イタリア滞在90日目・91日目
年末年始エピソードその3。イタリアで交通事故に遭いました。
ブログに書くか書くまいか一応迷ったのですが、海外生活にまだまだ慣れない身でこういった経験があるよ、と書いておくのが有益な情報だと思うので記録します。何より、自分の気持ちを整理したい。
どれくらい自分に過失があるのか、どれくらい補償してもらえるものなのか。素朴に疑問です。
アドバイス頂きたいので似たような体験をお持ちの方はぜひ体験談教えてください。特にイタリア在住の方!
前半は前回に引き続きモデナ旅。後半は交通事故に至るまでの経緯と事後処理(当日編)です。
続・モデナ
楽しかった。朝までは
モデナにいるからにはバルサミコ酢を見に行きたいなとAirbnbで止めてくれたおばちゃんに相談したら知り合いのお店に連絡をとってくれました。バルサミコ酢醸造所のことをAcetaia(アチェタイア)とイタリアでは呼びます。バルサミコ酢はaceto di balsamico。
1時間強のツアーを終え、目指すはLa Biancaraのあるヴェネト州Vicentino。
朝はAirbnbホストのおばちゃんにOsteria Francescanaの土産話をたっぷりと披露。Acetaiaでも長居してしまったせいでこの時すでに12時過ぎ。「ランチ食べそびれそうだなー、今日もピアディーニかなーと」とのんびり田舎道を走っていた。
そのとき、事件は起こった。
何の前触れもなく、ハンドルが右に傾く。
「え?右に寄りすぎた?穴とかにタイヤが突っ込んだ?」
刹那の思考。ハンドルを左に切る。咄嗟の判断、反対車線に躍り出た目の前には対向車。
考える間もなくハンドルを右に切る。思いっきり。
ここらでハンドルの制御が効かないことに意識が追いつく。
道路から落ちそうになって、対向車線にも衝突しそうになって、意識は目の前の異常事態に懸命に対処。頭の中では突然の事態に「なぜ?」「どうして?」と考え、無意識で「右の前輪に何か起きたんだ」と結論する。
コントロールの効かない車のハンドルを大きく2回切った後、一度回避したはずの危機、すなわち道路からの滑落が待っていたのだけど、正面衝突を避けることへ精一杯で、3つ目の危機に意識が追いつかなかった。
車体がふわりと浮くような、ちょっとした無重力を感じながら、
「あ、やばい。
もし大怪我したら、イタリアに居られなくなるかも」
わりと楽観的な結末を想像しながら、車ごと、横に1回転か2回転。
ロールした。
車内の天井や壁に体をガタゴトとぶつけながら、それでも意識は保ってて。全身に痛みを感じながら目を開けると、右の助手席にはエアバッグ、火花、そして、煙。イメージはタイムトラベル後のデロリアン。
カーナビからはイタリア語が聞こえてくる。残念ながらドクじゃない。
「……Hai bisogno?(助けは必要ですか?)」
「Si, Ma non lo so che succede. Non vorrei ambulanza. Aspetta…(はい、何が起きたかわからない)」
「Vuole l'ambulanza?(救急車が必要ですか?)」
「Non vorrei ambulanza. Aspetta…(救急車は要りません。ちょっと待って)」
何が起きたかわからない割には的確に返事をしたつもりなのだけれど、声が出ていないのか、イタリア語がおかしいのかうまくコミュニケーションが取れない。そうしているうちに、外からイタリア人たちが駆け寄ってくる。
この時の自分がどういう状況だったのか客観的にはわからないけれど、大きな音を響かせて横転して道路から落ちた煙を出している車に対する最も適切な対処を彼らはしてくれた。すなわちドライバーである僕を座席から引っ張り出してくれた。
僕は体の各所が痛みながらも、五体満足な状態だったので自分一人でも動けないこともなかった。でも、唐突な事故と咄嗟の判断の連続と身体的衝撃、矢継ぎ早に飛んでくるノイズがかったイタリア語の音声と車内を包み込みつつある煙と未知のことに囲まれていたので「外に出よう」という発想はなかった。扉を開けられて、引っ張られて、初めて「外に出なきゃ」と思うことができた。
