物語 「ルディのダイヤモンド」《第1章》
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《あらすじ》
時は中世ヨーロッパ。フランドルと呼ばれる国のある街で、片足を引きずりながら仕事を探す一人の少年がいました。男の子の名前はルディ。たった一人の家族だったおじいさんを失ったルディには、すぐにでも働く場所と住む部屋が必要でした。けれど、ルディを雇ってくれる店は街のどこにもありません。力つきたルディは、とうとう地面に倒れてしまいます。すると……。
すべての道が閉ざされたように思えても、ダイヤモンドが語る真実に耳を澄ませる時、あなたの人生が劇的に動き出す。伝説の宝石職人をモデルに描かれたルディの物語を通して、世界で最も強固で美しい石が語る「あなた」の真実に、ぜひ耳を傾けてみて下さい。
《大切なあなたに》
あなたにはダイヤモンドの原石のごとく、無限の価値と可能性が秘められている。いつ、どの瞬間においても、この真実は不変である。自分を磨くと決めて生きる者は、必ず美しく輝く。限りなく、どこまでも。
この古の奥義を過去に知っていたとしたら、あなたはこれまでの人生を、どのように生きたのだろう?
あるいは今、この真実を受け入れるとき、あなたはこれからの人生を、どのように生きるのだろう?
《第1章》
今から500年以上も前のことです。ヨーロッパの西の方、フランドルとよばれる美しい国のある街に、ルディという名の男の子が住んでいました。
ルディはおじいさんと二人で暮らしていました。でもそのおじいさんが、数日前に病気で亡くなってしまいました。ルディはその日、15歳になったばかりでした。
小さな舟に横たえられたおじいさんの周りに、街の人々が花をおいていきました。ルディのおじいさんは街の舟頭でした。無数の細い水路がめぐる街は、古くから「水の街」とよばれていました。少し遠くまで出かけるとき、人々は家の裏口に立って、水路を行き来するおじいさんの舟を呼びとめました。わずかな代金で荷物も運んでくれるおじいさんの舟は、つつましい暮らしをしている人々にとって、とても助かる存在でした。
その日の夕暮れ、おじいさんを乗せた舟が二人の小さな家の裏口をすっと離れました。水路の向こうには夕日が浮かび、あたたかなオレンジ色の光が水面にきらきらと反射していました。いつもなら、おじいさんが仕事を終えて帰ってくるころです。色あせた木舟の上に立ち、ゆっくりとオールをこぐおじいさんの姿が、今にも見えてくるようでした。でも実際にルディの目に映っているのは、遠ざかっていく舟とその影だけでした。
ルディの喉もとに熱い塊がこみあげてきました。大好きだったおじいさんを乗せた舟はみるみるうちに小さくなり、やがて夕日の中へと消えていきました。
ルディはひとりぼっちになってしまったのです。
ルディはまじめで優しい男の子でした。でも、幼いころに街を襲ったひどい流行り病のせいで左足が不自由でした。ルディのお父さんとお母さんが命を落としたのも、その流行り病が原因です。航海に出ていて無事だったおじいさんは、足の悪いルディを育てるために、海の仕事をやめて街の舟頭になりました。おじいさんはルディをかわいがってくれましたが、暮らしは決して楽ではありませんでした。ひとりきりになったルディに残されたお金も、ほんのわずかなものでした。
ほかに頼る親せきもいなかったルディは、すぐにでも仕事を探さなければならなくなりました。
けれど、足を引きずりながら働き口を探すルディに、街の人々は黙って首を横にふるだけでした。小麦の大袋を運ぶことも、おじいさんのように舟をこぐこともできないルディに、仕事をくれる人は誰もいなかったのです。金物屋の主人もパン屋のおかみさんも、数日分の食べ物や少しのお金を手に握らせてはくれるものの、仕事を世話するほどのゆとりはないようでした。
流行り病が続いた数年の間に、人々はいろんなものを失っていました。今では街も落ちついてはいましたが、多くの人はまだ、自分のことで精いっぱいだったのです。
それでもルディはにぎやかな通りに並ぶ店の前に立ち、一軒、また一軒と遠慮がちに扉を開けていくのでした。
「悪いな、ルディ。その足じゃあ使いものにならんよ」
