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再生 regeneration: 自殺者発見がPTSDストレス障害を乗り越えられるか -5
Courage to step forward 一歩進む勇気
これをみているあなたが、もし生き辛い、眠れない
何某かの心の異変を感じているのであれば
出来るだけ早く心療内科、もしくはカウンセリングを受ける事をお勧めします
心身症や心の病は自分で治すのは非常に難しいからだ
ランニング、筋トレ、ウォーキング、ヨガ、自己啓発本、食事療法など
サポートツールはたくさんあるが、自分の体の声によく耳を傾けてほしい
必要だと判断したらば、プロに頼るべき
というのが私の個人的意見だ
私は運よく素晴らしい先生たちに出会う事が出来た
家から歩いて行ける距離で、土曜日も診察してくれる
過去に短期間だが通っていた精神科は
3分ほど会話して薬を処方されるだけの流れ作業だった
今回の先生はじっくりと私の話を聞いてくれた
そして私を良く観察していて
隠していた過去のリストカットの跡もすぐに気づいた
女性だったことも私には幸運だった
自殺の第一発見者だったこと
その夜からの連日の悪夢
発作の状況と頻度
先生は黙って頷きながら聞いてくれたぽつりぽつりと話す私に
先生がやっと口を開いた
”あなたは運が悪かっただけ
その人はあなたとは何の関係もなくこの先もそれは変わりません
ただの事故であなたには何の関係もない事です”
”夢の中で、あの人が動いていたり、話しかけているのは
彼は亡くなっていなくまだ生きている
とあなたの脳があなたを守ろうとしていると考えなさい”
そして長期休暇を勧められたがそれだけは断った
私から仕事を奪われたら、何も無くなってしまう
私を頼りにしてくれている取引先やチームには迷惑をかけたくない
何よりもいち早く本調子で仕事に戻りたかった
私はこの17年間必死に働いてきた
17年間、男性中心のこの業界で、取り残されないように
目を向けて、話しを聞いてもらうために声を張り
厳しい議論にも負けない強い自分を作り上げてきた自負がある
仕事を奪われるのだけは受け入れられない、耐えられない
小さい溜息をついて、先生は私に処方箋を差し出した
導眠剤、発作を抑える頓服
自律神経とセロトニンに働く薬や漢方などを処方された。
仕事を休まない事への条件として、毎週の通院が義務付けられた
私はその処方箋を先生の手から奪うように取り病院を出た
薬局に向い山ほどの薬を受け取り
帰り道、水なしでそれを歩きながら飲み込んだ
あの人さえに合わなければ
あそこにさえ行かなければ
5分でも遅くそこに行っていれば誰かほかの人が見つけて
私は通り過ぎるだけだったかもしれない
あいつさえいなければ
あんたのせいだ
早足で家に向いながら何度も何度もこの言葉を繰り返していた
家の近くにいつも行列が出来るフレンチビストロがある
店は相変わらず混雑していて
窓から見える人たちはグラスを手に、幸せそうに声を上げて笑っている
それをみて涙が出た
”なんで私なの?”
泣きながら帰った
その夜、私は久しぶりに悪夢を見なかった
夢さえも見ず、朝猫たちに起こされるまでぐっすりと眠れた
ベッドの下から私を見ている、末っ子のノルウェージャンを抱き上げた
ふわふわの白い毛が私の顔をなでる
いつものキョトンとした目で私を見て
おでこを私の額に押し付けてきた
久しぶりの明るい朝だった
その子のあどけない顔を見て
”おはよう”と言った
久しぶりの”おはよう”だった