「お兄ちゃん!」弟が呼んできた。
にっこりして返事をした。
毎日が楽しくて、おかしなことが起こるはずはなかった。
「行ってきます!」家を出て、毎日のように山の中を歩いていった。
今日も街中はにぎやかで、皆が持ってきた薪を買ってくれた。
これで食べ物は買えるだろう。
時間がたつことを忘れて食べ物を買っていると、夕方になってしまった。
「遅くなったな…帰らないと」森の中を歩いていると、いやな予感がしてきた。
足を速めた。こんなことが起きていいのだろうか。
足をどんどん速めた。
いつもなら20分ほどかかるところをたったの5分で着いた。
「ッ!」ドアが開いていた。
出ていったときには閉めたはずだ。
おそろう遅る近づくと、鼻をつまんだ。
不吉な匂いがしてきた。
腐ったようなにおいが。
「どうした!」叫んだが、返事は聞こえてこない。
その代わりにうなり声が聞こえてきた。
「ㇵッ!」目の前に見えた風景を忘れることはなかった。
家族は生きているのかもわからなかった。
服は刻まれていて、血が地面に飛び散っている。
家族の目は赤く、こっちに気づくとにらんできた。
「どう…したんだ…?」近づこうとしたが、足が言うことを訊かなかった。
ゆっくりとこっちに近づいてくる。
足が言っていた。逃げたいと。
恐怖に満ちて逃げ出していった。
足が出せる一番早い速度で逃げた。
必死で逃げた。
後ろからはうなり声が聞こえてきた。
家族は全員が人間じゃなくなってしまった。
うなり声が近づいてきた。どんどん近づいてきていた。
逃げきれないと思った。死ぬのだと。
すると、横を何かが通り過ぎた。
後ろで悲鳴のような声が聞こえるのを境にうなり声が聞こえなくなった。
「お前、何をしていたんだ」後ろを見ると、顔が真っ青になった。
目の前で倒れていた。胸が真っ二つになって倒れていた。
そこからは何色かはわからない血が流れ出ていた。
「なんてことをしてくれたんだ!」混乱していたんだと思う。
俺は俺の恩人に向かって突入した。
だが、彼はひらりとよけた。
「なんで殺したんだ!彼らは僕の家族なんだ!愛してきた家族なんだ!」完全に涙目だった。
涙を飲み込むことができなかった。ボロボロと涙が流れ出てきた。
彼は一瞬止まると、振り返ってきた。
「それならお前が助けられるとでもいうのか!現実を見ろ!こいつらはお前の家族だったとしても今は違う!」
彼の目にはいら立ちが見えていた。だが、その中には悲しみもあった。深い、悲しみが。
「彼らは死人ゾンビになったんだ!戻す方法は存在しない。殺さないと増えるばかりなんだ!俺だって殺したくはないんだ!」
彼の叫び声は悲鳴のようにも聞こえた。心の深くまで響く悲鳴に。
何も言い返せなかった。
言い返そうとしても言葉が思いつかなかった。
「そうだよ…な…ごめん、混乱してたみたいだ」俺は無理やり笑みを浮かべた。
だが、その笑みは乱れてしまい、しまいには涙へと変わった。
「分かってるよ…わかったよ…ごめん…」
彼は去る前に一言だけ残していった。
「もしも助けたいならお前が助けろ」その意味は分からなかった。
だが、すぐにわかっただろう。教えてくれたのだから。
僕の勘が。
「彼のようになるしかない…ゕ…」