外に引っ張り出されたタイミングで「もし車が爆発してパスポートが燃えたらやばいじゃん」とようやく思考が平常時に戻る。助手席から貴重品を回収。イタリア人がボンネットを開けて何やら大事そうな配線を切ったりするのを眺める。あれ、未だにわかってないのだけど何だったんだろう。
「まずは現地警察を呼ぼう」
と事件現場のすぐ近くに住んでいたイタリア人が警察の番号を調べてかけてくれる。「10分で向かうよ」という言葉をもらい、我々は、というか集まってきたイタリア人たちは現場検証を始めた。僕はぼーっとしていた。
これは数分経ってから気がついたことなのですが、どうも右前輪が壊れたらしい。空気が全部なくなって、車体のバランスが崩れて、ハンドルが効かなくなって、道路から落ちた。
自ら落ちるならともかく、この手の事態に無自覚に遭遇すると起きるのは「現状が把握できない」という当惑。なぜ落ちたのかわからない。落ちるとき何回回ったのか。どこをぶつけたのか。自分と車はどういう状態なのか。何が自分の過失だったのか。
当初はパンクを疑っていたのですが、どうも調べているとバーストらしい。パンクは徐々に空気が抜けて、バーストは一気に空気が抜ける。
この動画だとハンドルを切って急ブレーキをかけているけれど、僕はハンドルを切って道から落ちている。大体こんな感じだった。
この車は半回転しているけれど、概ねこれに近い。バースト直後に車がガタガタ言っていたかは覚えていない。
幸いだったのは車の窓が割れなかったこと。そして大きな車、すなわち頑丈な車だったこと。車体はボロボロになっていたけれど、ガラスが割れなかったから打傷だけで済んだ。もし窓が割れていたら見た目的にも金銭的にも大変なことになっていたと思う。
先に駆けつけたのはレッカー車
その後は近所に住むイタリア人がお手洗いを貸してくれたりとだいぶ待っていたのだけどいつまで経っても警察は来ない。20分位経った頃に読んだ覚えのないレッカー車が来る。
たった2人で手際よく車を回収していくだけど、ここで頭を過るのは「果たして警察が現場検証する前に車を回収して良いのか?」という疑問。
日本人的感覚からすると、まずは警察という第三者を介した現場の分析と、責任の采配。今回の主役である車を持って行ってしまったらそれができないじゃない。
助けてくたイタリア人や業者に拙いイタリア語で抗議するも帰ってくる答えは「Meglio di no. (来ないならその方がいい)」。
「えー、そんなことあるんかい」って思いつつ渋々承諾。事件から1時間経ちつつある現場にいつまで経っても来ない警察に電話で抗議する語学力は僕にはない。
と言っても(もう走ることはできない)車を回収されてしまってはいよいよ僕も何もできない。車がなくては寒さを凌ぐこともできない。そしてここはちょー田舎。何をするにせよとにかく移動しなくては始まらない。ということでレッカー車に同乗させてもらう。
初めて乗る乗り物にちょっとだけワクワクしつつ「ワイナリー訪問から一転、めちゃくちゃめんどくさい旅になるぞ」と予感した。
事後処理(1)
実は事故が起きて警察に電話した後、ちゃんとレンタカー会社にも電話したんです。車両の回収とか、保険の連絡とか、代替車の手配とか色々あるだろうと思って。そしたら「警察の到着を待って」と言われてたんですよ。来なかったけど。だからレッカー車のオフィスに着いてからもう一度電話したんです。曰く、
あなたが利用したレッカー会社は契約していない会社だから私たちが費用を支払うことはできない
この場はあなたが支払って、Invoiceをもらってくれれば後で返金する
あなたのいる場所はミラノから遠いから代替車を手配することはできない。ミラノまで来れば手配できる
ミラノまでは自力で帰ってこい。電車でもタクシーでもかかった費用は後で返金する
「オーッと、その建て替えをする保証は一体どこにあるんだい?」と思いつつも、それを追求するだけの余裕も語学力も当然ない。僕の英語もたどたどしいけれど、相手の英語もたどたどしい(後に、英語で相手をしてもらえるだけマシだったと判明する)。いずれにせよこれ以上の条件を引き出せる気はしなかったので泣く泣く条件を飲むことにする。オーケー。見知らぬ土地、英語もほとんど通じない土地から、ひとりでミラノに帰るぜ。
