ショートショート「海に散らしたノート」
ショートショートを書いて見ました。
エモい、切ない、
そんな夏の高校生たちのお話です。
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8月15日。高校の剣道部がお盆で休みだった俺と白銀(しろがね)は、まだ暗鬱とした気分を引きずりながら、電車を1時間ほど乗り継ぎ、部員で遊んだ夕暮れの海へ行った。
鞄の中には、一週間前に交通事故で死んだ、同級生で剣道部員の紫苑(しおん)の日記が入っている。紫苑のロッカーの中から見つけて、俺が預かってきたものだった。
ときおり鋭い海風が吹き付け、薄紫と群青のグラデーションになった空が、海に反射している。薄曇がたなびき、海辺は地上の果てに来てしまったように美しかった。
浜辺に座って、俺たちはため息が出そうなほどに耀く海を眺めてしばらく黙っていた。夏の生ぬるい風が、俺たちの頬を撫でる。
「…紫苑、ほんとに死んだのかな」
と白銀が呟く。
「あのバカが死ぬなんてな。なんか、音楽に夢中になってたら、電車のホームから落ちたって…冗談かよ」
と俺は薄く笑う。鞄から紫苑の日記を取り出し、読んでみることにした。
「○月✕日、今日は肉団子が弁当に入ってた!ラッキー!今日はいいことありそう」
「★月△日、前の席の音無ちゃんのブラが透けていた。ピンクだった」
白銀が呆れたように言う。
「…紫苑、日記でもアホ丸出しだね」
俺はしばらく日記を捲っていた。日記にはさっき読み上げたことと似たような、下らないことしか書いていない。けれど、ページを捲るたびに、紫苑は毎日を確かに生きていたのだと、実感させられた。
俺は読んでいるうちにだんだん紫苑がこの場にいないことに腹が立ってきて、一枚のページに手を掛け、それを破った。
「青山?!なにしてんの?!」
「なんで死んだ…!なんで死んだんだよ!!」
ページをめちゃくちゃに破り、俺はそれを海に散らした。千切れたページは風に乗ってばらばらと舞い、まばたきをしてる間に遠くへ消えてしまう。
そのとき、俺は千切れたページが舞う隙間に紫苑の影を見た。
「おい、なに勝手に捨ててんだよ」
紫苑はそう言って笑った。
その影は、一言そう言うと、ページが風の中に吸い込まれるのに合わせて消えてしまった。
俺は呆然とした。
白銀も呆気にとられていたが、薄く微笑むと俺に向かって笑い掛けた。
「紫苑、お盆だから帰ってきたのかな。…帰ってくるの早すぎだよ」
そう言った白銀の目には透明な雫が溜まっていた。きっと、俺の目にも。
END(1071文字)
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Mrs.GREEN APPLE「ライラック」を聴いて
書いてみました。
お楽しみいただけたら、幸いです。
ショートショートには、初挑戦でした。書くのが楽しかったです✨
因幡