築100年越えの有形文化財に宿泊した話
文化財保護法に基づき歴史・文化・芸術的に価値があるとされる有形文化財。その中でも特に価値があると文化財登録制度に基づいて登録されるのが登録有形文化財だ。そんな登録有形文化財に宿泊したお話。
伊豆大島を脱出
前回、サークルの活動で伊豆大島をチャリで1周し、私とガチ勢の友人は他のメンバーに別れを告げ帰りのフェリーを見送ったところまでを書いた。
で、この後どうするのかというと当然島をもう1周走る!……なんてするはずもなく、後続のジェット船を待つ。そもそも友人はチャリのブレーキが爆発してしまったため、ガチサイクリングは不可能。
それにしても、フェリーとジェット船を見比べると改めてフェリーの図体のでかさがよくわかる……と言いながら比較用の写真を撮り忘れてしまった。
ちなみにジェット船の運行はフェリーと同じ東海汽船。ジェット船はお値段高め&座席から動けないというデメリットがあるが、フェリーが大島から東京まで4時間半かかるのに対しなんと2時間程度で着いてしまう。東京から大島へ行くフェリーは夜行なので睡眠時間を移動に充てられるが、逆方向は昼行便なので純粋にジェット船の方が有利だろう。
ジェット船は飛行機と同じ原理でガスの代わりに海水を噴射して推進力を得て、水中の翼以外の船体を海上に浮き上がらせることで時速 80km という高速走行を実現しているらしい。これは面白い。
というわけでさっそく東京行きのジェット船に乗船……かと思いきや、なんとこの便もスルー。ジェットエンジンの爆音を撒き散らしながら出港していく姿を見送った。
で、さらに1時間ほど待ち熱海行きのジェット船にようやく乗船。大島は東京・横浜・久里浜方面だけでなく伊豆半島の熱海・伊東・下田とも結ばれているのだ。というか距離的には伊豆半島の方が断然近い。
伊東に到着
ジェット船のほどよい揺れにうとうとしていると、あっという間に伊東に到着。道中の写真も撮り忘れてしまった。ここで降りる人はあまり多くなく、終点の熱海まで乗り通す人の方が多数派だった。
で、折りたたんだチャリをわっせわっせと必死に背負いで歩いていくと見えてきたのが……
川沿いの巨大木造建造物!
東海館とケイズハウス伊東温泉。宿泊できるのはケイズハウスの方だ。
川沿いの雰囲気めちゃくちゃ良いな。
で、グルっと回って入口の方へ。この狭い路地がいいなあ。
ちなみに東海館とケイズハウスは繋がった1つの建物のように見えるが、上の写真のようにほんの少しだけ間の空いた別々の建物となっている。
ケイズハウス伊東温泉へ
ケイズハウスの入口へ。元々は「旅館いな葉」として営業していたが、2007 年に閉館した後外国人向けホステルとして再開したとのこと。とはいえ建物は昔のものをそのまま整備して使っているようだ。
外装はもちろんだが、内装についても過去の旅館をそのまま継承しているのだろう。築100年というわりには驚くほど綺麗に整備されている。
部屋の中はこんな感じ。木造ゆえに他の部屋の物音や上の階の足音などはよく聞こえてしまうものの、特に不自由せず快適に過ごすことができた。なお、バックパッカー向けの和室ドミトリーもあるらしい。
館内を散策して最上階の望楼へ。ここから市街を一望することができる。
……といっても映えるのは東海館・ケイズハウスが見える景色であって、こちらから見る景色は「まあ普通の街並みだなあ」という感じ。この望楼が造られた時代には高い建物などほとんどなかっただろうから、当時の宿泊客はさぞ良い景色を拝めたことだろう。
隣の東海館側を見るとこんな感じ。かつては川沿いに旅館が建ち並んでいたらしいが、今はこの2軒だけになってしまった。
屋根瓦が至近に見える景色、なんか良いなあ。東海館も旅館いな葉も増改築を繰り返して大きくなった建物らしく、構造的に若干チグハグな部分があるのが面白い。
古い建物あるあるの急な階段。こういう景色、たまに夢に出てくるのだが何の記憶なんだろう。
館内の散策後は外へ出て伊東市街をぶらぶら。……といってもあまり見るものはなかったのでお食事処に突撃。伊東名物のうずわめしをいただいた。やはり海鮮が美味しい。
それにしても何やら個性の強いお店だった……。
