絵本『流れ星になったイルカ』
プラネタリウムがなく、高層ビルのランプもなく、空がごきげんななめなころ、イルカは首をうんと伸ばして海上で息をした。海の揺らぎを、星として眺めるために。
モグラではなく、イルカだよ。
キリンを知らないイルカは、せめてクジラになってやろうと海の星に誓った。きらめく流星群のなかを堂々と泳ぎたいのだ。仲間なのに、境界線を引いたのはニンゲンだ。アフリカの地図と同じ暴力が、はるか彼方で行使されたらしい。
クジラになれない、イルカだよ。
かつてイルカには足があった。陸に戻らず、海に潜らない生活をえらんだ。ヒトではなく、サカナでもない。もしかしたらチューリングテストでは、何モノにでもなれる。イルカは賢く、賢いから独りだ。
どっちつかずな、イルカだよ。
52ヘルツって聞こえるかい。知らないよ、偉人を追ってたらキリがないね。イルカは自身を抱きしめてやりたかったけれど、腕はとうに捨ててしまっていた。代わりに鼻をくん、と鳴らした。イルカの鼻はつややかだ。海の星を愛しているから。それでもにおいには鈍感で、だから世界へあいさつできる。
おはよう、ボクはイルカだよ。
空衣