見出し画像

【第1回|デザイン思考を学ぶ】デザイン思考とは何か

いかに優れた顧客体験価値を創造できるかが企業の運命を左右する。しかし、従来のマーケティング手法では、真の意味での顧客体験価値を創造できない。顧客を理解・共感し、顧客の視点に立ってこそ、顧客体験価値は創造できる。
第1回目はビジネスにおいて「なぜデザイン思考が必要なのか?」、そして「デザイン思考とは何か?」について説明する。

1. デザイン思考はなぜ必要なのか?

1-1. 価値観の二極化が進む日本

コロナ禍を背景に、日本でも価値観の二極化が加速している。節約するモノとお金をかけるモノとをはっきりと使い分ける価値観の二極化である(日本経済新聞 2021年)。コロナによる経済危機は長期間に及び家計の支出に影響を与えている。顧客は節約の意識が高まっており、基本的には低価格製品を試し、その品質に満足できることを発見して、低価格品を継続的に利用する。一方、こだわりがある場合など一部の消費については高価格を支払う傾向が強まっている。

1-2. 「顧客体験価値」の創出が競争優位を築く

このトレンドに適応するために、企業はコストリーダーシップ戦略か顧客体験戦略のどちらかを追求する必要がある。低コストの供給者は商品(製品・サービス)の本来価値(機能的価値)を重視する。すなわち余計なものを取り除き、品質面では全く妥協していないと人々に確信させながら、中核的便益を強化する。一方、プレミアム価格ブランドはオファリングの付帯価値を強化することに力を入れる。ここでは顧客体験のイノベーションが肝心である(コトラーのマーケティング5.0)。
しかしながら、コストリーダーシップ戦略の場合、新たな商品(製品・サービス)を提供しても、競合の追随を受けすぐに商品がコモディティ化してしまう。もはや商品の機能的価値の訴求のみでは、消費者に選んでもらえなくなってきているのである。そこで、企業は差別化を図るため「機能的価値」に加え「感情的価値・自己表現価値・社会的価値」を含む「顧客体験価値」を構築、訴求することが求められている。

顧客体験価値体系

1-3. 従来型マーケティング手法では新たな「顧客体験価値」の創造は難しい

従来型のマーケティング手法と言うと、STP(Segmentation、Targeting、Positioning)を整理し、4P(Price、Product、Place、Promotion)に落とし込んでいくプロセスを踏む。大まかな流れは以下の通りである。
①Segmentation
統計的属性、地理的属性、行動属性、心理的属性などの観点からユーザを細分化する
②Targeting
自社がターゲットとするセグメントを定める
③Positioning
対象セグメント内で競合他社との差別化要素を考慮し自社の位置づけを定める。
④4P(製品戦略)
STPにより自社のターゲットセグメントとポジションが決まれば、その方針に基づき、どういった機能・性能を備えた商品にするか(Product)、価格はいくらにするか(Price)、販売チャネルはどうするか(Place)、広告はどのように行うか(Promotion)と、具体的な検討項目に落とし込む。

しかし、この従来型のマーケティング手法では、新たな顧客体験価値の創造は生まれづらいことが指摘されている。クレイトン・クリステンセンは『Marketing Malpractice』邦訳『セグメンテーションという悪弊』(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2006年6月号)の中で下記のように述べている。

駆け出しの部長が、学生時代に経営大学院で教え込まれ、現在は優良企業の営業部で実践している現状の顧客分類法
実はこれこそが新製品を生み出すためのイノベーションが恐ろしく勝算の低いギャンブルと化してしまった主因に他ならない。

また、クレイトン・クリステンセンは『ジョブ理論』の中でミルクシェイクのエピソードを用いてこの問題を指摘している。

調査チームは同時に興味深い発見をした。ミルクシェイクを買う人たちに、いわゆる人口統計学的な共通要素がなかったことだ。そして共通点はただ単に、午前中に解決したいジョブがあることのみだった。

そこで近年注目されている手法が「デザイン思考」である。

1-4. デザイン思考は新たな「顧客体験価値」を創造する思考ツールである

そもそもデザイン思考とは何か。
まず「デザイン(=design)」とは「de(否定)+sign(印、符号、記号)」という成り立ちから、現在の枠組みを否定し、新たに枠組みを設計することであると捉えることができる。
次いで、デザイン思考によって創出する対象である顧客体験とは、①一定期間にわたる顧客の言動、思考、感情の総体であり、②個人の主観的な認識であり、③その時々の状況(文脈)に依存するものである。
つまり、デザイン思考とは顧客視点で価値を捉えなおし、人間中心を原則に体験を再構築することを目的とした思考ツールと言える。

2. デザイン思考のプロセス

スタンフォード大学のd.schoolではデザイン思考を5つのステップで定義している(デザイン思考)。

デザイン思考の5つのステップ

①共感(Empathize)
観察対象者の感覚にできる限り近づき、広義の意味での観察(=「観る(Watching)、聴く(asking)、試す(Doing)、読み込む(Reading)、真似る(Reflecting)」)を通じて、観察対象者に共感する
観察は複数回繰り返すことで共感の水準を引き上げていく

②問題定義(Define)
人間視点で問題を発見・定義し、POV(Point of View)を活用し問題を整理する。

③アイデア創造(Ideate)
4つの事項に留意し、人間中心に問題解決を図るためのアイデアを考える。

  •  人間の観察から得られた問題を解決する

  •  いきなり問題が解決された製品・サービスのアイデアを考えるのではなく、問題を解決する体験を考察する

  •  その体験アイデアを実現できる手段のアイデアを考察する

  •  「アイデアを生み出す行動=拡散」と「評価・選択する行動=収束」は分けて行う

④試作(Prototype)
体験のプロトタイプには、体験を可視化するストーリーボード、カスタマージャーニーマップがあり、また体験を実現する手段を可視化するフィジカル・プロトタイプがある

⑤実証(Test)
ユーザ調査を行い、試作したアイデアに対しての顧客の反応を伺い、上市するかを判断する

5つのプロセス(詳細)

3. 引用

  1. 日本経済新聞 2021年『加速する消費の二極化 試される付加価値戦略』(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD24DL30U1A620C2000000/

  2. フィリップコトラー著『コトラーのマーケティング5.0』「二極化した社会」

  3. クレイトン・M・クリステンセン著『ジョブ理論』

  4. クレイトン・M・クリステンセン共著『Marketing Malpractice』
    邦訳『セグメンテーションという悪弊』(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2006年6月号

  5. 廣田章光著『デザイン思考(マインドセット+スキルセット)』














































































いいなと思ったら応援しよう!