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3-1. 研究者から見た自殺予防の課題①ー東京都立大学准教授 勝又陽太郎さんインタビュー前編

特集(自殺予防実践の現場から見た、実践・研究・行政上の課題)
勝又 陽太郎(東京都立大学 准教授)
末木 新(和光大学 教授)
自殺予防マガジン "Join", No.3

東京都立大学にて、教鞭をとられており、自殺に関する研究者/心理学者でもある勝又陽太郎先生をお招きし、研究者の立場から見た自殺対策の現状とその課題についてお聞きしました。勝又先生のプロフィール/これまでのお仕事につきましては、以下のリンク先をご覧ください。

地域保健に関わる研究者としての仕事の概要

【末木】 本日は、よろしくお願いします。早速なんですけれども、今回お声掛けさせて頂いた趣旨を簡単にご説明させていただきます。私事ですが、今年はサバティカル(研究休暇)をいただいておりまして、今後の自分の活動を考える上で、直接様々な人に自殺対策の課題を聞いてみようと思っています。研究者として、第一弾、どの方から声をかけようか?みたいなことを考えていまして、誰がいいかなと色々考えたんですけど、やはり勝又先生に話を聞かせて頂こうかなと思いました。

というのも、僕の勝手な印象かもしれないんですが、僕とは違って、自殺対策の実践・研究について王道的なことをやってらっしゃるようなイメージがあります。これまでの心理学的剖検調査もそうだと思いますし(その他参考資料)、GRIPなどの自殺予防教育の実践もコミュニティづくりという観点から考えた場合、非常に王道で大事なことであると思っています。地域支援の話もとても重要です。これらの実践・研究から、僕とはかなり違う視点を持っていらっしゃるんだろうなというふうに思っていまして、で、やっぱり視点の違う人から聞いた方がいいよなと思い、それでどんな話になるかわからないんですけれども、行ってみようと思った次第です。

【勝又】 光栄です、ありがとうございます (笑)

【末木】 さっそくですが、科研のデータベース(慢性自殺傾向を呈す自殺ハイリスク者に対する継続的地域支援のための基礎研究)を見ているんですけど、地域支援のこととかも含めて、現在はどのような感じの研究・実践をやってらっしゃるんでしょうか。

【勝又】 コロナの前に、「次の科研どうしようかなー」と考えている時期がありました。当時、新潟県で仕事をしていたんですよね。私は地元が新潟なのもあって、研究所(注:国立精神・神経センター精神保健研究所内に2006年に設立された自殺予防総合対策センター)に勤務していた時から、新潟の市町村や、保健所、精神保健福祉センターとか、地域保健の人たちとのつながりがずっとありました。そういう地縁もあって、色んなところから事例検討によく呼んでもらってたんです。

【末木】 事例検討というのは、どのような感じでやるものなのでしょうか?

【勝又】 私がやっている地域での事例検討は、保健師さんなどが担当しているケースの検討が多くて、やり方としては、通常の臨床心理のケースカンファレンスみたいなものに近いです。でも考え方は全然臨床心理のそれとは違って、もちろん個別のかかわり方についても議論しますが、サービス利用だったり、家族とのかかわり方であったり、地域での全般的な支援について話し合います。私はそこに助言者みたいな感じで行って、「さてどうしましょうか」と一緒に考えたり、ポストベンション(注:自殺が実際に発生してしまった後の対応)みたいなのも含めて一緒にちょこちょことやっていました。ただ、そういったことを続けるのにも、予算の問題などもあり、研究費でも取って自治体の負担を軽くできればという考えがありました。

それから、地域での事例検討やコンサルテーションでは、守秘義務の問題をどうクリアするかが難しくて、ケースに関わるということになると、当然、仕事の一環として依頼をしてもらって、そこで契約を結んでやるという形になるのですが、それを毎年毎年一回一回やるのは大変なんですよね。なので、包括契約みたいなものができるといいなということも考えていました。

また、新潟は地域がとても広いので、佐渡とかに一日掛けて行くのがすごい大変だったんですよね(笑) そのあたりの仕事を遠隔でできたらなとも思っていました。あとは事例検討会の場合、日程を決めて集まっても、依頼があってから当日までの間に支援が結構展開していたりするじゃないですか。なので、そのような形よりも、困ったときにぱっと聞ける方が現場の人にとっては良いのではないかなといった課題も感じていました。

そういった諸々の課題を解決しながら、総合的にやりやすくするために、地域での支援に関わっている方々が、「こういうとこ困ってるんだよね」みたいなことをオンデマンドで、事前準備の必要なく相談できる形を模索していました。現在の研究では、必要に応じてオンラインでちょっと繋いでコンサルテーションをやるという形を、データを取りながらやっているという感じですね。

