職人というより、学究の人?鳥谷敬「明日、野球やめます」読後感想
1985年の、阪神タイガースの日本一を、小学生の頃に見てしまった頃から、まぁ野球というか、タイガースは(一時期近鉄バファローズに浮気しながら)基本応援して見ていることが多いです。
日本一以降の、いわゆる「暗黒時代」。人気があったのは「亀新フィーバー」と言われた、亀山努、新庄剛志(現・日本ハム監督)だったのですが、その頃に、和田豊さんのファンになった覚えがあります。
その頃からでしょうか、プロ野球全体を見ていて、いわゆる「いぶし銀」と言われる選手が好きな傾向が出てきたんですね。芸術的なライト前ヒットが得意だった和田さんはじめ、バント職人と言われた巨人の川相昌弘さん、力ではなく技でホームランを打つ落合博満さんといった、玄人好みする選手を中心に中学生~高校生の頃は見ていた、そんな記憶があります。
そういった子供の頃のファンは、自分が見出した頃にはすでにプロだった or活躍していた、という人が多かったのですが、自分が社会人として働きはじめた頃に、入団前から、いわゆる「鳴り物入り」で入団してくるのを「応援したい」と思ったのが、その頃導入されていた自由枠制度で、早稲田大学からタイガースに入団した鳥谷敬選手でした。
もともとのショートというポジションから、4番でホームランを量産するタイプでなく、守備の要で活躍する、いぶし銀タイプになるのは想像もできていました、実際そういう経緯で応援をした選手が、連続試合出場記録2位、50人目の2000本安打と球史に残る活躍をし、いわゆる「自分で引退に幕引きできる」までの活躍をしたのは、自分のプロ野球ファン歴でも嬉しいことでした。
そんな応援の仕方もしていたので、引退後に、最初に出されるであろう著作には、期待していたものもあります。
ただ、見るからに職人肌で、関東からやってきて、熱狂的なお祭り好きファンの多い阪神タイガースのような球団で、肌に合うのかなぁ?とか、FA取得で関東に戻るのでは?みたいなことも思っていたのですが(実は大リーグに行きたかったが、折り合いがつかなかったようです)著作を読む限り、案外タイガースの中では居心地が良かったのかな?と感じたりもしました。
読んでみての印象として、極めてロジカルにものを考える辺り、職人肌と表現される「職人」とも少し違う、観察者のような印象があります。
自分自身をも客観視して、どうすればプロとして続けられるかを自身の体を使って実験した。「職人」というよりも「学究」な印象でしょうか。
私自身は、落合博満さんの著書なども読んだことがあって、落合さんは、まさにシンプルなことを忠実に再現する、ということを目指す、プロの「職人肌」を感じるのですが、鳥谷さんは色々試して正解を導く「学究肌」ですかね。
長く続けるということで、二人とも同じようなことを追求したはずなのですが、なにかアプローチの方法が違う。実に不思議な体験でした。
他に印象に残ったのは、学究とはまた異なるところで、自分が選んだ選択に対する「責任」の話ですね。
選んだ結果失敗した場合、選択をミスしたではなく、選択を成功となるように行動するよう考える。
この辺りは、タイガース、千葉ロッテマリーンズと、プロ生活を送った中の経験から出てきた言葉のようにも感じました。
今はタイガースに関しては、毎年期待している藤浪投手や、昨年前半に強烈にインパクトを残した佐藤輝明選手も、ここ数年タイガースにいなかったスラッガータイプの選手で期待もありますが、なんか、いぶし銀のニオイのする中野拓夢選手に、今後10年のショートを期待、というのもあったりして、しばらくは楽しませて貰えそうです。