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弁護士が気ままに「半沢直樹2」を語る(第3話) 〜証券取引等監視委員会の狙いとは?〜

「大事なのは感謝と恩返しだ。この2つを忘れた未来は、ただの独りよがりの絵空事だ。」

証券取引等監視委員会(SESC)が来襲した第3話。資料の破棄やデータの削除といった明らかにヤバい行為のオンパレードを見せられ、真面目な視聴者の中には果たして半沢らは正義の側にあるのか?と少なからぬ疑問を持った方もいたかもしれませんが、個人的にはフィクションとして割り切って楽しめました(笑)。第3話については、悪いやつをやっつけるカタルシスを感じるというより、単純にギャグ回として肩の力を抜いて楽しめば良いのではという感じがしました(原作にも無い話らしいですし、黒崎や高坂を出すためのファンサービスという気がします。)。隠しファイルがクリックされた瞬間に削除されたシーンとかもう普通に笑ってしまいました。

そういうわけで、今回は、半沢らが犯した数々の検査忌避行為(金融商品取引法198条の6第11号)についてコメントしていくような野暮なことはせず、話をより深く理解するために多くの人が気になったであろう点、すなわち監視委員会は何を問題視していたのか?なぜフォックスが協力することで監視委員会を引き下がらせる建前が出来たのか?という点について考察してみたいと思います。

例によって、外野の弁護士の立場からの気ままな感想であり、実際に法律問題を抱えている方向けの記事ではない点、原作小説も未読である点、あらかじめご了承ください。

第1 情報漏洩。黒崎はなぜ情報源にこだわった?

第3話は、半沢らの反撃として、逆買収(といっても買収防衛策としての買収側を買収するいわゆる逆買収ではなく、買収相手はフォックス)を仕掛けていきました。その準備として、資金力に乏しいSpiral陣営でもフォックスを買収できるようにするため、Spiral陣営がフォックスの経営状況報告書をマスコミにリークし、巨額損失を明るみに出すことでフォックス株の株価を下落させ、その上でSpiralがフォックス株の公開買付を行うという戦略が取られました。ところが、この動きに対して、伊佐山(三笠)陣営からの告げ口により、監視委員会が乗り込んできたわけです。

すったもんだの挙句、シュレッダーの資料の復元によって東京セントラル証券がフォックスの経営状況報告書をマスコミにリークするという計画が黒崎にバレてしまいますが、ここで黒崎が咎めたのは、リーク計画そのものではなく、情報漏洩でした。

黒崎がやってきたのは東京中央銀行の伊佐山(三笠)陣営からの告げ口だったことから推察するに、ここで黒崎が想定していた問題とは、フォックスの経営状況報告書はフォックスのメインバンクである東京中央銀行の誰かから東京セントラル証券に対して不正に漏洩されたものであり、利益相反管理体制(証券側は金商法36条2項、銀行側は銀行法13条の3の2第1項)(詳しくは、前回第2話の感想−後編−ご参照)に基づく情報遮断義務に違反しているというものだったのではないかと推測できます。メインバンクとしてフォックスの利益を図るべき東京中央銀行の立場と、フォックス株の株価を下げたい東京セントラル証券の立場とでは、当然、利益が相反していますので、ここは情報共有が許されうるような状況(詳しくは、第1話の感想ご参照)ではなく、漏洩があったとすれば利益相反管理体制上問題があるといえます。親銀行から子証券会社に対する違法な情報漏洩が監視委員会の検査によって明らかとなり、行政処分に至るというケースはちょくちょくあります(具体例として、ちょっと古くて参照されている法律が違いますが、新生証券株式会社に対する行政処分についてみずほ証券株式会社に対する行政処分について)。

実際のところ、このフォックスの経営状況報告書は、リスクを認識していた半沢が、いつものように東京中央銀行の渡真利に頼むのではなく、フォックスのサブバンクである白水銀行にいる大学同期の油山に頼んで入手していたものでした。しかしながら、チクった伊佐山(三笠)陣営はそこまでは想定していなかったと思われますので、黒崎の見立ても銀行から証券への情報漏洩だったと予想されます。ちなみに、情報源がグループ外なら問題ないかというと、確かに利益相反管理体制の問題ではなくなり、その意味では監視委員会の出る幕ではなくなりますが、情報の不正流出として不正競争防止法(詳しくは、前回第2話の感想−後編−ご参照)の問題にはなるので、バリバリ警察の厄介になる事案ではあります(笑)。

黒崎がリーク計画そのものではなく、フォックスの経営状況報告書の情報漏洩にこだわっていたのは上記のような理由によるものと推察できます。

第2 フォックスが情報源だったら問題ないのか?

