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なれ親しんだ味
ある日突然
御用達の和菓子屋さんが消えた
季節の折に触れては足を運んだ
卒業入学には紅白饅頭
春先には草団子
桜の季節には桜餅
端午の節句にはちまきに柏餅
夏のわらび餅
十五夜にはお月見団子
お祝いごとにはお赤飯
親もわたしのこどももそのお店の和菓子が最上級
和菓子も大好きな我が子
見た目も素朴な和菓子たち
だけれどそこには本物がたしかにあった
時代遅れだったのかも知れないが…
もう二度とあの餡も、団子も、わらび餅も味わえないことが母もそして我が子もわたしも残念でならない
ご近所の方ですら忽然と無くなったと話されていた
閉店などのお知らせも一切なく
夏だったと思う
まだ幼子の我が子を連れてわらび餅を買いに行った
既に売り切れていて少しご主人とお話した
早朝から独りでわらび餅を練り上げる(この表現が正しいのかわからない)ので数が限られること
一度だけわらび餅を手づくりしたことがある
たった少し作るのにそれはもう大変な労力だったことを覚えている
きっと餡もそうだったのだろう
どのお菓子も一つ一つ手づくりであることは形から察していたが、まさかご主人独りでされているとはこの時初めて知った
変わらない味はご主人が守っていたのだ
その際、ご主人にはお子さんがいたようなお話をされていたのだが跡目は継がれないような口ぶりだった
帰りに我が子に飴をくれた
ご主人の気さくなお人柄が笑顔とともに今も忘れられない
寂しくてならないけれども
悔やまれることはもっと訪れる機会があったはずなのにと…
呉服屋さん、酒屋さん、鶏肉屋さん、お茶屋さん、乾物屋さん
高齢化してゆく町、お店も同じく歳を重ね後継されないお店がポツリポツリと消えてゆく
人々の生活習慣の変化や大量生産などの技術革新で消えてゆく小さな町の専門店が日本には星の数ほどたくさんあるのだとしんみりした
小さい町だけれどお肉屋さんのお肉とコロッケ
魚屋さんのお刺身や塩抜きされたあさりも美味しい
花屋さんは同じ歳の同じ幼稚園だった子が最近継いで居るのを知った
皆目利きの素晴らしいお店だ
なくならないでほしいがわたしにできることは買い支えることくらいだ