『ジェントルメン』

最近では『キング・アーサー』、『アラジン』など、いまいちらしくない作品が続いたガイ・リッチー監督。イギリスを舞台にした『ジェントルメン』は演出こそは違えど久しぶりに味わえた『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』や『スナッチ』の系譜のクライム・ムービーで、踏み込めば酒やタバコ(葉巻)にこだわりがあり、奥行き深い作品を作り上げた!

 

主人公である麻薬王ミッキーを中心に、イギリスの貴族やアメリカの富豪、中国ギャングにスラム出身の格闘技集団、マスコミに探偵を巻き込んだ男たちの群像劇だが、タイトルから「ジェントルメン」=紳士という部分を強く意識し、ヴァイオレンス描写を極力抑え、交渉や脅しなど手順を踏んだ会話で展開する。会話ばかりだと地味になるから随所に探偵フレッチャーによる妄想でのヴァイオレンスやレイモンドや格闘技集団トドラーズといった実行部隊のアクションを入れ、飽きさせない。

 

麻薬、銃、ギャングなど悪徳が渦巻く中でそれ以上に情報と情報拡散による脅威をふんだんに盛り込んだあたりは現代的。下世話なタブロイド紙の編集長とそれ以上に下衆なパパラッチのような探偵といった古典的なものから、動画配信やSNSといった21世紀のツールを同居させ、ガイ・リッチー監督のクライム・ムービー系の作品を新鮮にさせた。

 

冒頭のシーンから過去に遡って主人公ミッキーの視点でドラマを展開するのではなくて、探偵のフレッチャーがミッキーの部下のレイモンドにミッキーとミッキー周辺についてのこれまでを語るという体で展開し、この手法にオーソン・ウェルズ監督作品『市民ケーン』の影響が感じ取れる。他者の視点からの目線、語り口や巻き戻しや書き込みによる演出などからも伺えるし、やや脇ではあるが新聞社も絡むし、新聞王を麻薬王に置き換えたとも考えられる。

 

 

冒頭のビールの銘柄からパブ、ミッキーやマシューが吸ってた葉巻やフレッチャーが加えてたシガリロ、ミッキーが訪れた貴族の邸宅で振る舞われた紅茶のカップなど、あらゆる小道具にこだわりがあり、また新旧、国籍を問わずかけるロックのチョイスも絶妙。根本的にはガイ・リッチー監督の原点回帰なんだけど、それだけで終わらせず、ガイ・リッチーの粋なセンスをそこここに感じ取れる。英国風味が香り高い、大人の円熟の味わいを堪能せよ!

 

 

評価:★★★★★

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