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【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】東京品川駅近くの〝提灯殺しのガード〟『高輪橋架道橋』
東京都内にある珍スポットがとても残念な状態になっていたことが分かった。タクシーの『提灯殺しのガード』として知られていた「高輪橋架道橋」に再開発のメスが入っていたのだ。
問題の「高輪橋架道橋」は、JR山手・京浜東北線の高輪ゲートウェイ駅と品川駅の間にある。その長さは約250メートル。元々、南北に走る片側1車線の道路で、その制限高は1・5メートルほどのものだった。
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そのためトラックやワゴン車が通ることは不可能で、セダンタイプのタクシーは通ることができたが、屋根に掲げられたタクシーの表示灯である「提灯」が天井にあたってしまうことから、『提灯殺しのガード』という異名がつけられていた。
JR山手線高輪ゲートウェイ駅開設に伴う附近一帯の再開発によって、完全になくなることが決まっている。
現在、この道路の上には、西側から順に山手線、京浜東北線、東海道線、東海道新幹線が走っている。その昔は、ブルートレインで使われていた客車車両や電気機関車などを停めていた広大な車両基地があった。コンクリート橋梁になるまでは、西側部分にある山手線と京浜東北線の真下で「爆音浴」をできたことから、そっち方面のマニアも訪れるスポットだった。
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歴史も古く、明治5年に新橋~横浜間に鉄道が初めて開通した際には、水路として作られている。その後、埋め立てなどが進み、大正時代に人が通れるようになった。
「以前は、古びた鉄橋を軋ませながら長編成の車両が分刻みに頭上を通過していたんですよね。この場所は爆音マニアの『聖地』であり、手の届くような場所を通過する線路からは油臭さが漂っていました。夏は、すぐ真上を走る電車のエアコンからの水滴、冬はモーター車の生暖かい風が爆音とともに降り注いでいましたね。『五感で爆音を感じる』ことができる数少ない場所だったんですよ。コンクリート橋梁に変わってからは、こういった楽しみもなくなりました…。快適性を求める現在社会において、ここまで居心地の悪い場所がなくなってしまうことに寂しさを感じざるを得ません」(爆音浴第一人者のクロスケ氏)
とある鉄道ファンに聞くと、高輪ゲートウェイ駅の開業とともに線路の仕様変更が行われていたことが分かった。彼は、同所にブルートレインで使われていた客車車両や電気機関車などを撮りに来ていたことがある。慣れ親しんだ場所なのだ。
もうここで爆音体験をすることはできなくなってしまったが、時代の流れとともにこのようなスポットがなくなってしまうことは残念だ。
港区まちづくり支援部土木課によると、再開発の一環として、ほぼ同じ場所に「第2東西連絡道路」という名称の新しい道路が作られるのだという。完成すると片側1車線で、相互通行できるようになり、その高さは2・5メートルになる。これによって高さの低いトラックやバス、ワゴン車なども通ることが可能になる。
東京都内では、かなり有名な珍スポットとして知られていた「高輪橋架道橋」。都営地下鉄泉岳寺駅からは、2分くらいの距離になる。現在、自動車は通れなくなっているが、往時の面影は、いくばくか残されている。最近は、この噂を聞きつけた人たちが写真や映像を撮るためにやって来ているという。
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写真・文◎酒井透(サカイトオル)
東京都生まれ。写真家・近未来探険家。
小学校高学年の頃より趣味として始めた鉄道写真をきっかけとして、カメラと写真の世界にのめり込む。大学卒業後は、ザイール(現:コンゴ民主共和国)やパリなどに滞在し、ザイールのポピュラー音楽やサプール(Sapeur)を精力的に取材。帰国後は、写真週刊誌「FOCUS」(新潮社)の専属カメラマンとして5年間活動。1989年に東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(警察庁広域重要指定第117号事件)の犯人である宮崎勤をスクープ写する。
90年代からは、アフロビートの創始者でありアクティビストでもあったナイジェリアのミュージシャン フェラ・クティ(故人)やエッジの効いた人物、ラブドール、廃墟、奇祭、国内外のB級(珍)スポットなど、他の写真家が取り上げないものをテーマとして追い続けている。現在、プログラミング言語のPythonなどを学習中。今後、AI方面にシフトしていくものと考えられる。
著書に「中国B級スポットおもしろ大全」(新潮社)「未来世紀軍艦島」(ミリオン出版)、「軍艦島に行く―日本最後の絶景」(笠倉出版社 )などがある。
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