【末木】 科研のところ(注:現在までの達成度)に、「今もう現場はコロナでそれどころじゃない」って書いてあったんですけど、実際、今はどのような感じなのでしょうか。

【勝又】 そうなんですよ。保健師さんたちはワクチン接種に駆り出されてしまって、自殺対策どころじゃなくなってしまっているのが現状ですね。それでもこの一年、全体をならしてみると月一回程度はそういったケースが上がってくるかなといった感じです。年明けてからワクチンのブースター接種が始まってしまったのでまた難しくなってしまいましたけど、去年は比較的落ち着いている期間も長かったので、割と皆さんそのような感じで(オンラインでのコンサルテーションを)使ってもらっています。

また、そもそもどれくらいニーズがあるのかみたいなのも込みで検討している段階なので、「気を遣って無理に使わなくていいです。困ったときに使ってください」と言っています。回数も当然評価の対象だし、「実際この辺が使えなかったよね」みたいなことも皆さんから聞きたいので、フィージビリティスタディみたいな形で進めています。

【末木】 なるほど。地域でのつながりと需要があるから始めたという感じですね。

【勝又】 そうですね。あとはオーストラリアのヴィクトリア州でメルボルン大学がかかわっているスペクトラムという施設があるんですけど、そこから研究者が来たときに色々話を聞いたりしていました。その施設は、ヴィクトリア州の中のパーソナリティ障害支援に関するセンター機能を果たしていて、研修もやるし、オンデマンドで各現場での相談にも乗るし、自分たちでもケースを引き受けるし、居住型の支援みたいなものもやっています(参考:若年者に対する自殺予防のヒント―英国と豪州における実践から―)。私も、なにか地域でやるとしたら「そういうのがあったらいいよなー」と思ってはいたんですよね。ただ、自分一人だとリソースが全然無いので、自分一人で出来る範囲でなにかそれに近いことができないかなみたいなことはずっと考えていました。今回の研究の理論的な背景はそこから生まれてきています。

地方と東京での地域保健の違い

【末木】 僕は生まれも育ちも東京なので、何と言ったらよいのか... 新潟の/地方の感覚というのは、正直なところ肌感覚としては分からないところがあったりします。ちなみに先生は現在、都立大にうつられて東京に住んでいらっしゃりますよね。東京と新潟と、自殺対策での違いはどうなのでしょうか。

【勝又】 東京でケース対応をしていて気が付いたのは、市町村の地域保健の仕事が割と外部の事業所に委託されているんだなということです。一方で、地方に行くと、保健師さん達が全部担ってるみたいな形で、「この辺の家のこと、全部知ってます」みたいな、そういう感じの中でやっていますよね。だから、東京に来て困ったなと感じるのは、ケースの総合的なマネジメントが全然できないことですね。

【末木】 できないというのは?

【勝又】 たとえば、自分のケースを市町村で抱えてもらいながら、関係機関で連携していきたいと思って市町村に連絡すると、「じゃあ事業所に連絡しますね」みたいな感じになる。で、そこの事業所の人がケース検討などでやってくるんだけど、地域に根付いている事業所ばかりでもないので、なかなかケースの背景まで含めてアセスメントができない。入院調整なども受けてくれるが遠くの病院になっちゃったりもする。

新潟みたいな地方の保健師さんが、地域の土地勘とかも全部わかってやっているみたいなものとは全然違って、ケースのご本人/当事者の方々からすると、連続性がないみたいに思われるんじゃないかと思います。「ずっと見てもらっている感じがない」みたいな。そこが一つ違いますかね。新潟だったら、保健師さんに「(自殺のリスクが高いので)「この人をきちんとみておいてください」と言えばその人の全体を見ることができる。でも、東京の場合は「どこがこのケースの全体を把握しているの?」みたいになっちゃう。ケース全体を見てマネジメントやってくれる場所がなくて困ってるみたいな、そんな感じです。

【末木】 私も昔に比べれば、年をとってきて子どもが学校行ったりしたせいか、地域とかコミュニティという感覚も出てきてはいます。でも、東京近郊にずっと住んでいると、「地域」と言っても、何か別に一体で何かがあるという感覚はないです。人とのつながりが最終的に地域に落とし込まれるのは頭では(理屈としては)わかるので、地域ってすごく大事だよなと思いつつ、都市部の自殺対策については、何をどうするといいのか全然わからんなみたいな、そういうところもあります。

