酒田で誰もいない観光地を巡った話
「鉄道開業150年記念ファイナル JR東日本パス」というフリーきっぷを利用して北陸から東北を巡る旅行記その2。前回はダイヤ改正で廃止されるほくほく線の超快速スノーラビットに乗車し、その後日本海を北上して山形県の酒田に到着したところまでを書いた。今回はその続きから。
ところで酒田市についてあまり詳しくない人も多いと思われるため軽く紹介したい。酒田市は山形県北西部の日本海に面する港町で、最上川の河口に位置するという地の利を活かし水運の拠点として大きく発展したという歴史を持つ。人口は 10 万人にやや満たない程度だが、県庁所在地の山形市、お隣の鶴岡市に次ぐ県内3位となっている。というか山形県の人口少なすぎるだろ……。
交通手段の主役が水運から鉄道・自動車へと変化しても要所としての役割は続いているらしく、前回述べたように特急いなほの多くは酒田を終点とするほか、在来線も全ての便が当駅を起終点とする運用になっている。そんなわけで人口の割にはかなり立派な駅舎。最近リニューアルしたらしく、駅周辺もまだ工事が続いている様子だった。
レンタサイクルでぶらぶら
で、駅近くの観光案内所で無料のレンタサイクルを借りる。酒田市は観光にかなり力を入れているらしく、レンタサイクルは無料で借りられる上に返す時は市内 10 箇所の貸出所どこに返しても良いという大盤振る舞い。チャリは最強の MaaS だと思っているため、大変ありがたい。
チャリで宿へ向かいつつ、面白そうな場所をぶらぶらと寄り道。しばらく走ってまず驚いたのが、圧倒的な人の少なさ。自動車はまあそれなりに走っているのだが、歩いている人が全然いない。観光客ももちろんいない。
駅から少し離れた中心街っぽい商店街もこんな感じ。手前の県道はそれなりに車が走っているが、商店街へ入っていくものはいない。
あまりにもシャッター街。
これはおそらく地方都市のドーナツ化現象で、自動車中心の社会となった結果市街の中心部を迂回する国道・県道沿いにロードサイド店が立ち並び、中心部は衰退してしまったという流れだろう。実際に地図を開いてみると、国道7号が酒田バイパスという形で中心部を迂回しているようだ。
ちなみに駅前にどデカい商業施設ができて旧市街の商店街が衰退……などといったパターンではない。そもそも駅周辺も全然栄えてない。工事が終わったら何かできるのかもしれないけど。
でかい建物もちょこちょこ存在するが、どうも昭和に取り残された様子だ。
謎のオブジェ。かつて中心部で起きた大火災からの復興と疫病退散のシンボルとして獅子が設置されているらしい。
近くには某ウイルスの影響を受けてマスク姿の獅子も。
ちなみにレンタサイクルを借りた施設にも獅子を被ったゆるキャラがいた。もしぇのんと言うらしい。
観光地を意識して道路を石畳にしているところもあったが、やはり人はいない。悲しい……。
時代を感じる建物を発見。完全に放棄されているのかと思いきや、誰かが置いたエサを食べている猫がいた。こういう光景は大好き。
観光地巡り
宿にチェックインして荷物を預けた後、ようやく普通に観光地巡りをスタートする。まず向かったのが本間家旧本邸……に行こうと思ったのだが、入場料がかなり高いうえに内部の撮影は禁止とのことで向かいの別館へ。ちょっと高いお金がかかるだけならまだ許容できるが、写真撮影できないのは流石にきつい。
別館の方は土産屋という感じで入場は無料、写真撮影も OK だ。
たぶん本館ほどではないのだろうが、資料もそこそこ充実している。
「館内見学するならお土産買っていけよ」などという圧力も特に感じなかった。まあ観光地にお金を落とすという意味では何か買っていくのが良さそうだが。
次に向かったのは坂を登ってやや細い道の奥までいったところ。
酒田大仏。金属製の立像としては日本一の高さを誇るらしい。
しかし観光地化は全然されてなく、アクセスするには幼稚園の敷地内を通っていくというローカルエリアの極み。まあお寺に幼稚園や保育園が併設されるのはよくある光景だが、大仏を拝むのに敷地内へ侵入するのは少し勇気がいる。幸いこの日は休日だったので構わず入れたが。
大仏のお膝元には幼稚園の遊具が立ち並ぶ面白い光景が見られる……のだがなぜか写真を撮り損ねてしまった。
ちなみに台座部分には意味ありげな地下への階段があったが、中に入ることはできなかった。
再び観光地の中心エリアに戻ってくる。
下日枝神社へ……行こうとしたのだが、階段を登り降りするのが面倒だったのでこの鳥居からは入らなかった。ちなみにこの鳥居、頭の上に三角が乗った独特の形をしており山王鳥居と言う形式らしい。
あれ……山王と言えば、溜池山王の方の日枝神社もこの形をしていたような気がする。下日枝神社とはどういう関係なのだろうか?
