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家電売り場に河出文庫
2022 10/13(木)
たまに、どうしてこんな所にこんなものが売っているのだという光景を見かけることがある。
近所にあるSEIYU練馬店・2号館の家電売り場で、バーゲンブックセールをやっていた。
バーゲンブックとは出版社が自ら新本を割引しているものである。
古本ではなく、非常にお得な価格設定で売られているのが特徴である。
大きな本屋の一角などで目にすることがあるが、家電売り場にあるとは、
驚いて二度見してしまった。
これは、掘り出し物が見つかるかもしれません、ふふふ。
急に、植草甚一みたいなテンションになった俺は、バーゲンブックセールに近づいた。
本がぎっしり並べられた大きな平台が三ヶ所ある。
バーゲンブックセールとしては、まずまずの規模だ。
明るい家電売り場なので、どんな本があるのか離れていても見易い。
見たところ、料理のレシピ本や手芸に関する本、子供向けのヒーローの本や絵本、その他、写真集のような本が多い。
俺の生活には縁がなさそうなジャンルだ。
ゆっくり見て回ったが、三ヶ所ある平台の内、二台はそんなラインナップだった。
だが、三台目に来た時に、「寄席」という文字が目に入った。
突然、縁のあるキーワードが飛び込んで来た。
この三台目には何かがありますね、ふふふ。またもや植草甚一が出てきた。
こういう場合、俺はすぐには近づかないようにしている。
いったん、脳が興奮している状態を楽しみたいのだ。
身体がブルッとして来て、ちょっとおしっこに行きたくなる感じだ。
しかし、待てよ、今までのラインナップの流れで「寄席」に関する本となると、これはもしや、レシピ的な「寄席はじめて入門」あるいは、子供向けの「寄席はたのしい 寿限無・まんじゅうこわい」などの類ではないのか。
今更、そんな入門書は読もうと思わないし、子供向けの寿限無、まんじゅうこわいをおっさんになってから読もうとも思わない。
大体、なんで子供向けの落語の本は、判で押したように、「寿限無」とか
「まんじゅうこわい」なのだ。
「居残り佐平次」とか「品川心中」などを取り上げて、大人の世界を勉強させなさい!
教育委員会から猛反対にあいそうな演目であるが、ひねくれたガキなら絶対に喜ぶ。いや、その前に、ひねくれているということは、そのガキは既に
「居残り佐平次」や「品川心中」などを聴いているはずだ。
次は「五人廻し」位を聴かないと、満足できないレベルになっているに違いない。末恐ろしい。
思わず立ち止まって妄想したものの、家電売り場の明るさで、三台目のラインナップが一気に目に入って来た。
「寄席はるあき」だ!なんと、安藤鶴夫の名著だ。
よかった、入門レシピ本でも子供向けでもない。
「わが落語鑑賞」もある。これらは河出書房新社から出ている。
それも河出文庫だ。河出文庫は信用できる。俺の好きな本は大抵、河出文庫にある。やばい、おしっこに行きたくなって来た。落ち着け。
考えてみれば、この二冊は昔、読んだことがある。
もし、読んだことがない河出文庫があれば、やばい、いっぱいあるじゃないか。この三台目は宝の山だ。
平台には河出文庫の黄色い装丁が黄金のように眩しい。
俺はまもなくウンコが漏れそうな位に興奮し、タイトルを確認していった。古川緑波著「ロッパ随筆 苦笑風呂」
なんだこれは、こんな本、見たことがない。ロッパの昭和日記は知っているが、随筆は見たことなかった。
確かにロッパは芸人であり、作家でもあったので、随筆集は世に出ているだろう。それを練馬のSEIYU2号館、しかも家電売り場で出会うなんて。
最近、日記やエッセイを書き始めた俺が、まさに今読むべき本ではないか。400円。安い。誰かに買われたらまずい、一刻も早く鞄に入れなければ、いや、鞄に入れたら万引きだろ!
ともかくこの手でしっかり握らなければいけない。
俺は1ページも立ち読みすることなく、それを確保した。
さらに黄金のラインナップは続く。
森山大道著「犬の記憶」
井上ひさし著「ブラウン監獄の四季」
米沢嘉博著「藤子不二雄論」
北尾トロ著「いきどまり鉄道の旅」
谷部金次郎著「昭和天皇と鰻茶漬」
なんなんだこの興奮するタイトルの数々は。
「昭和天皇と鰻茶漬け」など大喜利のお題のようではないか。
そんなお題が出たら、誰もふざけてボケられないではないか。
俺はそれぞれの値段を見た。どれも400円ほどだ。迷うことなく重ねて手に取った。
今、悪い奴が来たらどうしよう、早く、レジに持って行こう。
行きかけた刹那、平台になぜか小さな棚があって立てかけられている本があった。キネマ旬報社、宮崎祐治著「東京映画地図」見逃すところだった。
危ない危ない。
またもや1ページも立ち読みすることもなく、手に取った。
俺はすべての本を抱え、レジへ向かった。
俺の前には、最新式の炊飯器を抱えて並んでいるおじさんがいた。
そうか、ここは家電売り場だった。