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鹿の王 下

以下の文章は自分の読書感想を思いつくまま書いたもの。個人の主観を多分に含んでいるため、苦手な方は回れ右してください。

本の情報(読了日2022/2/27)
書名:鹿の王 下 還って行く者
作者:上橋菜穂子
出版社:角川書店
ISBN:978-4-04-101889-7

この本は、2人の主人公元奴隷のヴァンと医術師ホッサルが織りなす物語である。

この記事を読んでいる方でまさか上巻を読んでない人はいないだろう。上巻を読んでいない方は今すぐこの記事を閉じて、自分の目で上巻を読んで頂きたい。

読み終わった後に放心状態というか、本の世界の余韻に浸っていたくなる感覚は本当に久しぶりだ。なかなか読み応えがあった。まるで漫画版の「風の谷のナウシカ」をはじめて読み終わったときみたいだった。

徐々に明らかになりつつあった真実が下巻で一気に明るみに出るところは本当に圧巻だった。なぜヴァンとユナは黒狼熱から生き残ったのか?黒狼熱とは何なのか?その治療法はあるのか?などなど。人が生きることの意味や部族間の差別意識の深さが浮き彫りになり、現代に生きる我々に否が応でも考えさせる。

表題の鹿の王という言葉の意味についても最後の最後を読むまでわからない。自分にはそのもどかしさが心地よく感ぜられた。

下巻にて<裏返し>という現象の真実が明かされる。この能力はヴァンの場合、嗅覚が異様に発達し獣と一体となったような感覚となり、荒野を走ることができる。作中これを使うことができるのは一部の人とヴァン、ユナだけだ。自分は、この<裏返し>を、人が元来持ち合わせていた能力が現代社会に生きるようになって少しずつ失われた能力の象徴のように感じた。

人は文化的な暮らしをするようになり、町を作ってそこに住んだ。町はやがて都市となり、多くの人々がそこに集まるようになった。この作品全体を通して描かれる自然に対する畏怖や尊敬の念、生きることの本当の意味を現代人は忘れつつあるのではなかろうか。

ヴァンが最後にとった行動は本当に思いがけず、勇気ある行動で、彼自身の強さと優しさに溢れた行動だと思った。また、ヴァンのすべてをかけて何かを守ろうとする意思に気高さを感じとった。



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