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【文献レビュー】要介護状態にない都市郊外高齢者の健康寿命を規定する社会経済的要因、健康三要因と食生活状況との因果構造

今回は、2014年に公表された論文のレビューをおこないます。この論文は、社会医学研究第31巻2号に掲載されています。
<URL>31-2-12.pdf (umin.jp)

文献の詳細
・フォルダ名:5.1-1000
・ファイル名:5_fujii_0001


目的

 要介護状態ではない都市郊外居住高齢者における健康寿命を規定する社会経済的要因、健康三要因、それに食生活状況の因果構造を、前期・後期高齢者群別をさらに性別に分けた4群で明確にすること。このような因果構造が明確になることで要介護状態にない高齢者の食生活を介した健康長寿を目指す健康教育の現場に生かすことが期待される。

方法

1.調査方法と調査対象

調査対象都市:東京都副都心部から電車で30分ほどの距離に位置する人口14万人のニュータウン
調査方法:郵送自記式質問紙調査

初回調査:2001年9月 東京都郊外A市在住、65歳以上の高齢者16462名
回答数:13195名(回収率80.2%)→基礎的データベースとする。
追跡調査:3年後に同様な質問紙調査によって同一人を調査し、データをリンクした。

両者の調査できた8560名
・初回調査から3年間に市外に転居した275名
・2001年時点で要支援・要介護認定者365名
→85歳以上の274名を除き、7646人の要介護状態にない高齢者を対象として解析した。

表1 分析対象

2.分析項目

2001年の調査項目:年間収入額、健康三要因(精神、身体、社会的要因)
2004年の調査項目:最終学歴と食生活状況

3.分析項目に対する探索的因子分析

今日分散構造分析に用いる潜在変数を探る目的として
・健康要因である9項目
・社会経済的要因とした学歴と等価所得、食生活状況とした食品摂取得点、食事習慣得点
・高脂血症の有無の14項目
→5つの因子を抽出した。
①    健康の精神的要因
②    健康の社会的要因
③    健康の身体的要因→「健康三要因」と命名。
④    最終学歴と等価所得→「社会経済的要因」と命名。
⑤    食品摂取得点、食事習慣得点と高脂血症の有無→「食生活状況」と命名。

結果

1.前期・後期8高齢者群毎に性別にみた分析項目の調査実態

前期・後期高齢者群毎に性別の核分析項目の選択肢の傾向を明確にするために、有意水準0.1%(両側)でケンドールの順位相関係数の有意差検定を用いた。
・食品摂取得点は、前期・後期高齢者群ともに女性で男性よりも有意に高得点であった。
・食事習慣得点は、後期高齢者群で男性のほうが女性より有意に高得点であった。
・社会経済的要因の調査実態は、前期・後期高齢者群共に男性のほうが女性より学歴が有意に高く、等価所得も有意に多い傾向があった。
・健康三要因の調査実態に関して、主観的健康感、昨年比較健康は、前期・後期高齢者群共に男性は女性よりも有意に望ましい傾向があった。
・治療疾病数は、前期高齢者群で男性のほうが女性よりも有意に多い傾向があった。
・IADL得点は、前期高齢者群で女性のほうが男性よりも有意に高得点の傾向であった。
・近所付き合いは、前期・後期高齢者群共に女性で男性よりも有意に多い傾向であった。
・外出頻度は、前期・後期高齢者群共に、男性は女性よりも有意に高頻度な傾向であった。

2.分析項目間並びに分析項目と要介護状況、生存日数と相関係数

分析項目間並びに分析項目と要介護状況、生存日数との関連は、ケンドールの順位相関係数の有意差検定を用いた。
・分析項目間の関連は、全項目間において有意水準1%で有意な性の相関がみられた。
・各分析項目と要介護状況との関連は、食事習慣得点を除き有意水準0.1%で有意な負の関連が見られた。
・各分析項目と生存日数との関連は、学歴を除き有意水準0.1%で有意な正の相関がみられた。

3.社会経済的要因、健康三要因、食生活状況と健康寿命との因果構造
・食生活構造を、性別さらに前期・後期高齢者群別で分けた4群で同時分析を実施した結果
・「健康三要因」から「食生活状況」への直接効果である標準化推定値は、男性が0.197-0.096、女性が0.233-0.200
・「食生活状況」から「健康寿命」への直接効果である標準化推定値は、男性が0.010-0.083、女性が0.160-0.238
・「健康三要因」から「健康寿命」への直接効果である標準化推定値は、男性が0.348-0.735、女性が0.216-0.648を示した。
・「健康三要因」から「食生活状況」を経て「健康寿命」を規定する間接効果の標準化推定値は男性が0.002-0.008、女性が0.037-0.048を示した。
・「健康三要因」から「健康寿命」への標準化総合効果は、男性が0.350-0.743、女性が0.253-0.696であり、男性のほうが女性よりも高い値であった。
・「社会経済要因」からの「食生活状況」への直接効果、間接効果、総合効果の標準化推定値は、男性よりも女性のほうが高い値であった。

考察

・要介護状態にない在宅高齢者を対象にした追跡調査から、社会経済的要因は構造的にみて男女ともに健康三要因、食生活状況に対する基盤要因に位置付けられ、女性のほうが男性より望ましい影響を与えていた。
・健康三要因も男女共にその後の健康寿命に望ましい影響を与えていた。
・健康寿命への食生活状況の効果は、女性では望ましい影響を与えていたものの、男性では直接効果が非常に小さく、社会経済的要因が背景基盤になり、健康三要因が望ましいことに基づく結果要因であることが示された。一方、要介護者を含めた在宅高齢者是認を対象にした追跡調査から、男女共に食生活状況を含めた生活習慣の健康寿命への構造的な影響は見られなかったことが報告されている。

社会経済的要因は構造的にみて基盤要因として位置づけられ、女性のほうが男性よりも健康寿命の直接的な規定要因である食生活状況と健康三要因に影響を与えていた。


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