ろんそろ

本当は「アレオレ詐欺」よりも怖い、「アレオレじゃない」問題

混迷を極める現代社会の病巣に、臨床医学的な見地から軽妙洒脱な筆致で快刀乱麻にメスを入れるサブカル産業医・大室正志と、特にメスは入れていない朝倉祐介による、内角高めギリギリストライクゾーンを狙った新春放談企画。
第3回は初回の「なぜ人はプロフィールを盛るのか」というテーマから派生して、「アレオレ問題」と「アレオレじゃない問題」についてああだこうだ言った挙げ句、「盛り問題」に対する最終結論を提示しています。
ディスクレーマー:なお、最後までお読みいただいても、特に得るものはありません。
本稿は「論語と算盤と私とVoicy」の放送を加筆修正した内容です。

(編集:代 麻理子)

幸いなる哉、「アレオレ」続出プロジェクトは

朝倉:前々回前回と、「プロフィール盛り盛り問題」について話しましたけれど、それに関連して、「アレオレ問題」ってあるじゃないですか。

大室:はい。

朝倉:一般的に嫌がられるやつですね。成功したプロジェクトについて、「アレ、俺がやったんだよね」と自慢するという話。今回は、この「アレオレ問題」について考えてみたいと思います。

大室:はい。

朝倉:前々回かな?「俺がR25やホットペッパーを作った」と主張する方、世の中に何十人もいるんじゃねーか、という話をしましたよね。ただね、考えてみると、こういう大成功した事業やプロジェクトって、一人の人間の力だけで成し遂げたのでは当然ないわけですよね。マネジメントとして関わって成功に導いた人もいるし、現場をかけずり回って貢献した人もいるわけだし。
そう考えると、みんながみんな「アレをやったのは俺なんだ」という自負を持ち、胸を張って言えることって、実はとても幸福なことだし、素晴らしいことなんじゃないかなとも思うわけですよ。
ややもすると、「アレオレ」って揶揄気味に取り沙汰されるわけですけども、冷静に考えると実際のプロジェクトってそういう風に多くの人が関わって回っているもんだよねと思うし、みんなが誇りにすればいいじゃないかと思うんですよね。

大室:例えば今、前田裕二さんの「メモの魔力」がすごく売れてるけれど、タイトルから何からみんなに募集をしたりして、巻き込んでいくというところがあるじゃないですか。「アレオレ」とは言わないけれど、あの本に関わったっていうことが、オーナーシップっていうか、非常にみんなのドライブになるっていうことをあえてやっているという。

朝倉:そうかぁ、あえて良い意味での「アレオレ」を作ってるんですね。例えばサロンなんかに参加している人達も、自分たちがプロジェクトの推進に協力することで、こういったものが生まれたんだっていう実感が持てるんだろうね。それはいいことだよね。
一種のファンマーケティング、コミュニティマーケティングの実践だと。

渡辺淳一に見る、アレオレの流刑地

大室:うん。これは言っていいのか分からないんですが……。

朝倉:言っちゃえ言っちゃえ!

大室:色んな人から聞いたので、裏は取れているので本当だと思うんですが、渡辺淳一さんっているじゃないですか。

朝倉:はい。『失楽園』の著者の。

大室:『失楽園』って主人公は初老に差し掛かった編集者で、カルチャーセンターで出会った書道の講師とのW不倫が描かれてるんです。渡辺さんが編集者の人に、「実はあの小説のモデルは君なんだよ」って言うと、言われた人はみんな喜ぶらしいんですよ。ちょいワル的なモテというか、僕らの世代より少し上の方達ってそういうの好きな人多いじゃないですか。物語の中で、主人公が温泉旅館に行ったりするんだけど、渡辺さんが編集者に「あれは君を見てて思いついたんだ」って言うらしい。

朝倉:そう言われたら、言われた人はうっとりしちゃうんだろうね。

大室:でもね、そのこと何人からも聞いてるんですよ(笑)。つまり色んな人に言っている可能性が高い。けど、そうすると、言われた人はみんな渡辺さんのファンになって、「渡辺さんの本は一生懸命売ろう!原稿頼みに行こう!」っていう心理になるらしいんだよね。

