ひとりひとり自由がある
みえない その塊(かたまり)は
まるで 鉛(なまり)のような 重量で
なげられた その塊は
ゆっくりと 音も立てず
わたしのなかへ しずんでいく
放たれた
たくさんの ことばたちは
するどく とがり
そこに のせられた 侮蔑のまなざしが
自分のなかから あふれるきもちを
ぐちゃぐちゃに まきこみながら
切り裂いていく
やわらかいもの すべてを
すくおうとしたものが
するすると 手のひらから こぼれおち
ぽたぽた さらさら
おちていく ながれていく
そこでできることは 何もなくて
ただ だまって こぼれおちるものを見つめ
息をつめて 目をとじるだけ
その塊が 切り裂いていくままに
だれかの弱みを 誘発し 攻撃する
そのうちに ひそんでいる
その性質を 自分のうちにも みつけだし
塊はさらに 熱をおびる
閉じられた かたくなな その空間では
どれだけ 調和をもとめても
まるで そよ風のように
すべてが そよそよ すりぬけていく
さらなる ことばは すべて裏目に
あげ足をとられ 反感をよびおこし
ただ 塊を おおきくするだけ
調和にはきっと 「何か」が必要
その塊を かみしめながら
1秒でも早く だいすきな木に あいたくて
夜道に怖さは 微塵(みじん)もなく
たどりついた その場所で
その木はただ 風にゆれ 葉っぱを落とした
静寂さにつつまれた その森で
さわがしいのは わたしだけ
さわがしいのは わたしだけ
「さぁもう ねるじかんだよ」
その木が そっと背中を おして
わたしはまた 夜道をあるく
岩陰に きつねのしっぽが
そっと 消えた
からだのなかの 塊は
一歩一歩
とけながら しみこんでいった
わたしのなかを ながれながら
わたしの一部になりながら
それは そっと ささやいた
「ひとりひとり 自由がある
きみにも あの子にも あのひとにも」
ひとりひとり 自由がある
そう、完全な 自由がある
どんなふうに 感じ
何を 大事にし
どんな 言葉や
行動を 選択するか
ひとりひとり 自由がある
ゆっくり しみいる
その事実を こころでもう一度つぶやいて
くもった夜空を ながめながら
見えない星に そっとささやく
ひとりひとり 自由がある
そして わたしにも 自由がある
わたしにも 完全な 自由がある。