さて、上記の通り持っているはずのないフォックスの経営状況報告書が手元にあったことがバレたため、森山に対してさながら遺言のような冒頭の名セリフを残すほど土壇場に追い込まれた半沢ですが、ギリギリのところでフォックスの郷田が登場!この情報は、フォックスとSpiralの合併のため、フォックスが直接Spiralに提供したものだから何の問題もない、と主張します。これで情報漏洩は無かったことになり(?)、黒崎も引き下がったわけですが、観ている方の多くが「え?それはそれとして、リーク計画そのものがやばくない?」と思ったのではないでしょうか。後に黒崎の本丸は電脳だったことが示唆され、それで簡単に引き下がったという背景が明かされるわけですが、とはいえついでに半沢の首も取る気マンマンだったわけで、少なくとも情報漏洩が無ければリーク計画自体の違法性には簡単に踏み込めないという建前が立たなければ黒崎の行動は説明できません。

では、具体的にリーク計画にはどんな問題があり得て、それが最終的には問題ではないという建前はどのように立ったのでしょうか?

(1)相場操縦?

まず、字面から、リークによって意図的に株価を下げる行為は、相場操縦行為(金商法159条)に当たるのではと思った方も多いかもしれません。

しかし、相場操縦行為は、相場操縦目的の取引(大量の売り注文と買い注文を同時に出して取引が活発かのように見せかける等)を行うことで、実需に反して相場を変動させる場合をいいます。今回は、取引を行って株価を操作したわけではありませんし、巨額損失が明るみになったことで実際に多くの株主が売り注文を出して株価が下がっていますので、実需通りの相場であり、その意味では相場操縦行為には当たらないといえます。

なお、相場操縦行為の中でも金商法159条2項2号の市場操作情報の流布だけは実際の取引を伴わなくても成立します。しかし、市場操作情報の流布とは、「相場が自己又は他人の操作によつて変動するべき旨」を流布すること(例えば、「今からA社の株に対して大量の仮装売買を仕掛けて株価を上げまーす」と言って他の投資家を煽るような場合)を指しますので、これも実需に反した相場の「操作」に関連した情報であることが前提となっており、今回のように実需自体に影響を与える情報の流布を対象にした規定ではないといえます。

(2)風説の流布?

次に、巨額損失情報のリークによって相場を変動させるのは、「相場の変動を図る目的をもつて、風説を流布…してはならない。」とする不公正取引(「風説の流布」の禁止)(金商法158条)に当たるのではないかという点が問題になります。

この風説の流布の禁止に相当する法律は戦前からあるのですが、元々「虚偽の風説の流布」の禁止だったのが、戦後の改正で「風説の流布」の禁止になったという経緯があります。したがって、ここでいう「風説」とは、虚偽とまではいえなくても良いと解釈されています。じゃあ、半沢がやったように、虚偽ではない正確な情報であるフォックスの経営状況報告書に記載された巨額損失の存在を流布することも、「風説の流布」に当たるのではないか?と思われるかもしれませんが、実はそうとも言えないのです。

というのも、「風説」という言葉の定義は、「合理的な根拠を有しない事実」、簡単に言うとデタラメを指していると解されているからです。すなわち、風説の流布の禁止は、何の根拠もないデタラメを流布して、公正・自由な投資判断を誤らせることを問題としているわけです。デタラメだけど虚偽ではない場合があるのか?と疑問に思われる方もいるかもしれませんが、例えば、空売りで儲けるために、何らの根拠もなく「A社が巨額損失を出して倒産間際である」と言うデタラメをネットの掲示板に書き込んだところ、実はその時期、A社は本当に破綻寸前だったというような場合が例として挙げられます。たまたま虚偽でなかったとしても、合理的な根拠のない風評を立てること自体が他の投資者を惑わし公正な価格形成を阻害するため、問題視されるわけですね。

逆に言えば、今回のように経営状況報告書という合理的な根拠がある正確な情報を流布することは、公正な価格形成を阻害する恐れはないため、少なくとも「風説の流布」には当たらないということになります。

(3)インサイダー取引?

