『騙し絵の牙』
新型コロナウイルスの影響で延期に延期を重ねながらも、ようやく公開にこぎつけた吉田大八監督・脚本作『騙し絵の牙』。終盤はコンゲームの様相がありながらも、専務派と常務派による一族経営の出版社の社内派閥争いが主で、『桐島、部活やめるってよ』とまではいかないが吉田大八監督らしい群像劇に企業ドラマを上手くミックスしている。
松岡茉優が演じる新米編集部員の高野恵の奮闘・成長物語を軸に、カルチャー誌「トリニティー」の編集長・速水があれやこれやの策で引っ掻き回す。近くでは会社の看板雑誌である小説雑誌との争いがあって、そのバックには専務、常務に先代社長の息子の権力闘争が見られ、一族経営の大手出版社の内幕を描く。
さらにはネットやオンライン販売に押され気味の出版社・書店小売業界の斜陽をもとらえ、社会派の側面も見られる。
コンゲームとしては新進気鋭の作家・矢代聖に関するしかけと、終盤のあるメインキャラのしかけがメインで、ダイナミズムとリアリズムには欠けるがそこそこ楽しめはする。
コンゲームの部分で過度に期待しちゃうと一番騙されるのは映画を見る観客だったりするので、ほどほどの期待で見れば大泉洋と松岡茉優のドタバタ大手出版社劇と見ればいいかな。吉田大八監督作品としても『桐島〜』ほどではないが、最近の作品では一番手応えがあるかな。
評価:★★★★