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物語 「ルディのダイヤモンド」《第3章》

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《第3章》

 
 仕事に慣れてきたルディは、誰よりも早く作業場に行くようになりました。自分の道具だけでなく、先輩たちの道具や作業場の機械も手入れをすることにしたのです。

「ルディ。足が悪いことだけに目を向けるな。おまえにだってできることはたくさんあるし、おまえにしかできないことも必ずある。わしが保証するよ。おまえはいい子だ。そして特別な子だ」

おじいさんは、いつもルディにそう言ってくれました。親方の宝石店は繁盛していて、職人たちはみんな、毎日の注文をこなすのに必死でした。作業場の隅々まで綺麗にするゆとりは誰にもないようです。そのことに気づいたルディは、家でしてきたように、毎朝そうじをすることにしたのです。

 

 ひっそりとした朝の作業場で、ルディはまず、全部の窓を開けます。作業場の裏手に流れる水路の向こうに、朝日が少しずつ姿を現し、静かな水面にはやわらかな光が反射しています。新鮮な空気が部屋を満たしている間、ルディは時間をかけて床を掃いていきます。それからみんなの作業台を拭き、窓ガラスも磨きます。ランプのガラスについたすすをはらい、道具や研磨機の刃を慎重に研いでいくのです。
 ルディがそうじをするようになってから、薄暗かった作業場に、光がよく透るようになりました。職人たちの手元も見やすくなり、石を磨く精度が上がっていきました。店はそれまで以上に評判になり、さらに繁盛するようになりました。誰も口にはしませんでしたが、みんなのルディを見る目が少しずつ変わりはじめました。やがて、先輩たちも親方も、ルディに何かと大切な仕事を任せるようになり、もう誰も怒鳴り声をあげることはありませんでした。

 
 
 宝石店で迎えた二度目の冬のある日、親方がルディを呼びとめました。
「ルディ。地下室から新らしいやすりを取ってきてくれや」
ルディは少しびっくりしました。地下室に行くことができるのは、親方が信頼をおく、ごくわずかな職人だけだったからです。高価な原石を仕入れて保管をしておく場所でもあり、先輩たちの中でも、とりわけ長く働いてきた職人だけが出入りを許されていました。

 ルディはどきどきしながら、地下室に続く石づくりの狭い階段を下りていきました。古びた扉を開けると、冷たくひんやりとした空気が漂ってきました。中は暗く、腕をのばして灯りを高く持ち上げなければ、歩くのもままなりません。意外に広い部屋には、古くなった機械や原石をつめた箱がいくつも置かれています。
 目を凝らして前ばかりを見ていたせいで、すぐそばにあった本棚に気づかなかったルディは、棚の角に思いっきり体をぶつけてしまいました。左足がぐにゃっと折れ曲がり、激しい痛みが全身をつきぬけていきました。ルディが倒れたはずみで本棚ががたっと揺れ、一冊の本が勢いよく落ちてきました。ルディは思わず顔をゆがめました。本が見事に左足を直撃したのです。あまりの痛さに、一瞬気を失ってしまいそうでした。それでも、どうにか痛みをやり過ごし、ルディは体を起こしました。落ちてきた本が大きく重みもあったせいで、高価なものだったらどうしようと、心配で仕方がなかったのです。

 それはとても古そうな本でした。革ばりの表紙には「いにしえの宝石秘伝」と書かれています。なんだか無性に気になったルディは、痛みをこらえながら本を開いてみました。そこには、何千年も前から言い伝えられてきた、宝石についての不思議な話が、たくさん書かれていました。
 
 
「石にも人や動物と同じように命が宿っている。本当に美しい宝石をつくるには、石の心を愛し、その声に耳を傾けることが何よりも大切だ」
「石の声を聴くためには、まず心を静めること。そして、石への尊敬と愛を伝え、石が心を開くまで辛抱強く待つこと」
 
 
 気がつくと、ルディは夢中になってページをめくっていました。まるで、まったく違う世界に足を踏み入れた気がします。左足の痛みすら、いつの間にか意識から消え去っていました。
「ぼくも石と話すことができるのかな。そうなったらどんなにいいだろう。そうだ! これからこの本に書かれているように、ぼくも石たちの声に耳を傾けてみよう」
 作業場に戻ったルディは、忘れないうちに本に書かれていたことをノートに書きとめました。それは、ルディと石たちとの新しい関係のはじまりでした。
 
 

✧ ダイヤモンドの言葉 ✧
 
 何気ないことでも心をこめて続けているうちに、それが誰かにとって、かけがえのない価値になることがある。あなたが自分で選んだ環境なら、一度はそこにしっかりと心のいかりを下ろすこと。そうすれば、あなたは二つの贈り物を手にすることができる。一つ目は、他者からの信頼。二つ目は、自分の価値を見出す力。この二つの贈り物を手にしたとき、新たな成功の扉があなたの前に現れる。



※下記は、「ルディのダイヤモンド」のストーリーを紹介しながら、あなたの素晴らしい価値と可能性について気軽にお喋りしている、ポットキャスト「あなたとお喋り」です。お時間があれば楽しんでくれると嬉しいです。

第3章前半を紹介しながら

第3章後半を紹介しながら


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