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【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】kaorububuさんの懐かしミニカー「ナショナル号」「山パン号」

「日本中を明るくしたい」


 1982年から85年にかけて生産・販売されていた光岡自動車製のミニカー(マイクロカー)「BUBU50シリーズ」(1985年11月生産終了)がXなどSNSで話題になっている。その名も「ナショナル号」!!!

見た目も可愛いBUBU501

 このミニカーに乗っているのは、関西圏で生活しているkaorububuさん(長谷川薫さん)(@kaorububu501)。自営業を営んでいるkaorububuさんは、普段からこの車に乗って仕事をすることも多い。現在、公道を走らせているのは、BUBU501とサイデスカー(生産・販売/株式会社 乗りもの館。ホンダのファミリーバイク「カレン」がベース)という車などで、「ナショナル号」、「山パン号」と命名されている。驚かされてしまうのは、昔懐かしいナショナルと山崎パンのラッピングが施されていることだ。

ナショナル号の横に立つkaorububuさん。ナショナルブランドの元となったパナソニック(旧松下電器)の前で

「BUBU501は、7~8年前に中古で買ったものです。お年を召した方は、『うわぁ~、懐かしい』と言ってくれます。今の若い方は、未来的に見えるようですね。船に積んでいる救命ボートだと思っている人もいてました。法的には「ミニカー扱い」になります。保険・税金は、ほぼ原付扱いです。車庫証明も必要ありませんし、車検もありません。ヘルメットも要りません。自動車扱いですので法定速度は60キロです。なので、二段階右折の必要もありませんね」

狭い車内にも黒電話や看板などレトロな物がいっぱい
パイプをつけて外気を取り入れている

  以前、ベンツやBMWに乗っていたこともあるというkaorububuさん。社会人経験を重ねてそれなりに蓄えもできると、どんな高級車に乗っているとか、いくら稼いだといったようなことが自慢にもなってくるが、そういう話は興味ないそうだ。

「ナショナルや山崎パンのラッピングをしたのには意味があるんです。ナショナルは、『明るいナショナル~』というCMソングがありましたよね。今の世の中、暗い話ばかりじゃないですか。数年前には、大阪でも大きな誘拐事件がありました。そんなことから、これに乗って走ることによって世の中を明るくしたかったんです。見た人が楽しくなれればいいかなって思ったんですよね。「パナソニック」(ナショナルは、パナソニックのかつての有名ブランド)の本社も大阪の門真(かどま)市にあります。「山パン号」は、2018年2月の福井豪雪のときになりますけど、山崎パンの配送車が動けなくなって、積んでいたパンを困っている人たちに配っているところがテレビで放映されました。これって人助けになっていたと思うんですよね。そこからヒントをもらっています」

サイデスカーにヤマザキパンのラッピング
後ろのフォルムも可愛らしい

 kaorububuさんからすれば、ハッタリや見栄などは、どうでもいいことになる。そのようなことにエネルギーをつぎ込むよりも、「日本中を明るくしたい」という願望がある。実際、「ナショナル号」や「山パン号」を走らせていても収入が増えることはない。道路交通法上、この手のミニカーは、普通の乗用車と同様の扱いになるのでメンテナンスも欠かせない。事故に巻き込まれてしまったり、故障してしまったりというトラブルについても考えておかなければならない。それらは、すべて自腹になる。

 年配の人なら目にしたこともある「BUBU50シリーズ」には様々なタイプが用意されていた。「BUBU501」は三輪車で、前輪が2本、後輪が1本となっている。エンジンは、ホンダのリード50(AF01)空冷式2ストローク単気筒が乗せられていた。レギュラーガソリンで走り、燃料タンクの容量は5リットル。ハンドルは、中央部分にあり、乗車定員は1名。ドアは1枚。クーラーはついていない。ちなみに1度給油しても数百円しかかからない。リッターあたり40キロも走るのだからスゴい。しかし、1985年の新道路交通法の施行によって自動二輪免許・原付免許で運転できなくなってしまった。そのことによって生産が中止されたという説もある。現在は、普通免許が必要だ。

 このようなレトロカーが今でも走っていることに 驚かされるばかりだが、さらに驚かされるのは、kaorububuさんがツイッターに投稿するようになってから、中古価格の相場が8倍くらいに跳ね上がっているということ。無理もない。全生産数は、2000台あまりで激レアな車種なのだ。
 
「もうこのところ何年も夏の暑さは異常ですよね。数年前ですが作業着屋で空調服を買いました。空気をより多く取り込めるようにファンを2個から4個にしてもらいました。それを着て、ネットの部分に保冷剤を入れるんです。これで結構涼しくなります。車にクーラーはついていないので、パイプを使って外気を取り込むようにしています(笑)」

激レア車に乗り各地のイベントに出没中!

 駐車場やスーパーの前に「ナショナル号」や「山パン号」を停めていると、子どもから大人まで大勢の人が話しかけてくるという。「日本中を明るくしたい」というkaorububuさんの思いは、SNSを中心として広がり続けている。

【耳より情報】
11月18~19日 滋賀県彦根市にある銀座商店街・中央商店街・登り町グリーン商店街で「大えびす(ゑびす)講」という地域の祭りが行われる。18日には、中央商店街にマイクロカー(原付ミニカー)を中心とした乗り物が集結。また、展示の後には、彦根城近辺でツーリングも行われる予定だ。見学無料。興味のある人は行ってみよう。

https://www.hikone-kiina.jp/info/?id=247

写真・文◎酒井透(サカイトオル)
 東京都生まれ。写真家・近未来探険家。
 小学校高学年の頃より趣味として始めた鉄道写真をきっかけとして、カメラと写真の世界にのめり込む。大学卒業後は、ザイール(現:コンゴ民主共和国)やパリなどに滞在し、ザイールのポピュラー音楽やサプール(Sapeur)を精力的に取材。帰国後は、写真週刊誌「FOCUS」(新潮社)の専属カメラマンとして5年間活動。1989年に東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(警察庁広域重要指定第117号事件)の犯人である宮崎勤をスクープ写する。
 90年代からは、アフロビートの創始者でありアクティビストでもあったナイジェリアのミュージシャン フェラ・クティ(故人)やエッジの効いた人物、ラブドール、廃墟、奇祭、国内外のB級(珍)スポットなど、他の写真家が取り上げないものをテーマとして追い続けている。現在、プログラミング言語のPythonなどを学習中。今後、AI方面にシフトしていくものと考えられる。
 著書に「中国B級スポットおもしろ大全」(新潮社)「未来世紀軍艦島」(ミリオン出版)、「軍艦島に行く―日本最後の絶景」(笠倉出版社 )などがある。

https://twitter.com/toru_sakai