【文献レビュー】栄養素及び食品群別摂取推定のための食品群をベースとした食物摂取頻度調査票の作成および妥当性
今回は、2001年に公表された論文のレビューをさせていただきます(私の研究範囲を主に抜き出しているため、必要部分を書いているとは限りません)。この論文は、栄養学雑誌第59巻第5号の221-232頁に掲載されています。
<URL>ja (jst.go.jp)
文献の詳細
・フォルダ名:6.1-1000
・ファイル名:6_takahashi_0001
はじめに
食事記録法、24時間思い出し法→食物摂取頻度調査法が利用されるようになった。
→個人の健康状態や疾病に影響を及ぼすと考えられる長時間の食事摂取状況を推定する方法。
食物摂取頻度調査法
・食品リストにより設定された重量とその頻度を回答する方法[1]。
→時間やコストがかからないという利点。
・特定の食物や栄養素の摂取量を知ることを目的に作成された食品リストによる調査は米国で開発され、食品や栄養素の摂取と疾病の関係を見出す疫学調査で利用されている[2-7]。
・古野ら[8]はがん研究への利用を目的として、170項目の食品リストを使用して、その摂取量と頻度を尋ねる方法を検討。
・伊達ら[9]は食品リストの代わりに122種類の料理と過去2か月に1回以上摂取した料理を聞き取る方法を示す。→妥当性を報告している。
→料理で質問することは、食品への分解の必要がないために、料理に携わらない者にとって有効な手段である、としている。
1981年「食物摂取状況調査[10.11]」 厚生省健康指標策定委員会案
・日本では、疫学調査ではなく健康増進の目的で個人の栄養摂取状況を把握するため
・6つの基礎食品を基本に、それぞれの食品群の1回または1日の平均的な摂取量を回答し、80kcal単位に換算して計算するもの。
・この調査法をベースにして、摂取頻度も加え、食品群ごとに摂取量と頻度を尋ねる方法が開発されてきた[12-15]。
→多くても30種類程度の食品群にまとめて質問するのが大きな特徴である。
目的
今回、質問する食品群と食品群ごとのポーションサイズおよび調理法を見直し、さらに食品イラストも利用して、日常の1-2か月程度の期間の栄養素及び食品群別摂取量を推定する方法(=食品群による食物摂取頻度調査票(以下、FFQg))を開発し、1週間の食事記録(以下、記録法)と比較して有用性を検討した。
研究方法
食物摂取頻度調査票(FFQg)の作成
1.食品群分類
・森本ら[10]が使用した食品群分類を参考に、さらに細分化して29食品群とした。
・食品群の種類については、第5次改定日本人の栄養所要量で示された食品攻勢に再構成できる分類を採用し、適正量を求めやすくした。
・砂糖や食塩、油脂類の摂取量を推定するために、ご飯もの、煮物、和え物、揚げ物、炒め物、汁物など調理法の質問を設けた。
→これらの食品は調味料として使用されていることが多く、どの程度使用されているか把握が難しい。
→どのような調理法で料理を食べるかという観点からも計算できるようにした。
2.ポーションサイズの決定と食塩ファクター
・食品群ごとの1回あたりの摂取量(ポーションサイズ)の基準量を表1通りに決定した。
・ポーションサイズの基準量は、1997年に徳島県で実施された「県民健康・栄養調査[16]」データから各食品ごとに、主な調理法による平均値または最頻値を求め、1回あたり摂取量とした。
・多種類の調理法にわたる食品については、常用量を採用した。
・各家庭の味付けについて、外食料理の味と比較した質問を設けた。食塩の計算時にこれをファクター化し、乗じることとした。このファクターは、1998年実施の徳島県農業従事者の栄養調査[17]に測定した各家庭の味噌汁の塩分濃度とFFQg法の選択カテゴリーから求めた。
3.カテゴリー分類と頻度
・ポーションサイズの重量カテゴリーを3段階設けた。なお、1か月1-2回程度以下の頻度で摂取する場合は「食べない」を選択することとした。
・頻度の回答は、朝・昼・夕食事に過去1-2か月間における1週間の平均的な摂取回答することとし、1週間の回数で調整するように回答二に支持することとした。
4.調査票の記入
調査は、自記式とし、専門知識を有する者がそれを介助する形を基本にした。そのため、設問内容や食品の概量が一般の人々にも把握しやすいように図式化した。なお、質問用紙(資料)については、一部を掲載したが、FFQgおよび計算に使用した荷重平均成分表等は提供することができる。
5.栄養素摂取量等の算出
FFQg法の栄養計算に用いる食品成分表は、1997年に徳島県で実施した県民健康・栄養調査から、荷重平均成分表を作成し、エネルギー、三大栄養素、微量栄養素および脂肪酸摂取量の計算が可能な成分表を作成した。FFQg法による1日当たり栄養素摂取量は、食品群ごとに次式により求めたうえで合計した。
栄養素摂取量
