男の被害は認めてもらえない。
俺たちの頃は先生が絶対の時代でした。
とんでもない教師がうようよしていたのです。
体罰なんて当たり前。
それも殴られても仕方がないような悪いことをしたわけでもない子を、自分の機嫌次第で殴ることや踏みつけにすることがまかりとおっていました。
今だったら当時の先生たちは懲戒処分です。
今思い出しても怒りが込み上げてくる先生は何人もいますが、その中でも最たる例だったのが、中学のときの体育教師でした。
体育の先生といえば、問題を起こすケースが多いですが、とりわけ、この教師というのは本当に専制君主。暴君のような人でした。
当時まだ20代でしたし、血気盛んで、ヤクザものみたいな人でした。
しかもマッチョ大好き人間で、それを生徒にも強要しようとするのです。
その教師が俺の中学の時に来たのは俺が中学2年生の時でしたが、2年生の時までは流石に新米だったせいもあってそこまで酷くはなかったものの、3年生になって2年目になると本性を表し始めました。
まず夏になって水泳の授業が始まった時に、男子全員に髪の毛を短く切れと命令しました。
みんな少しだけ短めにしてごまかしていましたが、この先生の本音は全員を丸刈りやスポーツ刈りにしたかったんだと思うんです。
そのほうがマッチョっぽく見えるから。
それからその後秋になって水泳が終わると、今度は男子全員上半身裸で体育の授業をすると言い出しました。
受験に備えて体を鍛えるためというのがその教師の言い訳でしたが、実際には男子全員を裸にすることで自分のマッチョ大好き願望を満たそうとしていたのです。
冬の雪が降ってもおかしくないような天気の日に短パン一枚にさせられて、きわめつけは学校の外を上裸のまま走らせられたことでした。
さすがにこの時ばかりは、「恥ずかしい」とぼやいていた子もいましたが、この教師は人の気持ちなんて全然考えない人。人をものみたいに扱うことをなんとも思わない人でした。
俺はこの時は風邪をひいていると嘘をついて、シャツを着用させてくれと頼みました。
この時のこの教師の俺を嘲笑う顔。あれは教育者の顔ではなかったのです。
俺はその後不登校になったのですが、俺が不登校になる引き金をひいたのは間違いなくこの教師でした。
今から10年ほど前です。この時の屈辱をある女性のカウンセラーに話しました。
すると彼女は、「上半身裸になるのが好きな男の子もいる」「その時一緒に脱がされた子がいる」と俺のトラウマを否定するような言い方で返してきました。
俺はその言葉にキレて、彼女のカウンセリングはすぐに打ち止めになりました。彼女は俺より遥かに若いのに、ジェンダーの意識が全くと言っていいほどない人だったのでした。
今でも、俺を不登校に追い込んだ体育教師と10年前の女性のカウンセラーのことは憎んでいます。
しかし、世の中は理不尽。
その体育教師は今70代半ばになっていますが、故郷の町の教育長をやっていて、ちょっとした問題を起こしたのです。具体的に何を起こしたかについてはいえませんが、シゴキすぎなのが問題になったのです。
俺はあれから45年以上もたっているからマシな教師になっているかと思っていたら、やはりあの人の本質は変わっていなかったのです。
とは言っても、教育長。権力は持っていますし、そのことで罰を受けることはありません。
10年前の女性カウンセラーも、その後超一流大学の教員になりました。
俺は世の中が向いていないのかもしれません。
俺と対立した人、俺にトラウマを負わせた人が、偉くなっていく。
その一方で、何の罪もない、優しい人が早逝する。
この理不尽をどう自分の中で整理したらいいのか。
理不尽な世の中をどう生きる???
皆さんに分かっておいてほしいことは、好きで男っぽいことをするのと、無理矢理やらされるのは別だということです。
女の子だって、好きな男とセックスするのと、嫌いな男からレイプされるのとでは全く別のこと。
男だって同じです。だけど、男の被害は認めてもらえない。
また男と一言で言っても、色々な男がいるのです。それを一括りにして、丸刈りにしたり上半身裸にしたりすることは、一歩間違えば、軍国主義につながり、戦争につながっていくのです。