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「人的資本経営」を企業の競争力につなげるための視点とは?

 近年、「人的資本」(Human capital) という言葉が注目されています。
 従業員を資本として捉える「人的資本経営」へとシフトさせた企業が、企業の競争力に磨きをかけている背景が影響しているためです。
 しかし「人的資本経営は広い概念で理解できない」「具体的に何に着手すればいいか分からない」という声も一定数あります。

 今回は人的資本経営が注目されている背景を踏まえ、競争力の源泉につなげるための施策のヒントについて解説します。

「人的資本経営」が注目される背景を紐解く

 人的資本という概念は新しいものではなく、一説では18世紀イギリスの産業革命時代にさかのぼるともいわれます。
 欧州をはじめとした海外では2017年以降、企業に人的資本に関する情報開示が義務付けられるなど、人的資本経営を導入する動きが先行しています。
 日本では、2020年に経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」が通称『人材版伊藤レポート』と呼ばれる報告書を公表したことで、企業にも取り組みの波が広がっていきました。
 従来の日本企業は、従業員を「人的資源」(Human resource) と捉え、採用や教育費などは「費用」とする考え方が大半でした。経済産業省の提言で注目すべきは、従業員を「人的資本」(Human capital) と定義している点です。
 資本である従業員に対して適切な「投資」を行うことで、現在よりも高い企業価値を生み出し、結果として企業優位性の源泉につなげる考え方です。

人的資本経営の本来の目的とは?

 人的資本経営の目的は、“教科書的”に表現すると「企業ブランディングの向上」や「投資家からの支援」などといわれてます。
 しかしさらにシンプルに目的を突き詰めると「現在の従業員全員が各々の持てる力を100%発揮したら、確実に企業の競争力が上がり、利益に貢献する」に尽きるでしょう。
 さらに「従業員が100%の力を発揮するための施策を、会社として盤石に実施しているでしょうか?」という問いへの答えが、人的資本経営の中身に他なりません。
 この問いに、現在の日本企業のどれほどが自信を持ってYESと答えられるでしょうか。
 さまざまな取り組み方法はあるかと思いますが、企業の経営層自身がこのシンプルな目的に賛同し、問いに対しての施策を真摯に実施できるかどうかが、人的資本経営の真髄といえます。

人的資本経営への3つの示唆

 そうはいっても、今から人的資本経営に取り組もうと思われている経営層や人事の方は「何から着手すればよいのか」と困ることもあるかもしれません。
 今回は、経済産業省が提示しているフレームに則り、3つの観点について紹介します。

経営戦略と人材戦略の連動
 人材戦略は経営戦略と切り離して、独自で策定している企業は案外多いものです。人的資本経営は経営戦略に紐づいて「必要な人材数」「必要なスキル」などを設定することが不可欠です。

As is – To beギャップの定量把握
 取り組むべき課題とは、現在 (As is) と目指すべき姿 (To be) とのギャップを埋めることです。漠然とギャップを捉えるのではなく、定量的に把握できる状態でなければいけません。

企業文化への定着
 企業文化は人的資本経営を推進した結果として醸成されるものです。単発で施策を実行するのではなく、人材を生かす自然な風土として浸透することまで見据える必要があります。

どれだけ人的資本経営を“当たり前”にできるか

 人的資本経営はややもすると「流行り言葉」的になり、当面の施策を実施して安心してしまう企業が少なくないのも実態です。
 日本企業では昔から「社風」という、企業に人格を付与するような独自の価値文化があります。江戸の商人の精神に始まり、時代の変遷を受けながら、日本独自の社風文化は発展してきました。
 その社風の礎を形成しているのは間違いなく従業員一人ひとりです。
 そう考えると、人的資本経営は決して流行りの概念ではありません。むしろ日本企業にとっては“古くて新しい”ような概念です。
 企業競争力に直結するような秘策はないものかと考えている方こそ、目の前にいる従業員の可能性に目を向けてみてはいかがでしょうか。

執筆:JOB Scope 編集部