つながりの種類と地域保健のジレンマ

【勝又】 今日の話の中で重要なテーマになるんじゃないかと思っていることがあります。それは、やはり人は、金でサービスを買って楽にやっていくほうがよい時もあれば、誰かとちゃんと繋がってたいときもあるという、とても単純な話です。地域は地域でやはり嫌なところがあって、岡檀先生のお仕事(注 生き心地の良い町:この自殺率の低さには理由がある)の話に近いのですが、人と人とのつながりは強すぎてもダメだし弱すぎてもうまくいかないという問題で、結局金で買えるサービスとそうでない人とのつながりの両方が必要なんだと思います。どうしても都市に来るとコミュニティがないぶん、サービスでなんとか補う、金でなんとかするみたいな感じになる。

逆に新潟にいると、保健師さんたちも地元に住んでいたりするので、当事者と支援者の関係が近すぎて、相談をためらうこともたくさんある。あるいは市の職員の中で自殺が起こったのが支援者の知り合いで… みたいなことってすごいあるわけなんです。これはつながりが強い分、お互いにしんどいと思います。

また、地方にいて思うのは、精神科などのリソースが少ないので、地域の支援者は医療機関に結構気を遣ったりしなくてはいけないことがあります。例えば、「明らかにこれうつ病でしょ」みたいなケースでも、精神科の先生が見逃しちゃう時がある。で、保健師さんが気づいても、「これうつですよね」などと言いづらい場合もある。資源が限られていて貴重であるがゆえに、その資源とうまくやっていけないと支援の選択肢が狭まってしまうという問題があるなと感じています。このように地域保健の方が力をつけてきても、他の援助資源との認識のギャップが出てくるということもあります。どこか一つだけが良くなればいいってもんでもなくて、どうやって全体のバランスを取りながらレベルアップしていけるかを考える必要があるという感じでしょうか。

いずれにせよ、都市部と地方との違いを考えながら思うこととしては、結局、人は所属していたい気持ちと所属したくない気持ちの両方があるんですよね。それをどうやって支援制度として社会実装するかみたいなことが、今後僕自身が考えたいと思っている課題だと思っています。大きいビジョンで言えばそんな感じです。

【末木】 なるほど。使い分けというか、強いつながりが必要なときと弱いつながりが必要な時とみたいなそういうのがあるというのは確かにありますね。

【勝又】 例えば、子どものことでも、他の人に、「ちゃんと見ててよ」と思うときと、「あんまり口出さないでよ」というときと、絶対両方あるんですよ。人間には、「金払えばいいんでしょう?」みたいなときと、「金じゃないよね」というとき、おそらく両方あって、言っちゃえば結構わがままなんですよね。そんなことを思い始めています。

自殺研究に携わる人材育成の課題

【勝又】 あとは人材育成を長期的に考えなくちゃいけない。この前、JoinのOVAの伊藤さんの記事を見せてもらって、そこでも言っていたと思うんですけど、人をどうやって育てていくかという問題は、今後何十年といったスパンを考えるとどうやったらいいのかなというのがあって、地域支援をやっているのはその実践の一環でもあります。

【末木】 人材育成はこうしたらいいみたいなものってなにかあるんでしょうか。

【勝又】 いや〜無いから困ってるんですけど(笑)。僕のここ数年の実感として、たとえば日本臨床心理士会とかで研修やってても思うんですけど、「あの規模感は無理」です(笑)。3万人とか、職能団体レベルでの規模感でトレーニングを行っていくというのはなかなか難しいなと。基本というか、さわりの部分の研修はいくらでも組み立てられるんですけど、OJTみたいな深い研修は難しいです。それをやっていくとなると、ある程度の小さな集団で何とかしなくちゃいけないとは考えていて、それもあって、大学で後進の育成に関わらなきゃみたいなことを考えました。

市町村単位で地域支援をやっていると、ベテラン保健師さんの仕事の姿を若手が見てくれるので、結局人を育てるのはそういうシステムでないと難しいんじゃないかみたいなことは、ここ数年関わる中で実感させられています。もちろん、オンラインの研修でも、とてもいいコンテンツがあるし、ツールとしていいなと思っています。一方で、ハイリスクな人たちに実際に関わってみるみたいなところはとてもハードルが高いので、やはりOJTみたいな感じでやってみることが必要になってきて、そうした現場での試行錯誤をバックアップできるようなシステムを作っておかないと厳しいと思っています。そうしたことが、現在地域支援をやっていこうと思っている動機としてあります。