で、ぐるっと坂を登って日和山公園の方からアクセス。
こっちから参拝するのがメインルートな気がするが、やや距離は長く歩かされる。
日が傾き始めているため大急ぎで参拝を済ませ、公園へ戻る。
公園に続く坂は映画のロケ地になったとかなんとか。
ちなみに日和山公園に来てようやく観光客っぽい人たちを観測した……が、よく考えたら日曜の夕方だから地元民か。一体観光客はどこにいるのだろうか。
夕日スポット。日本海に直接面しているわけではないが、海まで遮る建物がないため景色はとても良い。
最上川の上流側に目を向けるとこんな感じ。河口部はかなり工業化されている様子だ。
一番手前が酒田港の港内、その奥が最上川。その後ろの方に風力発電機があるあたりにちょこっと見えるのが日本海だ。
日和山公園には池があり、 1/2 スケールの北前船に乗ることができる……のだが、残念ながら冬季は封鎖されており水も抜かれていた。
ちなみに北前船が利用していた西廻り航路は、酒田を起点に佐渡ヶ島や能登に寄りながら下関を通って大阪へ抜け、紀伊、伊勢、志摩、伊豆を経由して江戸に着くルートだ。酒田という街が海運において重要な役割を担っていたということがわかる。
近くにはなんと木造の灯台が。灯台として見れば大変小柄だが、木造灯台としては日本最古だとか。すでに役目を終えてこの地に引っ越してきたらしい。
日没。海岸線付近には分厚い雲があり、日本海へ沈む様子は見れなかった。
街歩き
その後はレンタサイクルを返却し、街をぶらぶら。
日中の時点で人は少なかったが、日が沈むとさらに寂しさが増す。
またしても昭和に取り残された建物たち。
酒田港へ。港の規模は大きいがこの時間帯だと静寂に包まれている。
飛島へのフェリーターミナルを発見。山形県唯一の離島である飛島も酒田市に含まれる。
で、夜になって困ったのが夕飯。Google Map で何軒か目星をつけていたものの、尽く閉まっていた。
ここの寿司屋も閉まっているか……
と思ったら裏手で普通に営業していた。大変美味であった。
その後宿に戻る途中、日中に訪れた商店街と県道が交わる交差点で奇妙なものを発見。
交差点付近に地下道が整備されているのだが、
地下にも何か施設があるのかと思いきや……
まじで交差点を立体交差するためだけに作られているという。そもそも赤信号の長い交差点ではないので、わざわざ階段を上り下りする意味はなく存在意義の怪しい地下道だ。というか立体交差したいだけならわざわざ地下掘らずとも歩道橋でいいじゃん。謎である。
道中、ライトアップされた山居倉庫を横目に見つつ宿に戻る。ちなみに山居はさんきょと読む。
翌日
で、翌日。山居倉庫の営業開始とほぼ同時に訪問。
どデカい木造倉庫が立ち並ぶ様子は圧巻。
山居倉庫のパンフレットなどでよく使われるのがこの構図。緑が生い茂る時期でないとあまり映えないな。
江戸時代からの倉庫かと思っていたが、建築は明治に入ってからとのこと。
今は米穀倉庫としての役割は終え、資料館やお土産屋さんになっている。
で、さっそく資料館に入る。
かなり小規模な資料館だが、展示物はなかなか面白かった。
特に良かったのがこの米俵担ぎ体験コーナー。ネットでよく見るあの画像をバックに、30kg と 60kg の米俵を持ち上げる疑似体験ができる。
で、30kg の方は割と簡単に持ち上がるが……
60kg の方はやばい。肩からグッといってギリギリ上がるくらい。無理すると腰を破壊しかねないので注意。
酒田駅へ
