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再生 regeneration: 自殺者発見が PTSDストレス障害を乗り越えられるか -6

the beginning of the journey 旅の始まり

幸いなことに、処方された薬がよく効いてくれた
発作を起こす回数も減り、悪夢も週1回程度になり
穏やかな日もあれば、悪い日もある
それを繰り返していた

けれど外出は出来なかった
もし外出先で発作が起きたらという不安が拭えない
なので必要以外は在宅勤務で
可能な限り家に籠り仕事をする毎日が続いていた

経過観察として、病院へは週に1回通い
先生とじっくり話す
”早く治そうと焦らない事”
”働き過ぎないという事”
これを毎回言われた

ある日の病院からの帰り道
前からあの人に似た男性が歩いてきた
マスクをし、来ている服も似ている
背も太り方も、髪型もそっくりだ

私は足がすくみその場から動けなくなった
そうだ薬のせいだ これは現実ではない
心臓は高鳴り鼓動が頭に響く
冷や汗が出て、手のひらはびっしょりに濡れている
酸素が薄い 耳鳴りがする
発作だ
私はその場にしゃがみこんで膝を抱え膝の間に頭を入れて
耳を手で塞ぎあの人が通り過ぎるのをじっと待った

恐る恐る顔を上げると、あの人はもう近くに来ていて
私の横に来ている 足元が見える
顔を上げるとマスクの下が動いていて何か言っている
私は悲鳴を上げた

”大丈夫ですか?救急車を呼びましょうか?”

私に聞こえるようにマスクを外してもう一度言った

”だいじょうぶですか?救急車を呼びましょうか?”

目を凝らしてよく見ると、全く別の若い男性だった
彼が私の両脇を持ち支えて立たせてくれた
”大丈夫です。ごめんなさい”
まともにお礼も言わず私はその場を去った

家にたどりつくまで、足の震えは止まらず
何度も、何度も振り返りながら帰った

その日からフラッシュバックを起こすようになる
それは、蓋をしていた私の思い出したくない過去が
何十年も経て空いてしまった瞬間だった
壊れた水道管が噴き出す様に

それは長い旅の始まりだった

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