【末木】 なるほど。ハイリスクな人と関わる人がちゃんと関われるようにバックアップしていくというような仕組みが必要だということですね。

【勝又】 結局、ゲートキーパーの先、これは昔からずっと言われてたけど、その先の「受け皿問題」というか... 僕、言い方は不適切かもしれないですけど、すごく尻拭いをさせられている感じがしているんですよね。ゲートキーパー研修をみんながやって、で、「その後どうしたらいいんですか?」みたいなことばかり聞かれるわけです。研修会で聴いたり、講演で聴いたりするだけで、ハイリスク者支援ができるようになるわけないので。それで結局、事例検討をやることになる。事例検討自体は私にとっても学びが多いのでそれはそれでいいのですが、自分一人でやるにはちょっと限界が来ていて、なんとかならないかなとは思っています。

【末木】 そりゃそうですよね。

【勝又】 ゲートキーパーを実際やってみるのって怖いですよね。でも、はっきり言って自殺ハイリスク者の支援といっても、クライエントと自殺リスクの話ばかりしているわけではないじゃないですか。当たり前ですけど普通の支援をしているんですよ。でも研修や講演で話を聞くと、なんだか自殺リスクのことばかりが気になってしまう。だから、やっぱり現場の実践の中で実際にどんなふうに話をしていったらいいのかとか、そういうことを学んでもらう必要があるなと思っています。

【末木】 ゲートキーパー教育というのは何というか、言い方あれですけど啓発活動に近いんじゃないですか。

【勝又】 そうそう。僕も中心は啓発だと思う。あとは今後もう少し、ゲートキーパー教育の中でも、重症度みたいな話をしていってもいいかもしれない。プライマリ・ケアみたいなところで、ゲートキーパーでなんとかなるレベルと、そうじゃないレベルはこうです、みたいな。

【末木】 なるほど。

【勝又】 ゲートキーパーとして自殺ハイリスク者を発見して、それで、「その後どうしたらいいですか?」みたいなことはみんなの悩みになってきていますね。そこにニーズがあるかもしれません。

【末木】 ちなみに、大学での教育で(自殺予防/自殺対策のための)人材育成という意味でやれることとかってありますか?

【勝又】 無いです、公認心理師養成が忙しすぎで(笑)

【末木】 そうですよね(笑)

【勝又】 もうそれどころじゃないというか、今みんな博士課程進まないんですよ。

【末木】 都立大でもそうなんですか。

【勝又】 現職の人が博士取りに来るケースはありますけど。なので、長期間継続してトレーニングみたいなものも今の段階では全然できていない。

【末木】 思うんですけど、修士だと2年くらいしかないですよね。2年って短くないですか?

【勝又】 短いです(笑) だから、興味のある人を外のケース検討とかに一緒に連れて行ったりして、実際地域の中での連携であったり、どんなふうにコンサルをやるのかということを見てもらうことなどはしています。一部関心のある人はそれに来たりしますね。でもあまり先に繋がっている気はしないです… まだ(都立大に)来て2年とかだからそんなに絶望しているわけではないんだけど、ちょっと難しい。

【末木】 臨床だけでなく、研究も2年じゃ何もできないとは言わないですけど、厳しくないですか?

【勝又】 厳しい厳しい。

【末木】 なんかそういうことできる人って、今どこで育てるんだろう?という感覚がすごくあるんですが。

【勝又】 本当に、僕らもどうやっていたんだろうという感じです。まあ、研究所(注:国立精神・神経センター精神保健研究所内に2006年に設立された自殺予防総合対策センター)があったから良かったのかもしれないですけど、今は無いですから、どうしましょうね。

【末木】 どうしたらいいんですかね?ということも聞こうと思っていた質問なんですが(笑)

【勝又】 自死遺族団体のメンバーや元自殺予防総合対策センターの研究者などが集まって「CSPSS」(自殺予防と自死遺族支援・調査研究研修センター)という一般社団法人が2年前に設立されました。僕も理事になっているんですけど、今後は民間のインスティテュートみたいな感じで人材育成も担えればいいのではないかなどと勝手に思っています。もう、大学というシステムの中では育成していくのは難しくて、大学を出た後とかにそういったものに関心がある人を集めていくしかないのかもしれません。でもそういったものに強く関心がある人というのは、20年で1人、2人いたらいいんじゃないですかね。

【末木】 そうですね。

【勝又】 僕も40歳過ぎてから、自殺対策の歴史なんかも含め、ちゃんと次の世代に伝えなくてはいけないという気持ちが芽生えてきました。それこそ生きてたら、自分の現役はあと20年位しかないので、そういう意味では結構焦っています。

【末木】 焦っている?

