【覚書】ロベール・ブレッソン監督『バルタザールどこへ行く』(Au hasard Balthazar, 1964)
動物に感情移入させようとする、つまりは動物を擬人化する凡百の映画と異なり、この作品におけるロバとロバが置かれた状況は(少女とその状況とも無関係に)、「それ自体」として提示される。
「この映画でもっとも特徴的なのは、いうまでもなくバルタザールという名のろばを「主人公」としていることだろう。もちろん主人公といっても、ろばは擬人化されているのではないし、たとえばかしこい犬やイルカなどの動物が出来事の展開に積極的に関与し、その意味で人間と同等の役割を演じるような、そのような役割はまったくはたしていない。(中略)この映画をつらぬき、この映画に、かたちのうえでも、そして内容のうえでも、統一をもたらしているのは、あきらかにバルタザールというろばの「生と死」である。この映画の発想の端緒が「あるろばの日記」だったことを忘れるべきではない。(中略)ある意味では、映画の全体をとおして、シューベルトの音楽とともにろばの声が聞かれるのだから、この映画全体は、やはりバルタザールの、ろばの声そのものによる「日記」だというべきなのだろうか」(浅沼圭司『ロベール・ブレッソン研究―シネマの否定』、301-302頁)。
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