朝倉:なるほどね。それは罪のないおだて方ですよね。人たらしだね。

大室:作品のモデルだって言われるのって、検証不可能だし、名誉じゃないですか。

朝倉:名誉だねぇ。それで言うと逆に、『ハゲタカ』の著者の真山仁さんは真逆のパターンかもな。真山さんって元々は新聞社の社会部で新聞記者をされていらした方ということもあってか、すごく丁寧に取材をされているんだよね。で、『ハゲタカ』をお書きになった際にも相当念入りに取材なさったものだから、「あの本の主人公の鷲津のモデルは俺」っていう人がいっぱいいるんだって。真山さんからしたら、特定の人物は誰もいないらしいんだけど(笑)

大室:なるほど。沢山取材をしているけど、誰かモデルがいるというわけではないんだね。

朝倉:エピソードの要素は入れていらっしゃるのかもしれないですけどね。

大室:期せずして「アレは俺なんじゃないか」ってなっているのは、すごいですよね。

頑として巻き込まない男

大室:それに比べてあなたは本当に人を巻き込まないよね(笑)

朝倉:あれ、ここで朝倉批判に向かいますか?(笑)

大室:今時の前田裕二さんとかの真っ向から逆いってるよね(笑)
少人数で会社始めて、どちらかというと巻き込み型ではなくて。B to Bだっていうのもあるかもしれないけど。

朝倉:この流れはおかしいなぁ……(笑)

大室:そのへんはどうなの?自分の中で巻き込み型じゃないやり方をしている感ある?

朝倉:ネクラだからねぇ……(笑)
僕は前田さんみたいに爽やかじゃないし、キラキラしてもいないのでね。できれば山にでもこもっていたい(笑)

大室:NewsPicksゼミの講師を前田さんや猪瀬直樹さんに混じってさせてもらったことがあるんだけど、合同の卒業イベントの時、講師が交代で話をしたんだけど、前田さんの話の時だけ会場がうっとりしてるのが分かるんだよね。自分、順番が前田さんの後だったんで、「今の話聞いてファンクラブに入会しそうになりました」って言ったもん(笑)

朝倉:うん、うっとりする。僕も前田さんと一緒にイベントに出していただいたことがあるんですけど、聞いていてうっとりすると同時に、自分がどんどんみじめになるからね。もう前田さんとは出まいと決めたね(笑)

大室:ハハハッ(笑)

朝倉:なんか悲しくなってくる(笑)ああいう華のある人と並んじゃダメだね。やっぱり、物事っていうのは、どれだけ自分の競争力を高めるかっていうことよりも、どこの土俵で勝負するかだから。苦手な場所には一切出ない!!(笑)
巻き込みって意味では、必要にかられりゃ組織のマネジメントもやるわけですけど。

大室:うん。

朝倉:ただね、いかんせん好きじゃない……(笑)
組織をマネジメントする能力を高めるのってすごく重要なテーマだと思うけど、好きじゃないし億劫だから、いかにマネジメントしないでいい環境をつくるかに全力を注ぎたいですね。

大室:そうだね、今その環境づくりに近いね。

朝倉:だけどさ、そんなことばかり言ってると、本当に忘年会とか新年会とかに声かからなくなるんだよね。それはそれで淋しいなと最近気づいたわ。

大室:なにそれ(笑)

朝倉:大人数で会うのは疲れるんだけど、無かったら無かったで寂しいぞと。誰かにちょっかいは出して欲しくなるよね(笑)
仕方ないから年末は同年代のスタートアップおじさん3人で自主忘年会したよ。

大室:一応誘っては欲しいのね。

朝倉:うん、誘っては欲しい。だからたまには山小屋から打って出なきゃいかんのだなと反省してる。

大室:一応そんな会があるよくらいは知らせて欲しいんだね。

本当は怖い「アレオレじゃない」

朝倉:で、さっきの「アレオレ問題」の話に戻りますけど、「アレオレ詐欺」って考えてみたら幸福な体験じゃないですか。みんながみんな、「自分はあのプロジェクトを成功させたんだ!」って誇れる成功体験を共有していて、それを各個人が色んなところで自分ごとの武勇伝として語っているわけじゃないですか。まぁ聞いてる方は迷惑な話かもしれないし、うざいかもしれないけど、別に大した害もないんだし、そんな細かいことをいちいち気にする必要もないじゃないかと。

