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再生 regeneration: 自殺者発見がPTSDストレス障害を乗り越えられるか -2
After that その後
自分は比較的強い人間だと思っていた
離婚も経験しているし
シングルマザーとしてそれなりにやってきたつもりだ
男性中心のこの産業の中で、なんとか17年も生き延びる事ができ
娘を大学卒業させ、国家資格を取るための医療専門学校へも2年通学させた。
人よりも図太く、動じることなく乗り越え生きる術を身に着けてきた
それは私の過去に由来していて、現在過去含め私という人間を熟知している
数少ない友人は口をそろえてこう言う
”よく今まで生きてこられたね”
”大変な人生だったね”
”あんたの人生は本になるね”
あの日、私の通報にいち早く駆け付けた近くの交番の方、救急隊の方
後からやってきた刑事から何度も同じ質問をされ
細部まで説明をしなければいけなかった。
ひと通り事情聴取が終わった家までの帰り道
色々な思いが廻ったが
”ちゃんと生きよう”
と小さく声に出して呟いたのを覚えている
私には一つだけ心配なことがあった。
この公園を住処としているホームレスの方たちの事だ
もう長い間、同じ時間、同じコースを走るので
毎朝、彼らがいつもの場所にいる事を、無事でいることを確認するのが習慣となっていた
顔見知りも出来、見つけると声をかけてくれてしばらく立ち話をしたりする
だれもが明るく、優しい方たちばかりだ
もしその中の誰かがあの人だったら
と考えるといてもたってもいられなくなり
担当刑事から渡された名刺に書かれた番号に電話をかけた
刑事が言うには
身元は分かり、もうすぐご家族が来ること
公園に住む方ではない
その人の情報は開示できず、すでに検死を終え死因は窒息死
という事だけ伝えてくれた
私は刑事に言った
”あの場で私がもっと頑張って引き上げたら、支えていたら彼は助かったんだと思います”
刑事はこう答えた
”あの現場では一人では何も出来なかったし、男性でも無理だった。
もう彼は死ぬことを決めていたのだから
だからご自分を責めるのはやめなさい”
そして電話を切る際に
”思いやってくれてありがとうございます”
静かに電話を切った後、私は声を上げて泣いた
しゃくりあげ、鼻水を垂らして泣いた
知り合いではなかったからの安堵からか
あの人を想ってか
理由は分からない
あんな風に泣いたのは父が亡くなった日以来だった
猫たちが3匹とも全員寄ってきて、ざらざらした舌で私の顔を舐めてくれた
いつものキョトン顔で私の顔を覗き込む末っ子
”痛いよ 痛いよ”
猫たちを手繰り寄せ抱きしめた
彼らの匂いを思い切り吸い込んだ
少し甘く やさしいいつもの匂い
心臓の鼓動がゆっくりと静まるのを感じながら
その夜から悪夢は始まった