タイ料理店繁盛記 面接編 その2
リーマンショックのあおりで店の売り上げが低迷していた時、
社長が「よしっ!こうなったら若くて可愛いタイ人の女の子を集めてお揃いのコスチュームを着せて男性客を呼び込むぞ!」
と言い出し、当時部長職であった俺に「可愛いタイ人アルバイトを集めて来い!」とぶん投げて来た。
まずは、知り合いのタイ人女性から、タイパブに勤めてる「蘭ちゃん」と言う名の女性が、可愛いタイ人女性を一杯知ってるから聞いてみる!
と言うので、タイパブのホステスさんかぁ、チョット面白そうだなぁ・・
と思い「今日中に連絡してみて!」と頼んだ。
その次の日に蘭ちゃんが詳細を聞きにお店に来ることになった。
「蘭ちゃん」って、どうせケバい中年タイ人なんだろうな・・・
と思っていたのだが、約束の時間通りに店にやって来た蘭ちゃんは、透き通るような白い肌にモデルの様な見事なプロポーションの美しい若い女性だった。
しかも蘭ちゃんは、頼みもしないのに若くて可愛いタイ人ギャル一人を一緒に連れて二人でやって来たのだ。
コンニチハ 蘭ちゃんで〜す!と、手を振りながら完璧な日本語の発音で挨拶をしながら
スルスルスルっとテーブルに移動し、慣れた感じで「ドーゾ」と俺を先に椅子に座らせ、「えっ?」と呆気に取られて座ってる俺の両隣に「失礼しま〜〜す。」
と満面の笑みを浮かべながら蘭ちゃんともう一人のタイ人ギャルが座り即席タイパブ状態に・・・
あ、あ、あのさぁ、蘭ちゃん・・・
これだとさぁ、話しづらいからさぁ・・・
テーブルの向かいに座ってくれないかなぁ・・・
と言ってるのに蘭ちゃんは人の話を全く聞こうともせず、体を密着させ、更に僕の足の上に手を置いて来て、「ネエ、テンチョウサン ドンナオンナノコガホシイノ?」と切り出して来たのである。
なんか真昼間から良いのかなぁ・・・
この体勢はちょっと話ずらいけどまぁいいか・・・
なんかどこからか強い視線を感じ、店内を見渡すと、休憩中のコックさんとバイト達がコソコソしながら「フニャフニャ」っとしているだろう俺の顔を睨み付けていた・・・
「フンッ!」とコック達を無視し、
あえて膝の上辺りに乗っている蘭ちゃんの手をそのままにして、話を進める事にしてやった。
あのね蘭ちゃん、今回の相談は、あくまでも健全なタイレストランのホールアルバイトの募集であって、タイパブみたいな接客はしないから、時給も千円以下、その代わり日本語はそんなに上手じゃなくてもオッケー!
などとこちらの趣旨を説明すると、蘭ちゃんは、時々僕の足の肉を軽くつまんだりしながら、今年の春に日本語学校に入学する為に来日した、友達を紹介してあげる!と約束してくれた。
そして、色々な話をしていくうちに蘭ちゃんの身の上話になった。
何でも蘭ちゃんは、タイの両親が厳しくて親子関係が上手く行かなくなり、家出同然で日本に来日してしまったが、住む家が無く、友達の家を転々としながらタイパブで働き、今は店のお客さんに「息子と付き合ってくれないか?」と頼まれてそのお客さんの家に一緒に住んでいると言っていた。
オイオイオイ、大丈夫なのかよそんな見ず知らずのタイパブのお客の家なんかに住んじゃって・・・
しかもお前はどんなビザで入国したか知らないが、不法滞在だろ?など、突っ込み所満載だったが、その辺はドライに、ただお話をしただけとしておかないと色々とマズイので黙って聞いていた。
30分程話を聞いていると、なんか時々蘭ちゃんの声が低くなる時があったり、顔の造形がほんの少し不自然な気がするぞ、まぁ整形してるのは間違いないとは思ったが、元は男、すなわちガトゥーイ(オカマちゃん)
なのかも知れない・・・
と感じて来た。
でもこんなに透きとおるような柔肌で、手だって全くゴツゴツしてないキレイな女の手だし・・・
とか考えていたら、そもそも「男と女、どっちかが当たり前、中間は否!」と言う考え方を持つ人達が多いからLGBTの人達が辛い思いをしなければならないんだよなぁ・・・
両親にも色々と言われて出て来ちゃったんだろうなぁ・・・
若くして大変な人生だよなぁ・・・
などと、勝手に考え込んでたら、蘭ちゃんに
「ねぇ!聞いてないでしょ?」と足をつねられ、「ああ、ごめんごめん」と我に帰る俺。
その後、蘭ちゃんはお店の同伴出勤にウチの店をよく使ってくれるようになり、色々なお客さんを連れて来てくれ、アルバイト希望の可愛いタイ人も紹介してくれ、素晴らしく貢献してくれたのである、しかも何の見返りも要求せずにだ。
その後、蘭ちゃんの素性が明らかになるのだが、それは置いといて、結局、蘭ちゃんの紹介から広がって、お望み通りに若くて可愛いタイ人ギャルが7人も働く事となり、社長の知り合いの某大手航空会社の元CAの日本人女性達から、身だしなみや立ち振る舞い、接客のいろはをご指導頂く事になったのだ。
俺は「そりゃぁちょっとやりすぎじゃねぇのか?無理があんだろぅ・・・」と思っていたが、社長が本気モード全開だったので言えなかったのだが、
案の定、親の金で日本語学校に留学に来て間もないお嬢様タイ人達は、
CA仕込みの厳しい指導に、初めのうちは楽しそうにやってたのだが、
「丁寧な口利きの軍隊顔負けの本気指導」に、みるみるやる気を失って行き真面目にやらないタイ人達に元CA軍団が
「彼女達には無理!もっとゆる〜く指導した方が良い」とダメ出しを喰らい、3回ほどの指導でその計画は頓挫したのであった・・・
仕方がないので、各店長が普通のアルバイトと同じように指導する事になったのだが、これがまた、想定外の事が何度も勃発し、今から思うとかなり面白い体験が出来た時期でもありました。
その3へ続く
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