そこからはまあ頑張って帰っただけなんですけど、たまたまその会社に来ていた英語の話せるイタリア人が「駅まで送ろうか?」と言ってくれて乗せてもらって、チケット買って。寒さに震えながら電車を乗り換えてボローニャまで。ボローニャにさえ来てしまえばどうにでもなる。鈍行で帰るのが安いに決まってるのだけど、「返金されるし!」と信じて特急を買ってミラノまで帰った。合わせて5時間。事件起きたのが14時半。晩御飯とか諸々含めてミラノに着いた21時。
ワイナリーに遊びに行くはずがとんだ破天荒電車旅feat.交通事故になってしまったので帰りは行ったことのないお店でワインを飲みました。
事後処理(2)
終わった感あったと思うのですが、まだ続いています。
朝、ゆっくり起きると体の各所に痛みを感じる。「ん〜」と思いつつ、まずはイタリア入国時に加入している日本の保険会社に電話。曰く「交通事故に遭うと後から痛みが来るから通院をオススメします」と。言われてみれば昨日痛まなかったところが痛むぞ。。。
病院は通うことを決断し、ひとまず傍に置く。
もう一つこなさなければならない事後処理があるのです。
やってきたは2日ぶりのB-Rentオフィス。オフィスに行ったときは返却時刻を過ぎていたのですが(だから電話もかかってきたけれど)、こちとら返却するものは何一つない。
事情を一通り説明すると「OK。ならAgreementはこれでおしまいね」みたいなことを言われる。いや、終わってない終わってない。
「オフィスに来れば諸々の費用は返金される、って言われたのだけど」
「ここは貸出・返却しかやってないからできないわ。カスタマーセンターに電話してね」
文句を言いたい気持ちを抑えつつ、「でもまあ、これがイタリア」と思いながらカスタマーサービスに電話する。
「Hello」
「(電話を切る音)」
おい。
「Buongiorno. Posso parlare inglese?(英語で話せますか?)」
「Un attimo(ちょっと待って). ツーツーツー (永遠に続く保留音)」
おい。
オフィスの人に「電話に出ない」と文句を言うと「かけ続けて」と言われる。
仕方なしにその後その場で1時間コールし続けたのだけどマジで出ない。
流石に痺れを切らして「1時間かけても出ないんだけど」とスマホの画面を見せながら文句を言うと「今はランチタイムだね」と仰いやがる。
「僕がここで1時間電話かけ続けてたの知ってるだろう。なんで言わないんだよ」と文句を言いたい気持ちを抑えつつ、「でもまあ、これがイタリア。知らない僕が悪い」とランチタイムが終わるまでさらに10分ほど待ちながら電話。スピーカーフォンにして「Buongirno. Posso parlare inglese?」と聞くもまたもUn attimo。オフィスの店員もようやく事態を理解してくれて「この名刺のメールアドレスからも連絡できるよ」と教えてくれる。「おい、それ送っても永遠に返事が来ないメールアドレスじゃね?」と思いつつも「でもまあ、これがイタリア」と仕方なく英語とイタリア語でクレームを書いてようやく店を出る。
ヒーロー(業者)は遅れてやってくる
ちょっと気分でも変えるか〜と気になっていたお店でワインを物色していたらSMS。
ん?今更?と思いつつ、何かの間違いだろうと無視。少し経ってから知らない番号から電話が。
「Pronto?(もしもし)」
「Ciao Hiroshi Dove sei?(やあ、ひろし。今はどこにいるの?)」
「A Milano(ミラノだよ)」
どうも要領をよく得ない。
どうやらこの人たちはレッカー業車らしく。車を回収したいらしい。一体どういう時系列で生きているんだ?
車は(提携先ではない業者によって)24時間前にすでに回収されている。
もし業者が24時間後に動き出したとするならそれはそれで遅すぎる(「どこにいるの」って事故った車に僕が付きっきりでいると思っているのか)。
僕の名前は共有されているのに、事態がどういう落ち着き方をしたのかまでは共有されていない。
どんなガサツな連携やねん。
「でもまあ、それがイタリア」と昨日お世話になったレッカー会社の住所を調べていたら電話が切れた。
もう、一体、何がどうなってるのーーー!!!
*イタリア初の通院編に続きます(たぶん
Grazie per leggere. Ci vediamo. 読んでくれてありがとう。また会おう!