ただ、注意すべき点は、情報自体が正確でも、その正確性の高さに関する認識という意味では、経営状況報告書を手にしたSpiral・東京セントラル証券と、そうでないその他の一般投資家との間では実質的な情報格差が存在します。この情報格差が埋まる前にSpiralがフォックス株の公開買付をはじめてしまっていた場合、インサイダー取引規制(金商法166条)に違反することとなります。

この点、巨額損失という情報については、既に半沢らのリークによる「フォックス、投資失敗で巨額損失か。」というネット記事によって公になっており、だからこそ株価も下落しているので、情報格差は存在しないのではないかと思われるかもしれません。しかし、インサイダー取引は、重要事実の「公表」前にその重要事実を知っている内部者が行う取引であるところ、当該「公表」は、法律上定義された方法による公表を指しており、単にマスコミがリーク記事を出したというだけでは、(その情報が正確なものであったとしても)「公表」には当たらないのです。

具体的には、フォックス自らが、①「報道されている巨額損失は、事実である」という旨のプレスリリース(2つ以上の報道機関に公表すること)を出してから12時間が経過するか、②証券取引所のシステム(TDnet等)により公衆縦覧(適時開示)するかしない限り、「公表」には当たりません。ドラマではそのいずれかがあったのか描写はされていませんが、Spiralはフォックスの株価が下がってすぐに緊急会見を行ったものの、そこでは公開買付による買収を決定したということまでしか言っておらず、実際に公開買付が開始されるまでは時間が空いていると思いますので、その間にちゃんと巨額損失の情報についてフォックスが「公表」していたと思いたいですね。

(4)逆に、東京中央銀行・電脳側が風説の流布?

このように見ていくと、一見するとかなりやばそうな半沢らのリーク計画ですが、情報の入手経路の点を除けば、それ自体が明らかに違法であるとまではいえない可能性があります(証券会社としての倫理の観点からどうかとか、レピュテーショナル・リスク管理の点とか、細かく検討していけば他にも当然アラはあるでしょうが。)。ついで仕事だった黒崎が簡単に引き下がった建前としては、このように説明がつくかもしれません。

なお、よくよく考えてみると、第3話ではもう一つのリーク報道が出てきます。そう、異様に早いタイミングでなされた「監視委員会はスパイラルのアドバイザーである東京セントラル証券の行動を問題視」というニュースです。これは東京中央銀行・電脳側がリークして報道させたものであると示唆されています。

では、東京中央銀行・電脳側はなぜこんなリークをしたのか?半沢らの計画を頓挫させるため、というのもありますが、究極的にはSpiral株を下げて電脳による買収を成功させるためです(株価が公開買付価格を大きく下回れば買付に応じる株主が増えるため)。つまり「相場の変動を図る目的」があったといえるわけですね。そして、重要なのは、東京中央銀行・電脳側は、半沢らの買収計画の全容(フォックスの経営状況報告書の情報源等)を把握していなかったという点です。そうすると、リークした情報には、おそらく合理的な根拠のない憶測(=「風説」)が含まれていたのではないかと推察されます(「監視委員会が問題視していること」自体は合理的な根拠のある事実ですが、それとセットでどんな行動が問題視されているのかということまでリークされたと考えるのが自然です。)。そうだとすれば、むしろ東京中央銀行・電脳側が「風説の流布」を行っていたことになるのではないかという気がします。


いかがだったでしょうか。今回も長文にお付き合いいただきありがとうございました。次回はいよいよ第一部のクライマックス!どう決着がつくのか必見ですね(と言いつつ、記事を書くのが遅れてしまい、結局この投稿は第4話放送後になってしまいましたが汗)。次回もよろしくお願いします。

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