「川内有緒文庫」オープン!①/「バウル」との出会い
「Go to "Book" Travel!!」を最初のテーマに掲げて、池上ブックスタジオの棚に小さなお店をオープンしてから、1ヶ月半ほどが経ちました。
棚のテーマについては、1ヶ月ごとではちょっと急だけど、四半期に一度となるとちょっと長いかな……そんなわけで、ゆるやかな目標としては、2ヶ月に1回、入れ替えられればと思っております。というわけで、終盤を迎えた「Go to "Book" Travel!!」のテーマについて、ここで改めて記しておきたいと思います。
選書のテーマを決める際には、売りたい・届けたい本があります。今回の「Go to "Book" Travel!!」の核になったのは、川内有緒『バウルを探して〈完全版〉』(三輪舎、2020)という本です。
インドの東にあるベンガル人の国・バングラデシュ。世界でいちばん人口密度が高いとか、サイクロンの被害に遭うことが多いという情報のほかには、あまり馴染みがないという方も多いかもしれません(でも、国旗を見るとわかるように日本との縁もあり、また日本にはたくさんのバングラデシュ人がいるんですよ)。
そのバングラデシュには、何百年も前から伝承されてきた「バウル」と呼ばれる存在がいます。「吟遊詩人」と紹介されることも多いのですが、その実際の思想や伝承の在り方はなんとも複雑多様で、修行者や宗教者のようではあるけれども、そのような枠だけには収まりきらない存在のようです。またその歌も隠喩に満ちていて、容易にその真髄に触れることはできないと言われています。
そのバウルの存在について偶然知った著者・川内さんは、写真家の中川彰さんと共に、ある意味では勢いで、しかしやがてつながっていく運命に導かれるように、バングラデシュへ渡り、旅を続けていきます。不思議な縁が縁を呼び、その旅の果てに川内さんが見つけた「バウル」とは何だったのか……
私がこの本を手に入れたのは、自由が丘に新しく開店した本屋・REWINDさん。以前からSNS上で開店予定であることは知っていて、6月末のその日、初めて訪ねてみました。お店の方の意思が伝わる棚づくり、さらに美味しいクラフトビールがいただける、なんとも素敵なお店です。
ちょうど刊行されたばかりの『バウルを探して〈完全版〉』が平台に目立つように置かれていました。ホクホクとレジに持っていくと、なんと「いま、著者さんがいらっしゃってますよ」!!!
有り難く、(おそらく)本書への最初のサインをいただき、ビールを飲みつつお話をさせていただきました。
著者の川内有緒さんとお会いするのはこれが3回目。といっても、これまではトークイベントをお聞きして最後にサインをいただくだけのことではありましたが。そして、5年前に初めて聞きにいったトークも、実はこの『バウルを探して』がテーマのものだったのです。
『バウルを探して』は、本としてはちょっと特殊な経緯を辿っています。
はじめは、2013年に幻冬舎から単行本として刊行され、2年後にはやや書名を変えて文庫化されました(私が手にしたのはこのタイミングでした)。ここまでは本の世界ではごく一般的な流れです。新田次郎文学賞受賞という評価を得て、また川内有緒という書き手の存在を知らしめたという意味で、一定の役割を十分に果たした本だと考えられるでしょう。
でも、それでもう十分なのだろうか? 本にそのような“賞味期限”があるものなのだろうか? 『バウルを探して』はもっと読まれることを待っているのではないか?――川内さんにはそのような思いがありました。そして何よりも、川内さん自身にとって、『バウルを探して』はまだ最後まで完成していなかったのでしょう。
こうして、さまざまな人の縁がつながり、2020年初夏、『バウルを探して』は新たに姿を変えて、みたび刊行されることになりました。
後日改めて書こうと思っていますが、川内さんの文章には、描かれたその世界に読み手をぐっと引き込む力があります。初めて『バウルの歌を探しに』(文庫版)を読んだとき、すごい書き手がいるものだと驚嘆し、たちまち引きつけられました(日記の日付を見ると、刊行後すぐに読み、そしてすぐにトークイベントに伺ったようです)。
そして今回、改めて開いた『バウルを探して』は、やはりその文章に変わらず力が溢れていました。しかし同時に、これまでの本とはまったく別のものになっていました。
前半に収められた中川彰さんの写真の存在感が非常に濃密で、さらに細部までこだわってつくられた装丁も相まって、この小さな綴じられた紙のなかに、ささやかなベンガルの世界が閉じ込められているかのようです(かつてバングラデシュを訪れたことがある私としては、なおのこと)。乾いて埃っぽいけれど、まぶしくキラキラとした空気。常に人に溢れて騒々しいけれども、どこかのんびりと穏やかな雰囲気の人々……
そんな美しい本のページをゆっくりとめくり、川内さんと中川さんの足跡を辿りながら、「バウルとは何か」ということについて思いを巡らせるーーすると次第に、まるで自分の内側に深く潜っていくような気がしてくるのです。バウルについて考えるということ自体が、とても哲学的な営みなのではないかと思います。
「あなたのなかにバウルはいるのだよ。こうして私を探しにきたのだから」
旅の途中で出会う一人のバウルのグル(師)が言ったこの言葉の意味することを、本書を読む体験を通して、ぜひお一人お一人で考えてみていただければと思っています。
このようにして、私自身がまた出会い直した『バウルを探して』を、ぜひ多くの方に読んでほしいなと思います。また、本書におけるバングラデシュの旅に限らず、著者の川内有緒さんは、ある意味で常に「旅」に生きている人と言ってよいでしょう。そんな川内さんの他の著書も、皆さんに読んでいただきたいです。
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というわけで、さるうさぎブックスでは、明日(10/16 Fri)より、
「川内有緒文庫」始めます!
ブックスタジオの「さるうさぎブックス」の棚に、川内有緒さんがこれまで出された著書をすべて、棚に並べます。
※いずれも新刊図書です。
『パリで飯を食う』(幻冬舎文庫、2010)
※この書影は、単行本版(イースト・プレス)のものです。
『空をゆく巨人』(集英社、2018) ※すべてサイン本です!
また、川内さんも関わるブックレーベル・YAMAGOYA BOOKSから刊行された2冊のZINEも仕入れさせていただきました。
『ふとっちょのペンギンと灰色のくま 〜カリフォルニアへの旅〜』
『気づけば、キミらはそこにいた』
どちらも、通常はオンラインショップのみの取り扱いとのこと。ぜひこの機会にご覧いただければと思います。
明日からの3週間(営業日6日間)は、この「川内有緒文庫」で営業していきたいと思っております。上記の川内さんの著書のほかに、手持ちの古本で合いそうなものをアレンジしていければ。その日その日、一期一会の本棚になるかと思いますが、ぜひお楽しみいただければうれしいです。
それでは、明日からまた池上で、お待ちしております!
(※私自身は、土曜日にお店に行く予定でおります)
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