかしの昭和の記憶。