大室:そうだよね。

朝倉:一番悲惨なのって、「アレオレ」じゃなくて、「アレオレじゃない」の方だよ。関与した誰もが、「いやいや、アレ俺じゃない、俺じゃないから!」って答えるやつ。これは悲惨ですよ。

大室:明らかにその人の名前が責任者に入ってたんだけど、後でコケたりしてると、「いや、アレ、俺名前入ってるけど、関わってないんだよね」っていう人結構多いよね。(笑)

朝倉:確かに、そういうこともあると思うんだけど、みんながみんなして「アレ俺関わってない」って言う状況に比べたら、「アレオレ」がたくさん出現する方がよほどいいよね。

大室:確かに、幸福は幸福だなぁ。

通天閣界隈にやたらと出没する、元すごい人

大室:あとよく人って、普段は嘘ついてるけど、酔っぱらうと段々本音が出ると一般的には言われるじゃないですか。僕結構、京成立石とか、通天閣とか西成のほうとかで立ち飲みしてるオッサンにちょっと話しかけたりするの好きなんだけど。根室行った時も漁師さんと一緒に二軒目のスナック行ったこともあるし。

朝倉:言ってたねぇ。

大室:で、そういう場所で飲んでて気づいたんだけど、「自分の人生こうじゃなかった」っていう思いがあるのか、酔っぱらう程盛る人って結構いるんですよ。

朝倉:あぁー、なるほどねぇ。

大室:だから、人は酔っ払うと本音が出てくるっていうのと逆もあるんじゃないかと思ってて。

朝倉:分かる……。本音というか、こう見られたいっていう姿がどんどん出てくるのかな?

大室:自分の願望というか、西成で出会った方は「昔は広島でこんな会社やってたんだよ」とか、すごいことをどんどん言ってくるわけ。で、「そうなんですね」って聞いてると、後で店主が「あんなんホラやで。いつも嘘ばっかりや!」とか、こっそり小さい声で教えてくれたりしてね。(笑)

朝倉:『じゃりん子チエ』の世界ね。

大室:もう本当に『じゃりん子チエ』の世界。あれはちょっとねぇ……。そう考えてみると、酔った時に人は本音が出るっていうのは嘘だわと思って。

朝倉:僕も嘘だと思いますね。

大室:本当のことよりも、自分の中に持ってる物語のほうが出てくるんだなぁと思う。

朝倉:「より盛りたい!」っていうね。

大室:そう。そういうの「酒場のフィクション」は結構多い。

最終結論:その「盛り」は人を幸せにするのか? 

朝倉:なるほどねぇ。この放談、1回目から今回の第3回目までやってきてですね、最後にリンクアンドモチベーションの麻野さんと話している形式で、大室先生に処方箋を出して頂こうかと思います。

大室:麻野さんと僕でやってるVoicy「職場の治療室」形式でね。

朝倉:そう。「盛る」ということに対して、我々はどう向き合えばいいんでしょうか?

大室:難しいなぁ……。「盛り」に対する処方箋は、「幸せに盛りましょう」ってことですかね……。

朝倉:自分自身が幸せになるように?

大室:自分自身に対してもそうだし、あと人を幸せにする「盛り方」。
例えば、「そういう経歴だったからこそこういうお金払っちゃったのに……」って人がいて、「嘘でした」ってなったら、その「盛り」はその人を幸せにしてないでしょ?だから、盛った本人も幸せで、聞いた人も幸せになるような「盛り」だったら盛っても別にいいんじゃないかなと思います。

朝倉:あるの!?そんな誰もが幸せになる盛りって(笑)

大室:あるかなぁ?(笑)

朝倉:難しいね。

大室:うん。でも、微笑ましい「盛り」ってあるよね。

朝倉:わかる。あと、謙虚さを美徳とすることと、自分を過小評価するってことは本来違うはずだよね。そこがごっちゃになっているように感じることがないこともない。誰もが自尊心と折り合いをつけられたらいいのになと思いますね。

大室:そうだね。


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