【勝又】 だって20年ってあっという間じゃないですか。研究所入ってからもう15年くらい経っていますし、そう考えたら一瞬です。その間に、1人か2人そういう研究やりたいって人が来て、ずっと研究やってくれたらいいかな、みたいな。 

【末木】 僕も妙案があるわけではないんですけど、そういう人材育成の部分はもう少し仕組みとしてなんとかならんもんなのかなと思います。

【勝又】 ちょっとまだ良い案は浮かんでないんですけど、もう少し研究者の人数がいた方がいいですよね。他の国行くと「なんでそんな研究者いっぱい出てくるんだろう」みたいな感じがあるじゃないですか。海外に行くと、みんな政策のことも語れるし、自分の研究のことも語れるし、臨床も語れる。そんな人がゴロゴロいる。そういうの「すげーな」と思いながら見てて、でも日本で組織的にそういうのを真似して作ろうと思っても大学だとちょっと現状では難しい。

【末木】 なかなか大学の中でそういうことをやろうと思っても本当に難しいよねみたいな感じがすごくあって、「じゃあ外だったらどこでどういうふうにできるんだろう?」みたいなこととかを考えるんですが、またそれはそれで難しい。

【勝又】 外でやろうとしても大学の仕事が忙しすぎるんですよね。手が追いつかない。ただ、現在の職場に来てから、国内外の若手の学生が直接メールなどで連絡をくれるようになりました。そういった人たちに、「うちの研究室に来なくてもいいから、研究一緒に続けていかない?」みたいなことをいつも返信で返しています。そういった、修士くらいから来たいという若い人たちとなんとか一緒に共同研究ができるといいなあと思っています。

その時にハードルとして感じるのは、自殺の研究って僕らがやり始めた頃に比べると倫理が厳しくなってるじゃないですか。僕らはすごい自由にやっていたわけです。なので、そういう土壌というか、年長者がある程度責任を持ちながら、若い人に自由に研究をやらせてあげられる環境作りをしてあげたいなとは思っています。そのためには、やはりこっちがお金を取ってきて共同研究に入れて、論文書いてねみたいなことをどのくらい出来るか、それが今の段階です。とにかく、若手の仕事がないと若手は育たないです。

地域支援の課題と実際

【勝又】 地域支援については、もう一つモチベーションがあります。地域支援でやっているケースって、結構こんがらがっているケースばかりなんですけど、コンサルをやってみて分かったんですが、地域の人たちに助言した方が、僕が個人面接で支援するよりもうまくいくんですよね。「多分自分がこの人たちの面接をやったらこんなにうまくいかないわ、だったらこっちの方が手っ取り早いし、クライエントさんにとってもいいじゃないか」と思って(笑)。ただ、それを実際に何らかの仕組みとしてやろうと思ったときに、コンサルをやればそっちの方が全体としての改善率が上がるんだけど、できる人やスキルというよりか、「時間」が問題になるんです。

地域支援ってある程度フリーで動ける人がいないと難しいと思うんですよね。心理職もみんな病院勤務とか学校のSCなどをやっていると、当該地域の人と関わる時間なんて無いし、地域の人が「何か困ったことがあるから相談したい」みたいなときに、皆それぞれ仕事があるじゃないですか。大学の教員は、そういった意味ではまだ融通が利くので、そういうことができてるというだけで、これを一般の心理の人たちに求めるというのは難しいと思うんですよね。

【末木】 難しいと思います。

【勝又】 ですよね。フリーに動ける人がどれだけいるだろうということを考えると、結構絶望的なんですね。だから、スキルとして心理の人は割とそういうのができると思うんだけど、そういう人たちをどうやって集めたらいんだろう?そういう人たちにお金を払えるんだろうか?って考えると、ちょっとキツい。

実は当初は、(自殺ハイリスク者に対応している地域の対人支援者へのコンサルを)別の大学の先生やそこの院生たちとある程度分担してやろうみたいな計画を立てていたんです。それをまず教育委員会から始めて、要するに学校の先生からの相談にオンデマンドで対応する仕組みを作ろうとしたんですね。それはある程度いいとこまで行ったんですけど、行政の担当者が代わったり色々あって、なかなかすぐには実現が難しくなってしまいました。ただ、たとえばそういうふうに院生の実習の一環として組み込めるところみたいなものがあれば、そこに資格を持った非常勤の人にも入ってもらってみたいなこともできなくもないかなと。大学の付属施設として地域支援センターみたいなものを作って、院生の実習を兼ねて、卒業生とかでやりたい人たちを雇ってみたいなことをしていけばある程度持続した形ができるかもしれないんですけど、大学が許してくれるかとか、単純にお金をどのくらいかけられるのかとか、分からないことも多々あります。なのでおいおい考えていければと思っています。

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以下、後編へのリンクです。

■責任編集 末木 新(和光大学 教授)

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