『ばるぼら』

70年代に「ビッグコミック」で連載していた手塚治虫の原作漫画「ばるぼら」は恥ずかしながら今回の映画化まで知らなかったが、予告編やフライヤーで見た本作の妖しいイメージにそそられて見てみた『ばるぼら』。すると、二階堂ふみの思い切りがいいエロさと、稲垣吾郎が演じる主人公・美倉が堕ちていく様子が退廃美として心地好く、不思議で重い大人の手塚治虫ワールドが再現されていた!

 

パンフレットの真ん中に「ばるぼら」の原作のごく一部が見られるが、二階堂ふみが演じたばるぼらは原作のイメージにぴったりで、飲んだくれでボロボロな格好ながら綺麗という不思議な魅力がある。キャラクターキャラクターも言わば不思議ちゃんで、要は稲垣吾郎が演じるナルシストな小説家が不思議ちゃんにハマって、本人はそれで気持ち良くもあるが端から見るとばるぼらと同様にボロボロになって堕ちている。

 

これに加え、美倉自身も虚実が入り混じった世界観に陥り、ばるぼらの母との黒ミサのシーンはまるで『ミッドサマー』のような摩訶不思議な様相がめくりめく。

これにウォン・カーウェイ監督作品のカメラマンで知られるクリストファー・ドイルの撮影で、東京の新宿周辺の裏ぶれた都会を撮り、本作の世界観にぴったりな映像美を見せる。

エロい二階堂ふみに小説家が振り回される展開は、同じ二階堂ふみ主演で石井岳龍監督作品『蜜のあわれ』に通じるものがあり、この『蜜のあわれ』を見ていれば本作の展開がいくらか掴みやすい。

 

言ってしまえば、ハイレベルな「世にも奇妙な物語」で、ばるぼらや美倉のアル中描写は弱いが、実写化不可能とまで言われた手塚治虫の「ばるぼら」を息子である手塚眞監督が執念で作りあげた。不思議な世界観が掴みにくく、決して万人向けではないが、手塚眞監督と撮影監督のクリストファー・ドイル、二階堂ふみと稲垣吾郎によって作り上げられた本作は妖艶な魅力に満ち溢れている。

 

評価:★★★★

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