つばめにのって1200歳の木に逢いにいく
ある朝 つばめに乗って うみをわたり
瀬戸内の ちいさな島に むかいました。
ぽちゃん ぽちゃん
波うちぎわには しろい魚が およいでいて
ちいさな つばめたちが たのしそうに とびかいます。
島のこみちは あざやかなゼラニウムのお花で あふれていました。
ゼラニウムは この地の気候に とてもあうのでしょう。
島のいたるところで やさしい香りを放ちながら
すずしそうに ゆれていました。
人口約20人の このちいさな島は くるまも走らない
せまい ほそい 通路を ねこのように くぐりぬけ
ゆっくり ゆっくり さかみちを のぼります。
うみが どんどん 真下になって
島をつつむ風たちが たわわに実った びわの木たちの
あまい香りを はこんできます。
さかみちを のぼりきって けもの道へ さしかかるころ
カサカサ カサカサ
あかい何かが よこぎりました。
紅(あか)いカニが 好奇心いっぱいの 目を見開いて
わたしをじーっと みつめていました。
(カニ)「あそびにきたんな? ゆっくりしていきまいな。(讃岐弁で「遊びに来たの? ゆっくりしていってね」)」
そのとき わたしは なぜだか おばあちゃん家を
ひさしぶりにおとずれたような...
そんな心地が したのです。
近くの竹が サラサラ そよそよ
さわやかに ゆれました。
紅いカニと おしゃべりしたあと
けもの道に はいりました。
けもの道を ずんずん どんどん すすみます、と書きたいところですが
こころ躍る 野の花たちが あちらこちらに。
ぜんぜん 歩が すすまない......
なまえのわからない かわいいお花も ひっそりと さいていました。
見つけるたびに たちどまるので
そのたびに 蚊に かまれては
ちかくのドクダミを摘んで
お手当をして......
(ドクダミ)「蚊がよっけおるけん、気ぃつけまいな。うちらよっけ咲いとるけん、たっぷり揉みこみまい。(讃岐弁で「蚊がたくさんいるから気をつけてね。わたしたちたくさん咲いているから、たっぷり使って揉みこめば大丈夫だよ」)」
(心の声)「うわぁほんまに助かるわ。蚊がよっけおるけん、ここによっけ咲いてくれとん?(蚊がいっぱいいるから、ここにたくさん咲いていてくれてるの?)」
(ドクダミ)「せやで。あんたが来るんわかっとったけん、みんなして咲いて待っちょったんやがな。(そうだよ。あなたが来るのが分かっていたから、みんなで咲いて待っていたのよ)」
ひとしきり妄想....笑
足元の植物たちに わくわくしながら すすんでいくと
ぴー ひょろろろろ!
のびやかな歌声が さわやかに 頭上をかけぬけていきました。
はっと 見上げた空
トンビが 円を描いて とんでいった その先に
その大楠さんは のびのびと 立っていました。
どくだみが 群生している 原っぱを かきわけて
わたしは 1,200歳の その大楠さんに かけよりました。
「ただいま」
「おかえり」
大楠さんは おおきな腕を じゆうに ひろげ
たくさんの葉っぱを 海風に
ひらひら ぱたぱた なびかせながら
ちいさなわたしを 腕にのせて ささやきました。
しゃらしゃら さわさわ
さらさら くすくす
大楠さんの ふとい腕は あたたかくて とても頼りがいがあって
しゃらしゃら さわさわ
葉っぱたちが 海風とともに かなでる 子守唄は
さらさら くすくす
なつかしくて おだやかで とても陽気で
わたしはしばらく 樹冠をみつめながら ほんのひととき ねむりました。
大楠さんを とりかこむ いろいろな木や草たちも いっしょになって
音楽を かなでています。それぞれの音が 完全に調和して 和やかに ひとつのうたを うたっていました。
目をあけると おひさまのひかりのなかを
トンビが 三羽 ひょろろろろ と 飛び交いました。
1,200歳の 大楠さんが かたる物語
それはあまりにも 壮大で
それはまだ 言葉として
わたしのなかで熟していないけれど
それに触れて 歓喜する わたしのこころは
きっと一生 わすれないでしょう。
大楠さんは いいました。
「きみのいくところ どこでも ぼくはいる」
1,200年の時をこえて、いや、もっともっと果てしない時をこえて
おなじものが 大楠さんにも わたしのなかにも ほかのみんなのなかにも ながれている。
そして、それに触れることは いつでもできる。
どこにいても できる。
ぴー ひょろろろろ!
しゃらしゃら さわさわ
さらさら くすくす
大楠さんは 今日も うたいます。
そこにいる みんなといっしょに 音楽を かなでています。