=食品群ごとのポーションサイズ(g)×重量カテゴリー2×摂取回数/7×荷重平均成分表の食品群100gあたりの各栄養素量/100
・重量カテゴリー別の倍数を乗じる。重量カテゴリーのない質問はこの項を省く。
・食品群別摂取量は、食品群ごとのポーションサイズ(g)×重量カテゴリー2×摂取回数/7で算出した。
食物摂取頻度調査票(FFQg)を用いた調査の再現性と妥当性
1.対象および調査機関
・FFQg法による推定摂取量の妥当性を検討するために、7日間記録法を実施して対照とした。両調査は、食物栄養専攻学生53名、およびその父母など協力を得られた成人13名で実施した。
・記録法の調査機関は1999年1-3月の連続した7日間である。
・FFQgは食事記録を実施した後、2週間程度経過してから食事記録を実施した1週間を含む過去1か月間の食事を対象に、平均的な1週間について回答を求めた。
2.FFQg法と記録法の栄養素及び食品群別摂取量の比較
・記録法による食品の摂取量については秤量を基本にして記録してもらったが、外食や市販惣菜等その素材の不明なものについては概量から重量を求めた。また、油脂類や調味料などで秤量できなかったものについては調味パーセントから調味料ごとの重量を求めた。
結果
1.FFQgの再現性
FFQgを食事記録の前後に実施した19名については、前・後の間でエネルギーおよび栄養素摂取量の相関係数を求めた。エネルギー(0.54)、タンパク質(0.53)、脂質(0.63)、炭水化物(0.49)、カルシウム(0.63)、リン(0.54)、鉄(0.54)、レチノール(0.78)、ビタミンB1(0.49)ビタミンB2(0.60)、コレステロール(0.72)については、P<0.05の相関が得られ、食品群別摂取量についても米類(0.52)、パン類(0.71)、麺類(0.52)、卵類(0.69)、大豆・大豆製品(0.63)、牛乳(0.89)、その他の乳製品(0.54)、砂糖(0.63)、その他の嗜好飲料(0.61)、油脂類(0.67)、味噌(0.73)で0.5以上の相関が得られた。また、記録法の前と後の栄養素摂取量の平均値の比は、19栄養素中16種類で90-110%の範囲であった。
2.FFQg法と記録法による栄養素摂取量の比較
両調査法による平均栄養素摂取量を比較すると、エネルギー、タンパク質、脂質、炭水化物など主栄養素はFFQg法がやや高値であった。平均摂取量のFFQg法と記録法の比はエネルギー106%、タンパク質103%、脂質108%、炭水化物103%、カルシウム105%であり、やや過大評価された。一方、鉄(89%)、ビタミンD(87%)の摂取量は少なく見積もられた。31栄養素中19種類の栄養素については、FFQg法と記録法との日が90-110%の範囲にあり、全栄養素の平均の比は104%であった。
3.FFQg法と記録法による食品群別摂取量の比較
食品摂取量の相関係数が高値であったのは、米類、パン類、牛乳、その他の乳製品、果物、ジャム・はちみつ類、菓子類、バター・マーガリン、漬物類、味噌で、29食品群中22種類について有意な水準が得られた。FFQg法の記録法に対する日においては、肉・肉加工品類、大豆・大豆製品、その他の野菜・キノコ類、菓子類、梅干し・佃煮類、漬物類が大きかったが、魚介類、卵類、緑黄色野菜、いも類、砂糖、油脂類、種実類(ゴマ)、味噌については90-110%の範囲にあった。特に少なく見積もられた食品群は海藻類、バター・マーガリン、種実類、調味料類(しょうゆ・ソース類)であった。
4.FFQg法に設定したポーションサイズと記録法による1回あたり推定摂取量の比較
記録法から推定された1回あたり摂取量とFFQg法で設定した重量カテゴリーごとの重量との差が±25%以内であった者の割合(適正回答率)は、15食品群の平均で34%であった。海藻類、いも類、調味料類(しょうゆ・ソース類)は適正回答率が低かった。一方、FFQg法の重量カテゴリー「2.普通」を選択した人の記録法での1回あたり推定摂取量(平均)と、FFQgの基準ポーションサイズとの差が±25%以内であった食品群は、15食品群中、肉・肉加工類、魚介類、緑黄色野菜、その他の野菜・キノコ類、果物、いも類、種実類(ゴマ)の7種類であった。
5.味の感じ方によるファクターを用いた食塩摂取量の比較
FFQg法で質問した外食料理の味の感じ方により、カテゴリー別に食塩摂取量の平均値を求めた。FFQg法と記録法での食塩摂取量の平均値を示した。FFQg法でファクターを乗じて補正した食塩摂取量と補正をしなかった食塩摂取量を、記録法による摂取量と比較すると、「1.家庭の味より外食の味を薄く感じる」と回答した者の補正ありとの差は0.39g、補正なしとの差は1.40gであった。同様に、「2.家庭と外食の味はほとんど同じ」と回答した者では補正あり0.04g、補正なし0.57gで、両者ともファクターを用いて補正した方が記録法との差が小さくなった。