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メーカーの生産管理職から農家へ転身。 TKG小川農園の薄井さんに聞く これからのライフデザイン。(第2話)

(取材・文=高玉)

今後の新時代におけるライフデザインや、サバイブしていくためのヒントについて、株式会社TKG小川農園の代表 薄井健吾(うすいけんご)さんに全3話でお話をうかがっています。

千葉県山武市にある薄井さんの農園では、おもに無農薬の「水耕栽培」という栽培法で野菜作りを行なっています。

老若男女、経験問わず、誰でも差がなく作れるところが水耕栽培のメリットですが、今回は課題や意外な販売法、未来の農業などについて深掘りしていきます。

水耕栽培は先行投資。
長い目で持続可能な働き方を。

13ハウス内

薄井さんの農園は、メインは水耕栽培ですが、実は設備費がかなりかかってしまうため、並行して普通の畑(農薬・化学肥料不使用の有機栽培)での栽培も行なっています。

水耕栽培の成功例をあまり聞かない理由は、初期投資がかかるため。そしてもう1点は「味」の問題とのこと。なぜなら畑の土で作った野菜と、水耕栽培の水で作った野菜とでは、味に差が出てくるそうです。

例えばレタスでは、土で作った場合は青々としたパリパリと噛み応えのあるレタス、水耕栽培の場合は緑が薄めで柔らかい歯ざわりのレタス、といった違いがあるそう。

また畑で作ったものと同じ値段で売ってしまうと、水耕栽培の方が設備代がかかっているので不利といった面も。水耕栽培を行う農家が少ないのは、こういった原因があるようです。しかし薄井さんは「設備費がかかっても、長い目で見たときに体に負荷がかからないほうが良い」といいます。

確かに今は若いから良くても、年を重ねたときのことを考えれば、水耕栽培への投資は持続可能な働き方につながります。

元ライターの腕の見せどころ。
ポジティブシンキングな販売法。


55宅配野菜*色補正

畑で作った野菜と水耕栽培で作った野菜との味や食感の違いについて前述しましたが、薄井さんは水耕栽培の利点を生かして販売しています。

水耕栽培で作ったものは、野菜が苦手な人には、えぐみや緑臭さがなくて食べやすい点や、農薬不使用なうえに土汚れもなく、見た目も綺麗なので、袋を開けたらそのまま食べられるといったことを売りにしています。

ネット販売では対面販売と同じように、野菜の説明をした上で買ってもらえるので、値段が高くてもこういう野菜だから高いんだと納得してもらえるそうです。 また市場に出せず捨ててしまうような形の悪いものや、不揃いのもの、端数で一袋にならないものなどは「わけあり野菜」として販売できます。育てた野菜を無駄にしない販売法です。

また販売の際には、小さい大根や人参を「ミニサイズ」と言ったり、不揃い野菜も「面白い形の野菜」というキャッチコピーにするなど、ところどころで前職の経験が生かされているのが、聞いていて興味深かったです。

水耕栽培の魅力を広めて、
インクルーシブな業界にしていきたい。

14ハウス内

労働環境の良さはもちろん、お年寄りや障害のある方、農業経験の有無など関係なく栽培できる水耕栽培。

薄井さんは水耕栽培の野菜作りを通して、農業をもっと身近なものに感じてもらい、魅力を広く伝えていきたいとお話ししてくださいました。

また、リモートワークが浸透してきた今、わざわざ家賃の高い都会に住むのではなく、地方に住み、庭で野菜を育てながら仕事をする、いわゆる兼業農家や半農半X*というスタイルが根付いてくるかもしれないといいます。

*半農半Xとは、塩見直紀氏が1990年代半ば頃から提唱した生き方で、半分は自給自足の生活を送りながら、もう半分で自分の好きなことややりたいこと、やりがいのある仕事をする生き方のこと。Xには、家庭教師、バーテンダー、プログラマーなど、さまざまな仕事が当てはまります。

そうやって、およそ8割を占める60代70代の今の農業界が、少しづつでも若手にシフトしていけば、と考えているそうです。

42作業中

長い目で水耕栽培という持続可能な方法を選び、今までの全ての経験が農業に生かされているという内容を伺ってきました。薄井さんを通して、まさに現代の新しい農家のスタイルを見た気がします。

第3話では、食料危機時代にサバイブしていくヒントや、秋の旬野菜の簡単調理法、野菜が苦手な子供へのアドバイスなどについて伺いました。サバイブするためには、目指せシティファーマー!?

(つづく)

株式会社TKG小川農園
住所:〒289-1223 千葉県山武市埴谷504
電話:050-3390-0364
URL:https://www.facebook.com/pg/tkg.ogawafarm/

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