壊れた家具を見るように、肉屋の主人がため息をつきました。その店がルディにとっての最後の望みでした。この数日、思いつくかぎりの店を訪れ、そのすべてに断られてしまったあとでした。街でも一番大きなその肉屋には、ひっきりなしに人が出入りしていました。店の奥からは、
「おーい、だれか手伝ってくれ!」
という声が何度も聞こえてきます。店はとても繁盛していて、今にも人手が必要そうでした。だから、「もしかしたら……」と期待していたのですが、ルディの出る幕はないようでした。
「お邪魔しました」
なんとかそれだけを言うと、ルディは力なく店を出ました。
ほかにあてのある場所は一つもありません。少しでも相手にしてくれそうなところは、すべて回りつくしてしまったのです。
「どうすればいいんだろう。おじいさんのお金も、もうなくなってしまうのに……」
何日も歩き続けたからか、左足がひどくむくみ、激しい痛みが出ていました。石づくりの硬い道のせいで、靴もすれて破れてしまっています。あまりの痛さに、ルディはそれ以上前に進むことができなくなってしまいました。
風がしだいに冷たくなってきていました。灰色の分厚い雲が空を覆っています。雨が降るかもしれません。ルディは身ぶるいしました。恐くて心細くて、いつの間にか目に涙が浮かんできます。
その時、カランコロンと軽やかな音をたてて、目の前の店の扉が開きました。前に立つだけで気おくれしてしまうような、豪華な扉です。中から出てきたのは、ふわりとしたすみれ色のドレスをまとった女の人と、一目で貴族とわかる立派な身なりの男の人でした。
「本当にすてきな指輪ね。ああ、結婚式が待ち遠しいわ!」
「君が気にいってくれてよかったよ。あのルビーを押さえるのに、ずいぶん苦労したかいがあったというものだ」
すぐ近くにいたルディに気づくこともなく、二人は馬車に乗りこみました。馬車が見えなくなってからも、ルディはなぜか、その場から動くことができませんでした。
「なんて幸せそうなんだろう。ぼくが貴族で足も丈夫だったら、あんなふうに……」
思わず言葉がこぼれていました。ルディの胸に鋭い痛みがはしりました。これまで一度も感じたことのなかった激しい気もちが、あっという間に全身を覆いつくしていきます。二人がうらやましくて、うらやましくて、どうしようもありませんでした。あまりの苦しさに息が止まってしまいそうです。
その時でした。
びゅうぅっと強い風が吹き、か細いルディの体が吹き飛ばされそうになりました。突然の衝撃でぐにゃりと左足が曲がり、ルディは体ごと地面に倒れてしまいました。店の窓に貼られていた小さな紙が、風ではがれて勢いよく舞い上がりました。紙は空中を激しく上下したかと思うと、地面に投げ出されたルディの左足にばさっとかぶさりました。
ひとしきり辺りを荒れ狂った強風は、やがて「やることはやった」と言わんばかりに、ぴたりとやみました。そして、来た時と同じように唐突に去っていきました。どうにか起きあがったルディは、左足に巻きついた紙に手をのばしました。でも、そこに書かれていた文字を見るなり、思わず息をのみました。
宝石店 住みこみ見習い 募集中
「住み込み見習い? この立派そうな店で?」
ルディはいかにも高級そうな店のショーウィンドウを見上げました。
———それって、ぼくでもできる仕事なのかな。もしもここで雇ってもらえたら、部屋だって食事だって心配しなくていいんだ……。でも、また断られてしまったら……。
その足じゃあ使いものにならんよ。
あの時のことを思い出すだけで、胸がぐさりと痛みました。それでも、できることはたった一つしかありません。
何度も迷ったあげく、ルディはやっと決心しました。そして恐る恐る店の扉に手をかけました。
✧ ダイヤモンドの言葉 ✧
チャンスが訪れたとき、それに手をのばす勇気をもつこと。たとえその時、あなたがどんなにひどい状況にいたとしても、古の奥義を忘れないこと。
☆第2章☆
☆第3章☆
☆第4章☆
☆第5章☆
☆第6章☆
☆第7章☆
※下記は、「ルディのダイヤモンド」のストーリーを紹介しながら、あなたの素晴らしい価値と可能性について気軽にお喋りしている、ポットキャスト「あなたとお喋り」です。お時間があれば楽しんでくれると嬉しいです。
第1章前半を紹介しながら
第1章後半を紹介しながら
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