腹を満たした頃には日もすっかり落ちており、アーケード商店街のシャッターも同様に落ちていた。もう少し駅に近い小道はもっと賑わっているのだが、なぜかそちらにはアーケードがないという。どういうことだろう。
で、再び川沿いの景色。夜景の方が映える気がするな。
昼間は気にしていなかったが、夜になるとライトアップで竹に彫られた模様がよく見える。竹から漏れる光と灯籠ライクな街灯の温かい光が調和して幻想的な雰囲気を作り出している。……まあ奥の方に眩しい LED 街灯が輝いているのだが。
昼の写真でも東海館の方をメインで撮っていたが、夜になるとますます東海館の方が目立つ状況だ。というのも、ケイズハウスは普通に宿として営業しているので明かりが全開で灯っているはずもなく、一方で東海館は博物館になっているのでライトアップの意味も込めて光っているわけだ。
ちなみに、大正時代に設立された旅館いな葉に対し東海館は少し遅れてギリギリ昭和に入ってからの建物で、まだ築100年には満たないとのこと。前述のように旅館いな葉と共に増改築を繰り返して大きくなっていった背景から、同じ温泉旅館として競い合っていた歴史が伺い知れる。
今回の旅では東海館の方は完全にノータッチだったが、入館料も安くなんと土日は温泉にも浸かれるとのことで、もし興味があればぜひ訪れてみてほしい。私もまた伊東に行く機会があれば中に入ってみたいところだ。
それにしてもマジで趣のある景色だ。
というわけで宿に戻ってきて、温泉に浸かってぐったりした。
部屋の窓からの展望はこんな感じ。上の階の方が景色は良さそう。
ちなみに、当時はコロナ禍が完全に明けていない時期だったためお客さんも日本人がメインだった。元々は8割くらいが外国人観光客だったとのことで、インバウンド天国の昨今では日本人はほとんどいないかもしれない。
外国人にとっては伝統的な旅館のシステムは面倒に感じることも多いだろうから、ホステルという形で伝統的建築物に宿泊する体験をリーズナブルに提供するのはなかなか良い着眼点だと感じた。
翌日
そんなこんなで翌日。本来はここから東京まで 130km ほどのガチサイクリングが始まるはずだったのだが、チャリが壊れてしまってはどうしようもないのでのんびりと起床。
で、向かったのは池田20世紀美術館。別荘などが建ち並ぶ丘の上にあり、しかも至近のバス停は便が少ないなどアクセスはけっこう悪いので注意。今回は少し離れたバス停から頑張って歩いていった。
20世紀と名に付くだけあり、展示品は基本的に20世紀の美術品オンリー。展示はけっこう充実しており他のお客さんもほとんどいなかったため、名だたる画家たちの作品をゆっくりと眺めることができた。なお、館内は撮影禁止だったため入口付近の写真で誤魔化している。
その後、最寄りのバス停で伊東へ帰る便をタッチの差で逃してしまい、またしても別のバス停へ歩いていくことに。すると道中、一碧湖という湖を発見した。これはなかなか良い景色だ。
一碧湖は過去の噴火で出来た火山湖で、この景色は日本百景に選ばれているとのこと。伊豆半島はかつて火山活動が活発だったという話はよく耳にするが、ここまでデカい火口ができる噴火って一体どんな規模だったんだろう。
湖の中にはポツポツと島があり、そのうち1つには遠くからでもよく見える赤い鳥居が。水上鳥居っていいよね。
伊東に戻ってからはお昼ごはんを食し、宿で荷物とチャリをピックアップしてから伊東線で北上していく。
いい天気だなあ。チャリが無事な世界線ではあの道路を爆走していたことだろう。
熱海で東海道線に乗り換え、小田原からはロマンスカーに課金して新宿まで 突撃。車両後方の席を予約して、チャリは席の後ろにえいやと押し込んだ。
ギリギリ帰宅ラッシュが始まる前ということもあり、新宿駅ではなんとかスムーズに乗り換え無事に帰宅できた。
おわりに
というわけで、大正時代に建てられた築100年超えの登録有形文化財に宿泊した話だった。今はインバウンドの影響で混雑・値上がりなどしているかもしれないが、大変趣のある歴史的建造物に宿泊するというのは貴重な体験で昔の人々や文化に思いを馳せるのも楽しいため、伊東を訪れる機会があれば宿の選択肢としてぜひ考えてみてほしい。
……といったところで今回はここまで。
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