見学を終えてからは再び羽越本線を北上するため駅へ向かう。その道中、少し不思議な光景を目にする。
一見ただの広場だが、なんと一部が道路の上にはみ出す形になっている。
下から見るとこんな感じ。この道路も別に自動車がガンガン通行するものではないため、わざわざ上を通してまで広場を作る意義は薄い。
広場とつながっている公園。ここは2階部分で、1階が駐車場となっており土地の少ない商店街にも自動車でアクセスできるようになっている。土地の有効活用という意味ではこの公園だけで十分で、道路の上に広場を作る必要はないと思うのだが……。先ほどの謎の地下道といい、なんか無駄の多い設計な感じがするなあ。
で、酒田駅に到着。特急いなほの秋田行きに乗車する。もちろん途中駅からの乗車なので指定席を利用した。
弘前へ
前日のカラッとした晴天からは一転、けっこうな土砂降りの中をひたすら走っていく。
内陸を抜けていき海に近づいたあたりで山形県から秋田県へと切り替わる。前日は穏やかな日本海だったが今日はいつもどおりの荒々しい海だ。
そんなこんなで秋田に到着。北海道&東日本パスで五能線のリゾートしらかみに乗車して以来の訪問だ。
乗り継ぎ先の特急つがるはいなほが到着したホームの向かい側に待機していた。発車までだいぶ時間があるため楽々と自由席を確保。奥のホームにはこまちも顔を出していた。
乗車してきたいなほ。新潟からはるばるお疲れ様でした。
あまりお行儀はよろしくないが、席を確保したまま改札外に出て駅弁を調達。ちょうど 150 周年パス利用者向けのキャンペーンが開催されており、割り引いた値段で購入できた。
羽越本線は秋田で終わり、ここからは福島から延々と伸びている奥羽本線に合流する。奥羽本線はミニ新幹線の開業でかなり分断されている印象だが、路線の格としては羽越本線よりも上なのだろうか。
東能代まではリゾートしらかみにて乗車済みで景色も新潟や秋田と大して変わらないため、あまり車窓に意識を向けず駅弁を食べていた。東能代からは一気に内陸の山間部へと突入していくため景色もガラッと変わり、青森県に突入する頃には車窓は銀世界となっていた。
そんな雪国を走り抜けて弘前に到着。弘前から乗車する客が大変多く、それまで空席の目立っていた自由席も大混雑。
そんなわけでキリが良いので今回は一旦ここで切り上げたい。次回は弘前の観光と東京へ戻るまでを扱う。
最後に改めて酒井市の観光を振り返るが、海運の要所として大きく発展した港町が他の多くの地方都市と同様に衰退している様はなんとも悲しい気持ちになった。長い歴史と文化、これらを有効に活用して地域を活性化させる術はないものか……と思ってしまう。まあ個人的には観光地嫌いなのであまり観光地化されると嫌だが。
そんなわけで歴史や文化、庄内の景色に興味があればぜひ訪れてみてほしい。観光地のオーバーツーリズムにうんざりしている人には特におすすめ。アクセスとしては新幹線が通っていないというのが不便だが、上越新幹線と特急いなほの乗り継ぎは便利だし羽田からは飛行機も発着している。……と書いてて思ったが関西以西からのアクセスはだいぶ悪いな。歴史的には北前船で関わりも深いというのに残念だ。
ちなみに今回は港町・商業の町である酒田について扱ったが、城下町である鶴岡もやや違ったベクトルで歴史・文化があり面白いかもしれない。機会があれば訪れたいところだ。
……といったところで今回はここまで。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?