きつねの窓辺(矢違アキラ:著)を読んで

実は年始頃に買ったもの。
色々あり、見知った人の作品を読むことがなかなか出来ないのだが、今回は、自らにまた少し火を熾そうと思ったので手に取った。

文章はいつもよりもシンプルながら、郷土と古きもの、そして人への愛と優しみに満ちた幻想文学。

今回は怒りや悲しみは想起されず、読んでいて子供時代のあったようななかったような郷愁にひたれた

今回は空と風景描写に特に力が入っているように感じる。パレットの絵の具、まだ暑い夏の昼下り、グラウンドの砂の眩しさ、夕日の中の彼女。先程も言ったがいつもよりもシンプルな文章ながら、やはり彼の技が光る。

読み手の年代によって感じるものが変わる……ということを狙った――狙ったというと風が悪いかもしれないが――作品であると感じる。
俺は先述のとおり郷愁を感じた。
あったようななかったような、子供のときにだけ訪れる不思議な出逢いの追憶を見た。
繰り返される主人公のセリフから、別の意図を汲み取ってしまうのは、おそらく俺が大人で、セミの声が聞こえなくなったからだろう。

子供が読むとどうなるんだろう。はたまた、今でもセミの声が聞こえている人たちの場合は?興味深い。

あとすごくどうでもいいことを言うと、俺もまだ暑い秋の昼下がりにこんなボーイミーツガールしたかったなー!!

ともあれ、読めて良かった。
今、著者の矢違アキラ氏は地域に根ざした活躍をされているらしいが、その文章も機会があれば見てみたいなぁと思う次第であった。

最後になるが、セミの声が聞こえる、聞こえないに関わらず……君にも、俺の心にも、きつねの窓辺がありますように。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集