ただ、総務になってみたかった女
「将来の夢は、アイスクリーム屋さん!」
幼い頃、私には数えきれないくらいの夢があった。
アイスクリーム屋、イルカショーの人、ネイリスト、エステティシャン。。。
メモ用紙にいくつも書き出しては、決めきれないなぁ、、なんて思ってた。
それが、小学校高学年の頃になると、気づけば「どっかの会社のOLかな。」に変わっていた。
一体なにがあったんだよって話。
そこから、たいして夢はブレなかった。
まぁ公務員ってのも安定って聞くしいいかな~とか思って、
大学2年の頃に公務員講座の説明会に行ってみたのだけど、
「物理?地理?数学?。。。」
また受験生みたいなお勉強をしないといけないと思ったら、やってられるかって思ってしまった。
あ~やめやめ。民間企業にしよっと。
民間企業なら、面接で夢語ればいいんでしょ?人柄重視でしょ?
うん、ならそっちで!って感じで、民間就職をすることに決めた。
(ナメてるような感じでほんと謝罪案件。)
やりたい事とか、たいしてなかった。
ただ、なんとなくメーカーで働いてみたいという思いがあった。
でもそれも、ものづくりに携わりたいとかではなかった。
たぶん、私がメーカーに憧れていた理由は以下のとおりで。
私は、父親が単身赴任という環境で育った。
全国に支店がある会社勤めだったからだ。
平日に父親がいないのは当たり前。普段の行動は母親と二人だった。
別にそれをイヤだと思ったことは一切ない。むしろ楽しい毎日だった。
でもたぶん、学校から帰って友達の家へ遊びに行くたび、夕方頃になるとお父さんが帰ってくるという光景を目の当たりにして、なんとなく、
「あー、将来自分が結婚する相手は、単身赴任じゃない人がいいな~」
って子供ながらに思っていたのかもしれない。
特にお気に入りだったお父さんがいて(言い方w)、その人がメーカー勤めだった。
もちろんメーカーでも転勤はあり得るけど、たぶん他の業種よりは少ないんじゃないか?それに、ものづくりに携わってる人ってなんかかっこいいな。
それで、メーカーに対する憧れが幼いながらに生まれていったと思ってる。
あとはもう、浅はかすぎる考えなもんで。
「もしかしたら、就職した先で結婚相手に出会うかもしれなくない?」
という、一部の人からしたらお前ふざけんなよと罵声を浴びせられそうな理由で、自分もメーカーに就職したいと思ったのだ。
でも実際、「将来メガバンクの人と結婚したいからそこに就職する!」と言ってる人は周りにいたし、そんなものなのかもしれない。
メーカーといっても膨大すぎるので、特に自分が興味のあるものから優先して受けていった。
最終的には行けなかったのだけど、もともとはトイレやお風呂、つまり水回りの機器に携わっているメーカーに行ってみたかった。
当然就活では、その企業で自分が何をしたいのかが重要になる。
特にやりたい事がなかったわたしは、総務部や人事部といった、
どこの会社にでもある部署で働いてみたいと思った。
シンプルに、どんな仕事をしてるのか知りたかったというのもある。
特に総務部。
総務部って、テレビドラマではいわゆる左遷先みたいな扱いで描かれることが多くて、だからこそ行ってみたかった。
「おい総務部!」「あ~それは総務に聞いて。。」
さすがにドラマの観すぎかもしれないけど、もしこんな風に雑用係のように扱われるのが総務部なのだとしたら、行きたすぎる。。。!!!そう思っていた。
でもたぶん、総務部に行きたい人ってそんなにいないだろうな。
そう思っていたのだが、就職先では案外希望者が多かった。
なんなら、同期女性の中の半数くらいが総務を希望していた。
そんな状況下ではあったが、私は晴れて念願の「総務部の女」になった。
「あなたの配属先は総務部です。」
そう言われたときの高揚感は今でも忘れられない。
今思えば、私は何者でもないただの社会の歯車になってしまいたいと思っていたんだな。
仕事に夢なんてない。ただの金を稼ぐ場所。本音を隠して過ごす場所。
あながち間違ってはいないのだけど、最初から夢と希望を持たなすぎたような気がしてる。
でも、一応、その時の小さな夢は叶えたんだよな。
ただ、総務になってみたかった女の話。
(おしまい)